オリジナル倉庫

□遠くから彼女を独占する
1ページ/1ページ

『そうそうそれでさ!クラウドにそんな事があったもんだからアタシは―――』

「フッ・・・そうか」

『あ、ヤバ、もうこんな時間じゃん。ヴィンセント、また明日!』

「ああ、お休み、ユフィ」

『おやすみ〜』

お休みの挨拶をして本日の癒やしの時間を終える。
今日もユフィの声を聞けて良かった。
同年代の男子の名前が出たのは気に食わなかったが・・・。

(同年代の男か・・・)

ユフィは明るく活発な少女で男とも気軽に接する性格もあって交友関係は広い。
だから自然と女友達の他に男友達の名前も出てくる。
男友達の名前が出てきた所で、こういう面白い事があった、と言ったような内容なのだが、それでも少しだけモヤモヤする。
というのも、ユフィからしてみれば普通の友達のつもりでも相手の男はそのつもりはないかもしれないからだ。
無防備なユフィを狙って自分が傍にいない隙に横から奪おうと考えているかもしれない。
そんな事は断じて許さないが遠くにいる以上はどうする事も出来ない。
せいぜいでこうして寝る前のユフィの時間を独占出来るくらいが関の山。

(十分贅沢だと言うのにな)

ユフィの貴重な時間を独り占めしているというのにもっとユフィの時間が欲しいだなんて欲張りもいいところだ。
けれど恋人なのだからそのくらい欲張ってもいいのではないだろうか。
恋人の時間が欲しいと思って何が悪い。
むしろこれくらい普通の筈だ。

(これは屁理屈だな)

一体何を考え込んでいるのやら。
一人になるといつもこうだ。
ユフィと付き合う前はこんな風に考え込む事なんてなかったのに。
そう思ってみるとユフィは自分の世界を変えた特別な人間で大切な人間なのだと改めて実感する。
だからこそ、そんなユフィの時間が欲しいと望んでも仕方ないのではないだろうか。

(しかし手段がないな)

この際時間でなくてもいい。
ユフィを独占出来るものなら何でも独占したい。

(難しい課題だ)

ユフィを独占する手段を考えながらヴィンセントの夜は更けていくのであった。











翌日の放課後。
ユフィはある男子生徒に体育館裏に呼び出されていた。
体育館と言えばお決まりのアレ。

「き、キサラギさん!ぼ、僕、ずっと前からキサラギさんの事が好きでした!付き合って下さい!」
「ごめん、気持ちは嬉しいけどアタシはそういう気持ちじゃないから」
「えっ・・・他に好きな人とか・・・いるの?」
「アタシに好きな人がいようがいまいがどっちみちアンタの事は好きにならないっての!」
「ご、ごめん・・・」
「んじゃアタシ、帰るから」

素っ気なく告げて男子生徒を残し、ユフィはその場を立ち去った。
こうやってたま〜に告白される事があるが、既にヴィンセントと婚約しているユフィからしてみれば全てお断り案件である。
ていうか告白されるだけでも浮気してる気分になって少し後ろめたい。
しかし断ろうにも断る前に相手が言うだけ言ってどこかに行ってしまい、無視するのもなんだか気が引けるのでこうしてやって来ては告白を聞いて断るという流れにどうしてもならざるを得ないのだ。
なんとも困った話である。

「告白タイムは終わりましたか?」

校門を出ると待っていたのだろうか、シェルクがひょっこりと顔を出して尋ねてきた。

「シェルク!帰ってたんじゃないの?」
「いえ・・・帰宅部は一人では活動出来ないので・・・ちゃんと二人で活動する決まりです・・・」

少し恥ずかしそうにしながらもごもごと言葉を並べるシェルクがなんだか可愛らしい。
ユフィはニヤニヤ笑うとシェルクの背中を叩いて言った。

「な〜んだ!ユフィちゃんがいなくて寂しいならそー言えばいいじゃん!シェルクってば回りくどいな〜!」
「べ、別に寂しかった訳ではありません!そ、そう、ユフィが寂しいと思ったんです!」
「はいはい、そーいう事にしといてやるよ!それよりコンビニで肉まん買って帰ろ!」
「本当に分かってるんですか?」
「分かってる分かってる!」

不満そうに頬を膨らませるシェルクを軽く流してユフィはコンビニへと足を向ける。
もうその時にはユフィの頭の中には先程の男子の存在はなく、シェルクと肉まん、そしてヴィンセントしか存在していなかった。


そうしてその日の夜、ユフィは今日もヴィンセントと通話をしていた。
学校の事、シェルクと肉まんを食べた事、そして男子に告白された事・・・。

「今日また告白されちゃってさー。ホント困るよ。アタシにはヴィンセントがいるのにさ」

『・・・そうだな』

好きでいてくれるのは勿論嬉しいが、それでも告白されたという話は何度聞いても複雑な気分になる。
ユフィは自分だけのものなのに。
アピールしたらバレてしまうとはいえ、ノーマークだと思って近づかれるのは不愉快である。
ヴィンセントがそんな気持ちを抱いている事など露知らずユフィは話を続ける。

「そりゃぁこんな可愛い美少女がいちゃほっとけないよ?でもだからってホイホイ告白されちゃ困るんだよね〜」

『・・・ユフィ』

「んー?何?」

『私が帰国したらどこに行きたい?』

「え?」

『遊園地でも水族館でも映画でもどこにでも連れて行ってやるぞ』

「マジ!?じゃあ遊園地行こうよ!それから動物園でしょー、日帰りで温泉もいいよね〜。
 映画もいいけど時期的になんか面白いのやってるかな?それからー」

あれこれと行きたい場所を上げて楽しそうに盛り上がるユフィ。
そうだ、こうやってユフィの予定を先取りして独り占めしてしまえばいいのだ。
そうすればこの先誰かが何かにかこつけてユフィを誘ってもユフィには自分との約束があって誘いに応じる事が出来なくなる。
誰もユフィに手を出せなくなる。

「ヴィンセントもちゃんと予定空けとけよ〜?」

『勿論だ』

「んじゃ、行きたい所のリストアップしとくから今日はここまでね!お休み〜!」

『ああ、お休み』

今日の幸せの時間を終えてヴィンセントはスマホを見つめる。
こうしてユフィの時間は自分だけのものになった。
その事に人知れず優越感を覚える。
今、自分が意地の悪い笑みを浮かべているのがなんとなくだが分かる。

「・・・これが余裕という奴か」

一人呟いてヴィンセントは電気を消すのだった。



一方、ユフィは・・・

「えっへへ、ヴィンセントと遊びに行くの楽しみだな〜」

スマホ片手にベッドの上でゴロゴロ転がりながらニヤけていた。
ヴィンセントと遊びに行くのが今から楽しみで仕方ない。
周りに自慢出来ないのが残念だが、そんなものは将来こっそりシェルクや友達とかに暴露すればいい。
嫌って言うほどいっぱい自慢すればいいのだ。

「エヘッ、ヴィンセント!」

特に意味はないが大好きな恋人の名前を呟く。
その時のユフィの頭の中はヴィンセントただ一色だった。











END
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