オリジナル倉庫

□浮気チェック!
1ページ/1ページ

キーンコーンカーコーンと終礼のチャイムが鳴り響き、本日の授業の終わりを伝える。
その後すぐに開かれたホームルームが終わるとユフィとシェルクは力強くカバンを握って立ち上がった。

「シェルク!」
「はい」
「今日の予定は!」
「家庭科室でクッキーを貰った後、帰りにコンビニに寄ってアイスを買って帰ります」
「よし!家庭科室行くよ!」
「ラジャーです」

ユフィとシェルクは帰宅部に所属しており、毎日学校が終わるときっちり帰っている。
コンビニなどに寄ってお菓子やアイスを買い食いして帰っているが、これも帰宅部の活動のうちだと2人は豪語する。
とまぁそんな感じで二人は今日も今日とて帰宅部の任務を遂行するのであった。
まず最初の目的地は家庭科室。

「たーのも〜!」
「たのもーです」

「あ、ユフィとシェルク」
「いらっしゃい」

家庭科室に入ればクッキーの甘い匂いと共に家庭科部のティファとエアリスが二人を迎える。
二人はクッキーを透明なビニール袋に入れてリボンで口を締めてラッピングしていた。

「ティファ〜!エアリス〜!クッキーちょーだい!」
「フフ、はいはい。シェルクと仲良く食べるのよ」
「分かってるって!」
「そのラッピングされたクッキーはザックスにあげるのですか?」
「うん、そうだよ」
「はは〜ん、じゃあティファはクラウドにあげるんだ?」
「う、うん。喜んでくれるといんだけど」
「あのクラウドが喜ばない訳がないじゃ〜ん。ついでに『好き』って言って抱きついちゃいなよ」
「ゆゆゆゆユフィ!!」
「あっはは!ティファってば赤くなってやんの!」

クスクスと笑いながらティファをからかうユフィの図はほぼお決まりのものである。
しかしクラウド絡みでからかうと赤くなって恥じらったり慌てたりするティファが可愛いのだから仕方ない。
次は何を言ってティファを慌てさせようかとユフィが画策しようとしたその時、エアリスの一言がユフィを固まらせた。

「そういえば、部員の子がね、彼氏に、浮気されたんだって」

(浮気・・・)

「そうなんですか?」
「それで、すっごく、泣いちゃってね」
「泣き止ませるの大変だったわよね」
「本当に、ね」

その後も二人による浮気された女の子の話しは続いたがユフィの耳には入ってこなかった。











そして夜。
ベッドに寝っ転がったユフィはヴィンセントにWi-Fiが繋がる場所にいるか確認してからLINE通話を開始した。

「あのさ・・・ヴィンセント」

『何だ』

「う・・・うううう・・・うう・・・」

『腹でも痛いのか?』

「ち、違うっての!!」

『では何だ?』

「その・・・そのさ・・・怒らないで聞いてくれる?」

『だから何だ?』

「あの・・・さ・・・う」

『う?』

「う・・・浮気・・・して、ない、よ、ね?」

『浮気?』

ヴィンセントが首を傾げている姿が脳裏に浮かぶ。
とりあえず怒っている様子はないようだが話はこれからだ。
ユフィは慎重に言葉を選びながら話を続けた。

「いや、だってさ・・・不安になるじゃん?」

『不安とは?』

「だってさ、ヴィンセントってば背ぇ高いしイケメンだし髪サラサラだし優しくて紳士だし
 クールで物静かだけどちょっとした冗談も言うし物知りだしキスは上手だし一途だし
 こんなん周りの女がほっとかないでしょ!もう毎日声かけられまくりなんじゃないの!?」

『落ち着けユフィ。褒めてくれるのはありがたいがお前が言うほど私は完璧な人間ではない』

「完璧だよ!ビックリする程モテる要素満載じゃんか!ちょっとは自分の価値ってもんに自覚を持ちなよ!」

『そうは言われてもな・・・』

「海外だから周りにキレーな女の人いっぱいいて誘惑だらけなんじゃないの!?」

『お前が思っているような事は何もない。至って普段通りだ』

「ホントに〜?」

『疑ってるのか?』

「そーじゃないけどさ・・・」

『悪いが明日も早いから今日はもう切るぞ』

「う、うん。お休み・・・」

『お休み』

乱暴に切られる事はなかったがあまりよろしくない空気で終わってしまった。
少し気まずい。

「あ〜も〜!ヴィンセントぜ〜ったい怒ってるよ!何でこんな事聞いちゃったかなぁアタシ!!?」

ポカポカと自分の頭を叩いて先程のやり取りを悔やむ。
今日もいつもと同じように甘い至福のひとときを過ごして寝る筈だったのに後悔と悲しみに包まれながら寝るハメになるとは。
明日の夜になったらすぐにヴィンセントに謝ろうと珍しく素直に考えながらユフィは眠りに就くのあった。











