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□のんびりとしたゴールデンウィーク
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ヴィンセントは基本、ユフィの行きたい所を優先してくれる。
それは紳士精神からくるものでもあり、本当に行きたい所がなくてユフィの行きたい所に着いて行くというものでもある。
だからたまにヴィンセントがリクエストを出した場合はユフィはそれを尊重して優先しようとする。
ヴィンセントの行きたい所がどこなのか、そこで何をしたいのか単純に興味があるからだ。
しかし今回のゴールデンウィークという長期連休においてその希望は通しがたいものであった。

「どこにも行かないで家にいたいってどーいう事だよ」
「どうもこうもそのままの意味だ」

テーブルの上に置いた白紙のスケジュール帳を前に胡坐をかいているユフィは、ソファで優雅に本を読むヴィンセントを睨むようにして見上げる。
こちらの不満などまるで意に介した様子もなく、読書をやめない姿勢が腹立たしい。

「折角の休みなんだからどっか行こーよ!」
「休みはどこも混雑している」
「休日のお父さんかよ!日帰りでもいいからどっか行こーよ!」
「例えば?」
「ショッピングモールとかさ!アタシ服買いたい!」
「・・・それくらいならばいいだろう」
「近くの森とか洞窟に行ってマテリア探しは?」
「却下だ」
「えー?何でだよ〜。日帰りの範囲に留めるって約束するからさ〜」
「却下だ。それでもマテリアが欲しいというのであれば買ってやろう」
「マジで!?やった!!絶対だかんね!!」
「ああ」
「じゃあさ、じゃあさ!果物狩りとか―――」
「却下だ」
「最後まで言ってないじゃん!」
「何だろうと却下だ」
「逆に何で遠出したくないのさ?理由は?」
「遠出なら任務で散々した」
「え?あー、まぁそりゃそうだけどさぁ」

ここ最近の二人は任務で忙しなくあちらこちらに飛んでいた。
同行する事の方が多かったが別行動になる事も少しだけあった。
しかしそれが何なのだと言いたげに視線で訴えかけるとヴィンセントは尚も本に視線を落としたまま続ける。

「遠出は飽きた。お前と家にいたい」
「ふんふん、それで?」
「この家が帰って寝るだけの空間になりつつある。それでは宿屋と変わらん」
「・・・うん?」
「お前と住んでいる家をそんな風にしたくない」

ペラリ、と捲られるページと共にヴィンセントの口の端に笑みが浮かぶ。
しばらく呆気に取られていたユフィだったが、フリーズしていた脳みそが動き出すと漸くその言葉の意味を理解して変な声を出しそうになった。
付き合うまでの仲に発展してまだ半年しか経っていないが、まさかヴィンセントがユフィと共に住む家をそんな風に思ってくれていたとは。
ユフィがヴィンセントに抱くこの想いは一方的なものではないかと不安に思う日がなかった訳ではない。
けれどその不安もたった今、一瞬で消し飛んだ。
ユフィは本を持つヴィンセントの手をどかすと弾けるような笑顔でもって勢い良く首元に抱き着いた。

「仕方ないな〜!じゃあ今回のゴールデンウィークは基本家って事にしてやるよ〜!」
「悪いな、私の我儘に付き合ってもらって」
「その代わり!巣篭もりする準備には付き合ってもらうからね〜?」
「勿論だ」
「とりあえず映画とかドラマ借りてー、お菓子とかも買ってー、それから〜・・・」
「朝はどこかモーニングにでも行くか?」
「行く行く!いいとこ知ってんだよね!」
「昼はお前の作るおにぎりが食べたい」
「仕方ないな〜!ちゃんと手伝うんだぞ?」
「分かっている。夜はバーに行くでもいいな」
「おろ?ユフィちゃんの事を口説き落とすつもり?」
「それも悪くない」

つー、と背中から腰にかけてヴィンセントの細長い指が滑り降りる。
ぶるりとユフィの体が震えてポッと頬が赤くなる。
口説いたその後を想像したのであろう事は容易に分かった。
その為、ヴィンセントの笑みは益々深くなる。

「ゴールデンウィークが楽しみだな」
「うん・・・!」

ぎゅっ・・・と抱き着いてくるユフィをヴィンセントも抱きしめ返してあげるのだった。






END
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