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□時代の進化に感謝
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ユフィはこの時を心待ちしていた。
誰よりもこの瞬間を待ちわびていた。
本当に進んでいる時代には感謝しかない。
「いっくぞ〜!」
期待で高まる胸をなんとか抑えながらボタンをクリックする。
待つこと数分。
真っ黒だった画面はパッと明るくなり、最初の数秒はぎこちなく映像が動き、その後は滑らかに動いて映像を表示する。
映し出されている映像の画面にはしばらく見ていない恋人の顔がそこにあった。
「お!映った映った!ヴィンセント〜!聞こえる〜?」
『ああ、聞こえている。こちらの声も聞こえるか?』
「聞こえるよ!んで映ってる!!ヴィンセントの顔見るのホント久しぶりだな〜」
愛しい恋人が映る画面を前にユフィは満面の笑みを浮かべる。
現在ユフィはパソコンを使ってヴィンセントとビデオ通話をしていた。
ヴィンセントとの通話をもっと充実したものに出来ないかと適当にネットで検索をしていたらビデオ通話なるものを見つけたのだ。
何故もっと早く気付かなかったのか・・・。
ヴィンセントが遠くに言ってしまう事と連絡手段がLINEしかないというのに気を取られすぎて簡単且つ便利な物を見落としていた。
しかし過去を悔やむのはやめよう。
今はビデオ通話に気付けた事、そしてそれを使って幸せな一時を過ごせている事に喜びを感じようではないか。
既に甘い幸せいっぱいの気持ちのままユフィは改めてビデオ通話を始める。
「あ〜あ、ビデオ通話の存在にもっと早く気付いてれば良かったよ」
『気付いても時間がかかったがな』
「仕方ないじゃん!アタシのパソコンがぶっ壊れて買い換えなきゃいけなかったんだからさ!」
『その新しいパソコンの使い心地はどうだ?』
「結構いい感じかな〜。最新のだしスペック高いのにしたし言う事なしだよ!
あ、そーだ!新しいパソコンにしてビデオ通話出来るようになってから見せたい物があったんだった」
『見せたい物?』
「そ!ちょっと待ってて」
ユフィはパソコンから離れるとカメラの映らない場所でいそいそと着替えを始めた。
そして軽く姿見で自身を写して確認すると再びパソコンの前に躍り出た。
「じゃ〜ん!新しい水着だぞ〜!」
『一人で買ってきたのか?』
「こらそこ!最初は感想を言うもんだろ〜」
『では・・・よく似合っている。が、露出が高すぎる』
「今時こんなん普通だっての!他の友達だって似たようなの買ったし」
『・・・友人と海やプールに行ってくるのか?』
「そーだけど?てか、その為に水着買ったんだし」
『・・・そうか』
「心配しなくても女子だけの海水浴だよ。それにアタシ、浮気なんてしないし」
女子だけなら尚更心配だ。
か弱いのをいい事に好き放題ナンパしてくる筈だ。
特にユフィなんか沢山声をかけられるのは想像に難くない。
「ほらほら、そんな顔すんなって!サービスしてやるからさ!」
言うとユフィは片方の腕でビキニを抑え、もう片方の手で背中のビキニの紐を解くとカメラに近づけた。
必然的にヴィンセントの画面いっぱいに今にも取れてしまいそうな水着と発展途中の果実が晒される。
思わず喉が鳴りそうになったのをなんとかして堪えて代わりにため息を吐いた。
『はぁ・・・ユフィ』
「なんだよ、恋人のサービスシーンが見られて嬉しくないのかよ」
『・・・私以外の前では絶対にやらないようにな』
「だからやらないっての!信用ないなーもー!そ〜んな事言うやつの前では着てやらないぞ!」
『ならば何を着るんだ?』
「えーっと、学校用の水着?」
『それでお前が恥ずかしくないのなら私は構わないが』