そして翌日の夜。


ユフィは何度も同じ動作を繰り返していた。
意味もなく時計の表示を見たり、通話ボタンをタップしようとしてはホームボタンを押したり戻したり・・・。
とどのつまり、緊張していた。
なんて切り出すか、なんて言って謝るか、ヴィンセントは許してくれるだろうかという考えが堂々巡りする。
しかしずっとこのままという訳にもいかない。
ここは腹を決めて一思いに―――と思った所でヴィンセントからLINE通話が来た。

「うぅわぁっ!!?」

珍しくヴィンセントの方からかかってきたLINE通話に心底驚きながらユフィは慎重に緑の通話ボタンをタップする。
そして恐る恐るスマホを耳に当てて応答した。

「・・・も、もしもし・・・?」

『ユフィか。今大丈夫か?』

「う、うん・・・」

(どうか別れ話じゃありませんよーに!)

『昨日はすまなかった。少しムキになって大人気なかったな』

「そ、そんな事ないよ!ていうかそれアタシのセリフ!
 ヴィンセントはこんだけアタシの事思ってくれてるのにアタシってば疑っちゃってさ・・・ホント、ごめん」

『いや、いい。それに疑っていたという事は妬いていたという事だろう?』

「や、妬くって嫉妬って意味?」

『そうだ』

「べべべべべべ別に嫉妬なんか・・・!!」

『そうか・・・ではただ単純に私は信用がないのだな・・・』

「そ、そーは言ってないだろ!ヴィンセントに信用がないんじゃなくてアタシが勝手に不安になってただけなんだし・・・」

『ところでユフィ』

「な、何だよ?」

『お前はどうなんだ?』

「は?」

『お前は浮気はしてないのか?』

「バッ!す、する訳ないじゃん!バカにすんなよ!!」

『ユフィ、声が大きい』

「大体、ヴィンセントを知っちゃったら学校の男子なんてみんなおこちゃまだよ。友達止まりってやつ?」

『本当か?』

「なんだよ、信用ないなー」

『先程のお前と同じだ。信用がないのではなく不安に思っているだけだ』

「ふ〜ん?ま、いいや。信用してやるよ」

『フッ、そうか』

「でもさ、こー考えると遠距離恋愛で浮気してないって証明するのって難しいよね。
 毎日直接会ってればすぐに変化なんて分かるのに遠距離恋愛だとそーもいかないじゃん?」

『確かめる手段が言葉でしかないからな』

「まぁ今時だとLINEでトーク相手間違えて誤爆ったなんて事故もあったりするけどさ」

『だが慎重に気をつけている人間もいる筈だ』

「ヴィンセントは気をつけてないだろーな〜?」

『自分で言うのもなんだが、私が器用な男に見えるか?』

「ぜ〜んぜん」

『逆にお前は誤爆とやらをやらかしそうだがな』

「あー!ひっど〜い!浮気してるって思ってるだろ〜!」

『浮気をしていないと証明したいないらば明日の夜9時に通話を入れろ。待っている』

「上等じゃん!アタシの身の潔白を証明してやんだから!!」

『フッ、楽しみにしているとしよう。では、また明日』

「うん、おやすみ〜」

通話を切ってボフッと枕に顔を突っ込んで本日の至福のひとときを終える。
昨日と違っていつもよりもかなり充実した時間だった。
ユフィは嬉しさから枕に頬ずりしながら明日の夜に思いを馳せる。

「明日の夜9時に通話を入れろか〜。しっかり予約入れられちゃったよ。ヴィンセントの奴め〜」

言葉とは裏腹にユフィはそれはそれは幸せそうに笑う。
浮気なんかしてないなんてのはヴィンセントはきっと分かっているだろう。
それでも予約を入れたのはまた明日もユフィと話がしたいから。
そうだったらいいのに。いや、きっとそうに違いない。
少しくらい自惚れたっていいじゃないか。

「早く明日の夜になんないかな〜♪」

浮気なんていう不安はどこへやら、ヴィンセントとの約束という幸福に包まれながらユフィは今日も眠りに就くのであった。











END
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