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□窓越しの会話
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本日は満点の星が輝く夜。
バイト帰りにそれを確認したユフィはコンビニに寄って弁当とジュースを買うと家路を辿った。
そして夕飯を適当に済ませて一服した後、部屋の電気を消して窓を開け放した。
空一面に輝く星は美しく、いつまでも見ていられる気分になれる。
オマケに空気も澄んでいて気持ちが良い。
ユフィは肺いっぱいに空気を吸うとそれをゆっくりと吐き出して体内の空気の入れ替えをした。
この澄んだ空気は故郷のウータイを思い出す。
ウータイにいた頃もこうして星が綺麗な日は窓を開けて部屋から眺めていたものだ。
オレンジジュースにストローを差して物思いにふけるユフィだったが、隣に人の気配があるのに気付く。
見れば隣人のヴァレンタイン氏が窓に半分体を乗せて座り、同じように夜空を見上げていた。
何とも絵になる姿だが挨拶しない訳にもいかない。

「よっ!お隣さん」
「ん?あぁ、キミか。バイトは終わったのか?」
「お陰様でね。まさかアンタが来るなんて思わなかったけどさ〜」

ユフィは飲食店でバイトを始めたのだが、なんとそこにヴァレンタイン氏が訪れたのだ。
最初は驚いた二人だがユフィは仕事で忙しかったし、ヴァレンタイン氏も無駄に声をかける事なく静かにご飯を食べ終わるとそのまま店を出て行ったのである。

「いつもあの店に通ってんの?」
「ああ」
「分かった、ティファが目当てなんだろ〜?でも残念だけどティファは彼氏がいるんだぞ。チョコボ頭の―――」
「クラウドだろう?そのくらいは知っているし有名な話だ。私は手頃な値段で美味しいご飯が食べられるから通っているだけだ」
「なーんだ、知ってたのか。つまんないのっ」

ちゅーっとオレンジジュースをストローで吸いながらユフィはつまらなそうに言う。
でも本当は心の中でホッとしていたりする。

「そういえばキミにまだバケツを返してなかったな」
「ん?バケツ?」
「この間の雨漏りの時に借りたやつだ」
「あーアレね。この窓越しでいいよ、ちょーだい」
「危険じゃないか?」
「へーきへーき!距離も近いんだしさ!」
「・・・」

ヴァレンタイン氏は少し不安だ、とでも言いたげな顔をしつつもバケツを取りに部屋に引っ込んだ。
そして数分もしない内にユフィのバケツを持ってきて渡して来た。
ヴァレンタイン氏の方から最大限体を伸ばて来て、ユフィの方があまり身を乗り出さないように配慮してくれる辺り彼は紳士だと思う。

「ありがと!ちゃんと乾かしたか〜?」
「しっかり洗って乾かした」
「洗った!?何もそこまでしなくても・・・」
「屋根裏を通ってきた水だ。しっかり洗わないとおかしな虫が寄り付く可能性があるぞ」
「ぎゃー!ちゃんとしっかり洗ったんだろーなー!!?」
「大声を出すな。しっかり洗ってある」
「もしも虫が出たら退治してもらうからな!!」
「キミが虫が苦手なのが意外だ。普通に鷲掴み出来るものだと思っていたが」
「気持ち悪い事言うな!ぞわぞわしてきたじゃんか〜!」
「キミみたいなタイプは」
「ユフィ」

ヴァレンタイン氏の言葉を遮ってユフィは言った。
けれどもちょっと気恥ずかしくてヴァレンタイン氏を直視出来ず、目を逸らしながらユフィは続ける。

「キミじゃなくてユフィでいいよ。キミって呼ばれるとなんかムズムズする」

ヴァレンタイン氏は一瞬ポカンとしたように口を小さく開けて黙っていたが、やがてフッと笑うと静かにユフィの名前を口にした。

「―――ユフィ」
「な、何?」

名前を呼ばれただけなのにドキドキする。
今までだって異性に名前を呼ばれた事はあったけどこんなに胸が高鳴る事なんてなかった。
それなのにヴァレンタイン氏に呼ばれるとどうにも心臓が煩くなる。
顔も暑くなってきてどうにかなりそうだ。

「驚かずに聞いてほしい」
「う、うん?」
「そこに蜘蛛がいるぞ」
「・・・へ?」

すぐ真横の壁を見る。
ヴァレンタイン氏との会話に夢中で気付かなかったが、確かに蜘蛛はそこにいた。
小さくて黒い蜘蛛が「よっ!」とでも言いたげに・・・

「ひぇっ蜘蛛!!」
「夜の蜘蛛は縁起が悪いと言われているな」
「つ、潰せ今潰せすぐ潰せ!!」
「それはゴキブリ騒動の時にも聞いたセリフだ。それと蜘蛛は益虫だから殺さない方がいいと思うが」
「じゃぁ潰さなくていいからなんとかしろ〜!」
「しかしここからでは手が届かないな」
「じゃあアタシの部屋来い!今開けるからすぐに来い!!それまで蜘蛛が動かないように見張ってろよ!」
「ユフィ、今部屋に入って行ったぞ」
「ぎゃぁ〜〜〜〜〜!!!は、早く来いお隣さん!!」

その夜、大家さんに騒ぎすぎだと二人は注意されるのであった。










END
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