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□ドライブに行った2日目
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今日は二人でドライブ。
帰って来たばかりでまだ疲れが取れてない筈なのにヴィンセントはどこに行きたいかと尋ねてくれた。
ユフィはその言葉に甘えてドライブを希望した。
本当は買い物にも行きたかったのだが、サングラスをかけて運転するヴィンセントを横で眺めたかった。
サングラスをかけたヴィンセントは本当にカッコいいの一言に尽きるもので、いつまでも見ていられるくらいだ。
けどそんなヴィンセントには勿論色んな女性が振り返って黄色い声を上げる。
そんな人たちに向けて「ヴィンセントはアタシの彼氏だぞ!」って叫んでやりたいが立場上、それが出来ないのがとても悔しい。

「車酔いでもしたのか?」

妄想で悔しさから唇を噛んでいると不意にヴィンセントから心配するような言葉をかけられた。
そこでユフィは、折角のドライブデートで何を考えているんだと我に返り、妄想を振り切るのと否定の二つの意味を込めて首を左右に振った。

「う、うーうん!へーき!ちょっと考え事してただけ!」
「サービスエリアまでもう少し我慢してくれ」
「うん!だいじょーぶだから!」

自分とヴィンセントの現状をもどかしく思っている場合じゃない。
今は久しぶりのヴィンセントとのデートを楽しまなくては。
チラリと綺麗な横顔を盗みつつユフィはお得意のマシンガントークを始めた。

「そーいえばさ、最近学校で生徒会選挙があったんだよ。
 普通なら立候補する奴らが真面目くさった立候補理由と公約をみんなの前で喋るじゃん?
 でも今年の生徒会選挙は全然そんな事なくてむしろお祭り騒ぎになるレベルで盛り上がったんだよ!それっていうのも―――」

久しぶりのユフィのマシンガントークに頬が緩む。
画面越しで何度も見たよく動く唇、絶えず流れ出る声と言葉、そして楽しそうな表情。
すぐ横にその存在がいるのと画面越しに見るのとではやはり違うものがあると実感する。
この連休は直接触れ合う事の出来なかった分を存分に埋めようとヴィンセントは決めるのだった。











ユフィのマシンガントークを聞きつつ車を一時間程走らせた事により、港町・ジュノンに到着した。
アルジュノンの海に面した通りを歩くと気持ちの良い潮風が吹き抜けて二人の髪を揺らす。

「ん〜!潮の香りが堪らないね〜!あ、イカの塩焼き!ジュノンのは美味しいんだって!食べようよ!」
「ああ」

着いて早々、ユフィは潮の香りを楽しんだかと思えばすぐにイカ焼き屋に興味が移った。
つくづく忙しない娘で見ていて飽きない。
ヴィンセントはユフィに導かれるままに店に寄るとイカの塩焼き二本を購入し、海を眺められるベンチに座った。

「ん〜!美味しい〜!イカの塩焼き最高〜!」

幸せそうにイカの塩焼きを頬張るユフィを他所にヴィンセントは周りに視線を配る。
それにユフィが気付いて何事かと尋ねた。

「どしたの?」
「お前の知り合いがいるのではないかと思ってな」
「あ〜いても大丈夫だよ。従兄って言えばいいんだし」
「通じるのか?」
「多分。でもまぁへーきへーき!それよかイカ焼き早く食べないと冷たくなるよ?」

平気だというその根拠は一体どこからくるのか。
内心呆れながらも、しかし従兄でギリギリ通じるだろうと同じように思ってヴィンセントはそれ以上は何も考えなかった。
しかし、いつユフィの友人に遭遇しても大丈夫なように振舞っておかなければならない。
そうなると色々制限が出てくる。

「・・・手は繋げないな」
「やっぱり?」
「この年齢で手を繋いでる従兄などほぼいないだろう」
「超仲良しって事ならどうかな?」
「無理があるな」
「ちぇー、ダメかー。じゃあさ!」
「?」
「写真ならくっついて撮ってもいいよね?」

スマホを取り出してニヤリと勝ち気に笑うユフィにつられてフッと笑い、白旗を上げる。
イカ焼きの串をゴミ箱に捨てて海を背景に二人で写真を撮った。
その後は二人でショッピングモールを歩いたり観光名所を訪れたりしたがユフィの知り合いに会うことはなかった。
仮にいたとして、恋人と察してか、或いは親類と察して水を差すまいと見て見ぬ振りをしてくれたのかもしれない。
前者の場合だと少々不都合が生じるが、それこそ従兄だと言ってユフィが上手いことやり過ごしてくれるだろう。
ジュノンに到着した時の心配も杞憂に終わり、楽しい時間はあっという間に過ぎ去って気付けば夕方となっていた。
気持ちの良かった潮風は少し肌寒い温度を持つようなり、観光客たちの肌を冷やしていく。

