短編集

□信頼と恐怖
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「お前の中の紫のメダル、何とも無いだろうな?」
夢の中で見た映司と、目の前のコイツの目が重なる。紫色に染まっている訳でもない茶色い普通の瞳に、少しだけ安心した。
「きっちり抑えこんどけよ!」
「分かってるよ…」
何なんだよ、と落とした菷を拾いあげる映司を見て、はっと我に還る。
俺は今何を見ていた?
「馬鹿な…」
フラフラと部屋に戻ろうとするが、足がもつれて倒れそうになり、目の前の窓にしがみつく。
馬鹿な。
グリードが夢を見る筈が無い。これも人間の身体を借りているせいか。
『お前のメダル…貰うよ』
『お帰り…僕』
「…チッ」
頭の中で、映司が、オレじゃないオレが言った言葉がよぎる。
ある筈がない。映司が、オレじゃないオレと手を組むなど―
『オーズにつくべきアンクは…お前じゃない』
夢の中のオレは、抵抗出来なかった。ただ無様に跪き、怯える事しか出来なかった。
今の映司は、夢の中の映司と全く同じ事が出来る。オレを殺せる力がある。
―怖い
映司を信じて良いのか?
コイツがオレを殺す筈がない。
―信じられない
―信じられる
―信じられない
―信じられる
―信じられない
―信じられない
―信じられない―
「アンク?大丈夫?」
映司の瞳を見る。
強い意志を持った色。
オレを[分かっている]。
―信じられる
信じても…良いのか?
答えが欲しい、しかし絶対に出来ない問いかけを、アンクは心の中で繰り返した。

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