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□イチャイチャ出来る最後の6日目
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呼吸が出来なくて眠い瞼を持ち上げた。
すると悪戯が成功した子供のように嬉しそうに目を細める恋人の顔が目の前にあった。
そこから眠っていた頭が覚醒して思考が冴えわたり、今の自分の状況を把握した。
唇の感触と息苦しさの具合からして自分は今、キスをされているのだろう。
そこまで考えてヴィンセントはそっと恋人の―――ユフィの後頭部に手を添えて深い口付けをした。

「んんっ・・・」

柔らかい唇をこじあけてぬるりと舌を忍ばせ、呼吸を奪う。
あっという間に形勢逆転し、今度はユフィの方が息苦しくなる番となる。
思う存分口腔を蹂躙して瞳に宿っていた抵抗の色が消え失せてから漸く解放してやった。

「ぷはっ!」
「・・・おはよう」
「ん・・・おはよ」
「朝食を作ってくる」
「えー?もうちょっとゴロゴロしてようよ〜」

胸元のシャツを握られて起き上がるのを阻止される。
引き止めてくる彼女はひどく幼く見えた。

「だが9時だ。いい加減起きる時間だ」
「いいじゃん別に。たまにはさ」
「ユフィ」
「だって一日の行動を開始したら今日の終わりが近付いちゃうじゃん。今日なんか始まらなくていいんだよ」

起き上がったヴィンセントの膝の上にユフィは寝転がってベッドから立てないようにしてそう言った。
なるほど、ヴィンセントと過ごせる日が今日で最後で、明日にはまた仕事で海外に行ってしまうから寂しいという事なのだろう。
納得したヴィンセントは優しく息を吐くと諫めるようにユフィの頭を撫でながら説得した。

「たとえ私達の今日が始まらなくても時間は過ぎ去っていく」
「・・・」
「それに今日という日にしがみつくよりも私の長期出張が終わった後の時間の方が長くて何でも出来るぞ」
「・・・うん」
「無駄な時間を過ごすくらいなら少しでも多く思い出の残る事をしないか?」
「こーさんでーす。アタシの負けだよ」

ユフィはニヒヒっと笑うと起き上がってヴィンセントを解放した。
その後は二人で顔を洗って朝食を作り、ソファに座ってまったりと映画を観たりゲームをして遊んだ。
楽しい時間が過ぎるのはあっという間で、気付けば一時間二時間と経っており、それを感じる度にユフィは寂しい表情を浮かべ、ヴィンセントはそんなユフィの唇に自分のそれを重ねた。
そうして時刻は夜の22時。
大きなスーツケースを開けてヴィンセントは出張の準備をしていた。
そんなヴィンセントの背中に抱き付きながらユフィがつまらなさそうに息を吐く。

「はぁ〜ぁ、もう夜だよ。時間が経つの早くない?」
「楽しい時間が過ぎるのはあっという間だとよく言うからな」
「神様がアタシたちの今この時間だけ早く進めてるんだよ。そんで授業の時間だけわざと遅くしてるんだよ」
「授業に集中していればすぐに終わる」
「先生の教え方が悪くて全然頭に入ってこなくて退屈なんだもん」
「ならば聞いているフリをして教科書を熟読するんだな。或いは予習復習をするでもいい」
「もっとつまんなーい」
「フッ・・・もしも今度の期末テストで高得点を取れたらゴールドソーサーに連れて行ってやろう」
「マジで!?」
「泊りがけでな」
「やった!!サマーイベント行きたかったんだよね!絶対だぞ〜?」
「お前が高得点を取れたらな」
「絶対取ってやるよ!だからヴィンセントは今の内に予約しておけよ〜?」
「お前も今の内にテスト勉強をしておく事だな」
「明日からやります〜」

嬉しそうに言いながらユフィが背中に頬擦りしてくる。
やれやれ、本当に高得点を取れるのか甚だ疑問だが、意外にやり遂げてしまうのがこの娘の侮れない所だ。
そうやって驚かされた事が何度かある。
ユフィ曰く、ヴィンセントはユフィを見くびり過ぎだと言うのだが、ヴィンセントからしてみれば普段が普段なのでそういう風に見てしまうのも仕方のない事なのである。

「そういえば本当にお義父さんに挨拶しなくて良いのか?」
「いいっていいって。親父もそんな固っ苦しい事しなくていいって言ってたし」
「そうか・・・宜しく伝えておいてくれ」
「あいよ〜」
「買ってきたお土産もお義父さんへの物もあるから忘れずにな」
「分かってるって」
「一応お前の好きそうな物は一通り買ってきたが他に欲しいお土産はあるか?」
「ヴィンセント」
「高くつくぞ」
「支払いはアタシのか・ら・だ・で!」
「・・・」
「オイコラ!ナントカ言えよ!!」

笑いを噛み殺して肩を震わせるとバシンと背中を叩かれた。
それが面白くなくてユフィは頬を膨らませながらわざとヴィンセントに全体重を乗せて寄りかかった。

「もういいもん!ヴィンセントが帰ってきたら色々サービスしてあげようかと思ってたけどもうしてやんないから!」
「それは残念だな」
「声のトーンが全然残念そうじゃないんだけど〜?」
「お前にサービスしてもらわなくてもこちらから仕掛けるだけだ」
「例えば?」
「紐か或いはオモチャか・・・どちらがいい?」
「変態!」

バシン!とまた強く背中を叩かれて今度は苦笑する。
それと同時に荷造りは完了し、蓋を閉めて鍵をかけるとぐるりと体ごとユフィの方を振り返って抱き上げてベッドに横たえた。
その隣に同じように横になるとすぐに子猫のようにユフィが擦り寄って甘えてくる。

「あ〜あ、もう寝る時間だよ」
「お前が寝るまで私は起きている」
「朝まで寝かせないぞ〜?」
「望む所だ」
「終わるのは半年後なんだっけ?」
「長くてな。上手くいけばもう少し早く終わる」
「んじゃぁ早く終わらせてきてよ」
「ああ」
「でも無理しないでよ?」
「分かっている。お前も体調に気を付けてな」
「うん」

ユフィの頭を撫でるようにしながらよりいっそう強く抱き寄せる。
明日からこの温もりが隣にないのだと思うとヴィンセントも寂しかった。

「なるべく連絡を入れる」
「うん・・・アタシもポンポンメッセージ入れるけど忙しかったら無視していいから」
「心外だな。遅れる事はあっても無視をした事など一度もない」
「エヘッ。そうだったね」
「そろそろ寝るぞ。明日の朝、起きれなかったら置いて行ってしまうぞ」
「こーやって服掴んでるから大丈夫だもーん」

ぎゅっとユフィはヴィンセントのシャツを強く握って幸せそうに微笑んだ。
それにつられてヴィンセントも口元を綻ばせ、静かにリモコンに手を伸ばして電気を消した。
優しい暗闇の中、二人はお互いの息遣いと体温を感じながら静かに眠りにつくのであった。












END
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