始まりの世界

□初詣
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「いただきます」
という声と、
「Happy Newyear!」
とテレビから聞こえる声は同時だった。
私たちの目の前には年越し蕎麦が天ぷらを被った状態で置かれている。
バタバタしていて、年末に食べることは出来なかったが、年始に食べることは出来るのでまぁいいとして。
「ねぇアンク。いつまでそれやってるの…?」
それ、というのは、海老の天ぷらをずーっと眺める事だ。
「結希、これはなんだ?」
「天ぷらだよ…。海老の天ぷら。海老、食べた事はあるでしょ」
「比奈が出したやつは丸かったぞ」
「それは茹でたやつでしょ。これは揚げたやつ」
どうやら、揚げた状態の天ぷらを見たことは無かったらしい。
「美味いのか?」
「美味しく無かったら乗っけないって。ほら、もう食べるよ」
やっと箸を持ったアンクに安心しながら、天ぷらを一口。サクサクしていて美味しい。蕎麦も、茹で時間分、水に浸してから茹でたおかげで、香りが飛ばずに美味しく出来ていた。
「アンク、美味しい?」
「…フン、まぁまぁだな」
答えるや否や蕎麦を啜るアンク。お気に召したらしい。
「おい、お前の天ぷら、こっちに寄越せ」
返事をする間もなく、アンクに天ぷらを奪われた。
「あ、ちょっと!私まだ良いよ、なんて言ってないじゃん!」
「ハッ!ボサッとしてる奴が悪い」
アンク、勝ち誇った様な表情で笑う。
…仕返ししてやる。
「あーそー、分かった。これから1週間プレミアムアイス買うの禁止ね」
「な…!結希テメェ!」
「食べ物の恨みは恐ろしいんだぞー!思い知ったか!」
…なんで年始早々、怒鳴りあいをしているんだろうか私は…。
結希は心の内でため息をつきながら、まだ「アイス」と騒ぐアンクをスルーして蕎麦をすすった。
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