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□一緒にお茶でも
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「米にワカメに海苔にその他色々、それから煎餅とお茶か。
 親父も中々いいもん送ってくれるねー。米なんかこれでしばらく買いに行かなくていいし」

実家から送られてきた食料にユフィは満面の笑みを浮かべる。
特に嬉しいのは米と煎餅とお茶だ。
米は重いので持って帰るのが大変で、煎餅とお茶はユフィの好きなメーカーの物である。
しかし、これでもかと詰め込まれている為、少々量が多過ぎる気がしないでもない。
どうしようかと思案した時、窓から聞こえた洗濯ピンチの音にユフィは閃いて身を乗り出して言い放った。

「おーい!お隣さーん!煎餅食べるー?」
「煎餅?」

タオルを干しながら顔を覗かせるヴァレンタイン氏に「そう!」と返してユフィは続ける。

「実家の親父が大量に煎餅送ってくれたんだ。だからどう?」
「貰っていいのならば」
「んじゃ部屋来てー。お茶も出すからー」

身を引っ込ませるとユフィはいそいそとお茶の準備を始めた。
初めてではないとは言え、軽々しく女性の部屋に上がるのは・・・と躊躇っているヴァレンタイン氏の胸中など知らずに。






「は〜お茶美味しい。やっぱこの煎餅にはこのお茶だね」

迷った末に上がってきたヴァレンタイン氏とお茶を飲みながらユフィは幸せそうに零す。

「鶴千堂の煎餅と亀万本店の茶か。どちらもウータイの有名な店だな」
「アタシ小さい頃からこの店のファンでさー。他のメーカーのも美味しいっちゃ美味しいけど最終的にこれに落ち着くんだよね〜」
「ウータイ出身なのか?」
「そーだよ。生まれも育ちもウータイだよ。お隣さんは?」
「アイシクルだ」
「へー、あの雪国出身なんだ?でもまぁ、言われてみればそんな感じするかも」
「そうか?」
「うん。ロッキングチェアに座って猫撫でながら暖炉の近くで本読んでそう」
「そんな上等な暮らしはしていない。それに私はどちらかというと犬の方が好きだ」
「え?マジ?なんとなく猫が好きだと思ってた」
「幼い頃に犬を飼っていた事もあって犬の方が好きだ。そういうお前は猫が好きなのか?」
「大好きだよ!だって可愛いじゃん、あの気紛れな所とかマイペースな所とかさ」
「犬は従順な所や主人を一番に思う所が良いと思うが」
「お、張り合ってくるね〜。ところでさ、ここのアパートってペットNG、但し猫はOKってどゆこと?」
「完璧に大家の贔屓だな。ここの大家は猫好きなんだ」
「ふーん。ここのアパートの住人で猫飼ってる奴いるの?」
「皆敢えて猫を飼わないでいる。負けた気になるからな」
「何と戦ってるんだよ」

ケラケラ笑いながらユフィはお茶を啜る。
熱いお茶が体に染みていく感覚がなんともたまらない。
次に煎餅に手を伸ばしてバリボリと煎餅特有の音を聞きながらユフィはある事を思い出してヴィンセントに切り出す。

「そーいえばこの間学食でお隣さんの事見かけたよ。同じ大学だったんだね」
「何?」
「日替わりセット頼んでたでしょ?見たぞ〜?」
「気付かなかったな・・・」
「何年生なの?」
「今年院生になったばかりだ」
「ふーん。じゃ、レポート手伝ってもらえるね」

にしし、笑うユフィにヴィンセントは苦笑混じりに息を吐くと煎餅を手に取りながら釘を刺す。

「なんでもかんでも手伝ってはやらないからな。あまり当てにするな」
「ちぇー、ケチんぼ!」
「何とでも言うが良い」
「ちゃんとこの煎餅とお茶の分くらいはしっかり手伝えよー?」
「善処しよう」
「善処じゃなーい!」

ユフィの拗ねた声が窓の外に抜けていく昼間であった。








END
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