「そろそろ帰るとしよう」
「うわ、もうそんな時間!?時が経つのは早いね〜」
「そうだな」

また貴重な一日が終わってしまった事にお互い寂しく思いながら車に乗り込む。
車のキーを差し込んでエンジンをかけた時にユフィが「あ」と何かを思い出したように声を漏らした。

「どうした?」
「そーいえば近くでドライブインシアターってのをやるみたいなんだよね。どんなもんか見てみたいんだけどいい?」
「場所は?」
「ここ!」

カバンからチラシを取り出してユフィが場所を指差す。
そこそこ近い大型駐車場だったのでカーナビで目的地を設定して早速向かう事にした。
夕方のラッシュの時間なので道が少し混んでいて、目的地に着いた頃には沢山の車が並んでいた。
当然最前列の獲得は不可能で、最後列の左端という辛うじて映像が見えるという位置に甘んじる結果となった。

「・・・一番後ろの一番端になってしまったな」
「全く見えないって訳じゃないし大丈夫だよ。それより周波数は、っと」

全然気にしていない様子のユフィはさっさと周波数を合わせて映画の音声をキャッチする。
ユフィが気にしていないならいいかとヴィンセントは思い、映画が見やすいように座席を調節した。
程なくして始まった映画の内容は有名なスパイ映画で、主人公が敵地に潜入しつつそこで出会うヒロインと大人の恋愛ドラマを繰り広げるというもの。
車の位置の関係もあって映像は若干見辛いが、流れてくる音声で脳内補完をする。
物語は中盤に差し掛かり、ど迫力のスパイアクションが始まった。
その時にチラリとユフィの横顔を盗み見たらユフィは握り拳で食いつくようにそのシーンに魅入っていた。
アクション系が大好きな娘なので興奮しているのだろう。
楽しんでいるようで何よりだと思い、ヴィンセントは視線を映像に戻した。



それからしばらくして物語は終盤に差し掛かり、恋愛パートに移った。
主人公とヒロインが愛の言葉を紡ぎ、濃厚なキスを始めると隣のユフィの空気が少し変わった。
気になって顔を横に向けると恥ずかしそうな、それでいて照れ臭そうにしながら頰をポリポリと掻いている。

「落ち着かないか?」
「うん、まぁ・・・」

ユフィは濃厚なラブシーンでは気恥ずかしくなって目を逸らすタイプだ。
今回もそのパターンだと思っているとユフィがクスッと笑って冗談交じりにある事を言ってきた。

「いい雰囲気だし、映画の真似してみない?」

「なーんて」の言葉は座席が倒れる途中に、最後の「ね」の言葉は座席が完全に横倒しになるのと同時に反動で跳ねた。
何が起こったのか分からず目を白黒させているユフィをそのままに自身の座席も倒してユフィの座席と平行にする。
ギリギリの所までお互いの体寄せ、最後にユフィの後頭部に手を添える。

「良い提案だ」

意地悪な笑みを浮かべてユフィの唇を奪う。
「う、ん・・・」と一瞬抵抗されたがすぐに従順に絡んできた。
主人公とヒロインのラブシーンの音声がこれでもかと流れてくるがヴィンセントとユフィだって負けていない。
むしろそれを凌駕する勢いで二人は情熱的な口付けを交わしていた。
もはや二人の世界に映画の音声など入ってきていない。

「はむっ・・・ぅん・・・っ・・・」

熱っぽく苦しそうに漏れ出るユフィの言葉の欠片。
薄く目を開き、必死なその表情に煽られて更に深く口付けて畳み掛ける。
ヴィンセントのシャツの胸元を握っていたユフィの指の力が緩んでシートの上に落ち、やがて瞳がトロンと蕩けてきた所で仕方なく解放してやった。
気付けば映画の方は終わっていてスタッフロールが流れており、出て行く車の交通整理が始まっていた。

「・・・終わったようだな」
「ん・・・すぐに発進する感じ?」
「いや、渋滞に巻き込まれてまだもう少し時間がかかりそうだ」
「そっか。じゃあもうちょっとだけやってる?」
「賛成だ」

ヴィンセントは頷くとシートの上に横になって再びユフィの唇をを貪り始めた。
それが続いたのは、漸く二人の乗る車が動けるようになった1時間後の事である。









END
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