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□お互いの部屋を行き来する仲
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その後、ヴィンセントの風邪はすぐに治り、それがユフィに移るという展開が訪れる事はなかった。
しかし新たなる受難がヴィンセントを襲う。
それは強敵・雨漏りだ。

「避難させてもらってすまない」
「いーっていーって。アタシも話し相手が出来て退屈しないからさ」
「マナーモードでいるから安心しろ」
「こらっ!話し相手になれつってんだろ!!」

予想通り怒ったユフィにヴィンセントは小さく笑い声を漏らす。
付き合いもそれなりに長くなってきた事でヴィンセントはユフィの扱いや反応の仕方が段々分かってきて、今ではこうしてユフィの表情がコロコロと移り変わるのを楽しんでいるのである。
それから長くなってきた付き合いで分かってたきのは会話だけではない。
こうして遠慮がなくなってお互いの部屋に頻繁に上がるようになった事だ。
ユフィは元々ヴィンセントを部屋に上げる事に抵抗はなかったのだが、ヴィンセントの方は大いにあった。
歳が近いとはいえ、女性の部屋に出入りするのは如何なものかと最初は遠慮していたが、今はそんなものはまるでない。
そのお陰もあってか少し前までは自分の部屋が雨漏りしたらそれから逃げるように嫌々雨の中を雨漏りしない建物へと避難していた。
けれど今ではこうして雨漏りしないユフィの部屋に避難してのんびりと過ごす事が出来ている。
これはヴィンセントにとっては有難い話であった。
ただ一つの難点を除いては・・・。

「お茶飲もーっと。ヴィンセントは?」
「飲ませてもらおう」
「んー。氷入れる?」
「頼む」
「はいよー」

ユフィが立ち上がって冷蔵庫の方へ向かう。
タンクトップにホットパンツという布面積の少ない出で立ちの為、かなり露出が激しい。
白い腕にスラリと伸びた足、程よく引き締まった魅惑の太腿。

「っ」

喉が鳴る前にサッと顔を背ける。
親しくなってこうして心を許してくれるのは嬉しいが無防備な姿でいられるのは少々困る。

「ほい、お茶」
「ああ、すまない」
「もう少ししたら夏休みだけどさー、ヴィンセントは実家に帰省したりすんの?」
「いや。帰っても誰もいないからな。親父はどこか遠くの所で研究に勤しんでいるから尚更な」
「ふーん。じゃあさ・・・アタシと一緒にウータイ行かない?
 アタシの家広いからヴィンセントなんて余裕で泊められるし色々案内するよ?」

少し伺うような、それでいて挑発するような黒い瞳。
どうやら度胸を試されているらしい。
しかしヴィンセントは想いを寄せている相手の実家と聞いてもその父親に会う事になっても怯む男ではない。
むしろ更にその上を行く。

「ならばお言葉に甘えて案内してもらおうか」
「んじゃ、決まりだね!」
「プランはどうする?」
「プラン?」
「まずはお前の家に行って父親に挨拶をし、その後にお前のお勧めの店に行って昼食。
 そして観光を楽しんだ後は二人でゆっくりと夜景を眺めてホテルに行く、というのはどうだ?」
「そ、それってまるで―――」

デートみたいじゃん、という言葉を口にしそうになってユフィはギリギリの所で飲み込む。
しかしもう遅い。
ヴィンセントはニヤリと笑っている。

「まるで何だ?」
「〜〜〜っ!そそ、それよりも!ほ、ホテルって何だよ!?アタシの家に泊まるんじゃないのかよ!」
「家族がいる家でするのか?中々大胆だな」
「す、するって何を・・・?」
「何だと思う?」

涼しく笑うヴィンセント尋ねられてユフィは一気に顔を真っ赤に染め上げる。
同時にその表情はユフィがヴィンセントに敗北した事を語ってしまう。

「む・・・ムッツリスケベー!!」

ユフィの絶叫がドア越しにたまたま訪れていた大家の耳に届いてしまい、その後の言い訳に時間がかかったのは言うまでもない。












END
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