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□友達に見られた4日目
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「へー?従兄なんだ?」
「それは初耳ですね」
「そ、そう・・・?」
「・・・」

とある喫茶店でユフィは冷や汗をかき、ヴィンセントは平静を装って目を伏せてコーヒーを一口含んだ。



それは約30分前のこと。
知人の目を避けるべく、いつもの少し遠いスーパーへ買い出しに出かけた二人は買い物を終えて一服の為に喫茶店に入った。
しかしそこでユフィの友人のシェルクとその姉であり科学の教科担当をしているシャルアに出くわしてしまったのだ。
そしてやや強引な流れで相席する事となり、現在の尋問に至る。

「あ、アタシ、従兄の話した事ってなかったっけ?」
「ないです。ただの一度も」
「あぅっ・・・」
「ていうか両親共に一人っ子で従兄なんかいないと前に言っていたような気がするのですが」
「そ、そうだっけ・・・?」

早速、従兄設定の矛盾を突かれて冷や汗を滝のように流すユフィ。
やはり無理があったではないか、とヴィンセントは内心呆れるが悠長に構えている場合ではなかった。
向かい側に座る眼鏡の女性がとても興味深そうにこちらを見つめてきているのだ。

「・・・何か私の顔についているか?」
「いや?ただ従兄って言う割にはあまりしっくりこないと思ってさ」
「・・・兄妹でもあるまいし、他人から見てしっくりこないのは当然だと思うが」
「それにしても距離感がなさすぎだったと思うんだが?」

((見られてた))

ヴィンセントとユフィの心がシンクロする。
あまり嬉しくないシンクロだが。
飲み物を注文する時にユフィはヴィンセントとほぼ密着状態にあった。
遠いショッピングモールの小さな喫茶店だし大丈夫だろうと気に留めていなかったがまさか偶然そこにユフィの友達が現れてしかも見られていたとは。
やはり注意しておくべきだったと後悔するがそれも後の祭り。
ユフィが必死になってあれこれと言い訳を並べ立てようとする。

「ああああれだよ!沢山人が並んでて詰めなきゃなんなかったしさ!?」
「言うほど並んでなかったと思うけどな〜?」
「うぐっ・・・!」
「ま、従兄っていう設定は信じてあげるとして」
「せ、設定じゃないってば!!」
「やっぱり一緒にお風呂に入ったり寝たりするのか?」
「へっ!?ふ、風呂!?ベッド!?」
「ユフィ、落ち着け。ユフィが幼い頃は一緒に風呂に入ってやったり昼寝もした」
「ふーん?」

相槌は普通のトーンであるものの、シャルアの目は「上手く躱したな」とでも言いたげな様子だったがヴィンセントは気付かないフリをした。

「従兄のお兄さんとはよくこうして買い物に出掛けるんですか?」
「あ、いや、ヴィンセントは仕事で忙しいからさ、こうやってたまーにしか会えないんだよ。だからよくって程でもないかな」
「では時間が出来る度に連絡を取ってこうやって二人で会っては出掛けていると?」
「まーそんな感じ!」
「まるで恋人同士みたいですね」
「はぐぅっ!?」

図星を突かれてまたユフィが精神にダメージを受ける。
そろそろユフィが自爆する前にこの二人から離れなければ付き合っている事がバレてしまう。
たとえほぼ100%付き合っていると勘づかれていてもこちらからうっかり自白してしまうよりかはマシだ。
ヴィンセントはレシートを手に立ち上がると別れの挨拶を切り出した。

「すまないがまだ買わなければならない物があるのでこの辺で失礼させてもらう。会計は私の方で支払っておく」
「それは悪いよ。ちゃんと割り勘を―――」
「気にしなくていい。行くぞ、ユフィ」
「う、うん!じゃ、シェルク、せんせー、またね!」

二人の探るような視線から逃げるようにしてユフィも立ち上がり、ヴィンセントの後に続いて店を出て行った。







「やはり従兄には無理があったな」
「いけると思ったんだけどな〜」
「お前のお喋りが災いしたな」
「う〜る〜さ〜い〜!それよりもシェルクとシャルアには多分バレたかもな〜」
「二人の口は堅いか?」
「うん。二人はそういう事はしないよ。ただまぁしばらくは面白がられちゃうかな」
「そこは頑張れとしか言いようがないな。それからお前の両親に兄妹がいない事は他の友人にも話しているのか?」
「う〜ん、多分。話したと思う」
「ならば従兄設定はやめて遠い親戚設定に変えるしかないな。というよりも最初からこの設定で行くべきだったな」
「従兄の方が距離が近いの見られてもみんな納得してくれるかなって」
「納得するどころか疑われたぞ」
「でも遠い親戚って説明しても疑われてたよ、きっと」
「鋭い人間は何を言った所で勘づく。もうあの二人相手に何を突っ込まれても適当に流してすぐに話を打ち切れ、いいな」
「分かってるよ」

ひんやりとした空気が漂う地下駐車場に降りて二人は車に乗り込む。
もう少しヴィンセントとゆっくり買い物をしたかったのにお開きになってしまって残念に思うユフィ。
すると―――

「ユフィ」
「ん―――」

呼ばれて振り向くのと同時に後頭部に手を添えられて口付けられる。驚きで目をパチクリとさせるユフィとは対照的にヴィンセントの紅い瞳は面白そうに細められる。
そしてペロリとユフィの唇を舐めてからヴィンセントは離れた。

「デートの時間が短くなった埋め合わせだ」
「だ・・・誰かに見られてたらどーすんだよ・・・それこそシェルクとシャルアが実はこっそり見てましたなんて事にでもなったら・・・」
「どうせあの二人は気付いている。だったら構うことはない」
「さっきは何を言われても適当な所で打ち切れって言ったのに?」
「それは問い詰められた場合の話だ」
「ヴィンセントもう開き直ってるでしょ?」
「それがどうかしたか?」
「開き直りついでにもーいっかい!」

唇を突き出してキスを強請る恋人に思わず小さく吹き出し、そして同じような口付けをまたする。
先程よりも長く重ねて名残惜しそうに離れてから車は発進するのだった。









END
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