「なっ!?恋人がこーしゅーのめんぜんで恥かいてもいいのかよ!?」
『お前が言い出した事だ。自分の言葉には責任を持って―――』
そこでヴィンセントはふと想像した。
学校用の競泳水着を着たユフィが真夏のビーチに降り立つ姿を。
ピッタリと体のラインに沿って張り付く紺色の水着、それが映える白い手足、デリケートラインギリギリまで曝け出されている眩しい太もも。
プリッとした可愛い小尻とキュッとくびれた腰、大きめの胸の果実。
普通の水着とは違った色気と可愛らしさがあり、それはそれで注目を集めそうだ。
特にユフィは運動が得意だから競泳水着がユフィの魅力を全力で引き出すだろう。
それに背中には名前だって書いてあるからそれを覚えられて尚更気安く声をかけられるかもしれない。
考えれば考えるほど危険な香りが漂ってきてヴィンセントはゆっくりと首を横に振った。
『・・・いや、学校の水着も禁止だ』
「へ?」
『私と海に行く時は学校の水着を着るのは禁止する』
「なんか変な禁止令出された・・・ま、まぁいいや。ヴィンセントと海行く時は新しく買った水着にするよ。
そんでさ、学校用の水着はヴィンセントの家にいる時に・・・さ?」
『ああ・・・ん?私の家にいる時?』
「そ!学校の水着も結構燃えるらしいよ〜?」
『全く・・・どこでそんな知識を身に着けてくるんだ・・・』
「へっへ〜。ネットっていう時代が生んだ便利なものがあるからね〜。
あ!ネットと言えばアタシに隠れてえっちぃものとか見てないだろーなー?」
『見ていると思うか?』
「ヴィンセントも男だからね〜。流石にそこは油断出来ないよ。
ま、必要になったら言ってよ。このユフィちゃんがそこらのえっちぃやつより凄いの見せてやるんだから!」
『・・・・・・では、期待しているとしよう』
「お・・・おう!」
なんて返事をしたものの、ユフィは自分で言い出しておきながら内心凄く驚いていた。
いつもだったら呆れた溜息を吐いて流すヴィンセントが今回は珍しく『期待している』だなんて言ったのだ。
なんだか大変な約束をしてしまった気持ちになるが一度交わした約束をなかった事にしては女が廃る。
だからユフィはこの約束をそのまま受け入れる事にした。
『今日も遅い時間だ。そろそろ寝るぞ』
「んー、おやすみ〜」
『ああ、お休み』
互いに通話を切るボタンを押して本日の甘いひとときを終わりにする。
ユフィはベッドの上にゴロリと転がると天井を見上げながらにんまりと笑った。
「エヘッ!久しぶりにヴィンセントの顔見れたな〜。変わってないようで何よりだよ」
両手を組んでうんうんと頷く。
今までは大好きな低音しか聞けなかったがこれからは大好きな整ったあの顔立ちも表情も見る事が出来る。
本当にビデオ通話様々だ。
そういえば折角のビデオ通話なのだからもっとヴィンセントが見ていて嬉しいものや楽しいものを映したい。
ユフィは引き出しからメモとペンを取り出すと思い浮かんだものをリストアップした。
「新しく買った服でしょー、スマホで撮った写真・・・はLINEにアップすればいっか。
何か買った物や家で見つけた物・・・後何がいいかな」
ぐるりと自分の部屋を見回して見せて面白い物がないか確認する。
が、どれもユフィの目には止まらず、ビデオ通話の時に見せる候補に上がりそうにもない。
溜息を吐いて、ふと自分の部屋着を見下ろしてユフィはあるものを思いついた。
「そーだ!大人っぽいパジャマ!これを買えばヴィンセントも楽しめるってもんよ!確か雑誌にあった筈!」
ユフィは早速雑誌を捲ると目当てのパジャマを見つけて名前を確認し、ネット通販で注文する事にした。
後日、それを着たユフィが画面に現れて目のやり場に困るヴィンセントの姿がそこにあったという。
END