クリスタル横丁

□銭湯にて
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カラスが鳴く夕暮れの道。
オレンジ色の空と真っ赤な太陽の下、デュースたちはタオルや石鹸などを持って一つの場所に向けて歩いていた。
歩けば歩く程にそれは近づき、やがて目と鼻の先に来た所で足を止める。

「ここが銭湯・・・」

デュースは呟くように言葉を漏らすと目の前の建物を見上げた。
古い木造建てで、天にまで届きそうなくらい伸びている煙突、『ごくらく湯』と掲げられた青い暖簾。
教科書や資料で見た事あるような昔の建物が今まさに目の前に存在していてデュースは小さく驚いていた。
更に建物からは昔懐かしな空気が醸し出されていて、ここだけ空間から切り取られているような錯覚に陥る。
それかタイムスリップでもしたのではないのだろかとすら思う。

「私達は時々ここでみんなでお風呂に入りに来るのよ」

圧倒されているデュースの顔を覗き込みながらティファが説明をする。
クリスタルヘブンの女神たちことティファ・リノア・ガーネット・ユウナたちは本日デュースを呼んで行きつけの銭湯を訪れていたのである。

「みんなで背中を流し合いましょうね」
「はい!」

ガーネットの言葉にデュースは満面の笑みを浮かべて答えると五人で銭湯の中に入って行った。


中に入ると番頭の老婆がいて、五人で順番ずつお金を払って女湯の暖簾を潜った。
一番乗りだったらしく、脱衣所には他の人間の姿はなかった。
なので五人固まっての脱衣用の籠の確保が可能となり、現在は皆タオルを体に巻いて髪を結んでいる。
姉弟で一緒に風呂に入る事もあって同性に裸やタオル姿を晒す事にデュースは躊躇いはなく、また気にかけるものもない。
それでも思わず釘付けになってしまうものが一つ。

「・・・ティファさんの胸、大きい・・・」
「えっ!?」
「あ!す、すいません!思わず心の声が・・・」
「分かるよデュース。ティファの胸って大きくて羨ましいもんね」
「リノアまで何言ってるのよ!?わ、私よりユウナの方が大きいわよ!ね、ユウナ?」
「え?私よりもティファの方が全然大きいよ。ねぇ、ガーネット」
「ええ。でもユウナは横から見た時の迫力が凄いわよ」
「ええっ!?横!?」
「ほ、ほらほら、このままだと風邪引いちゃうから早く入りましょう」

ヒートアップしてしまいそうな話題をやや強引に切り上げてティファは四人を誘導した。
浴室の引き戸を引いて、今日はまだ誰も使っていない風呂場に胸を躍らせながらまずは洗い場へ。
持参したシャンプーやリンスなどで髪を洗い、顔を洗った所で本日のメインイベント。

「背中流しっこターイム!」

リノアの号令で五人は泡立ったスポンジタオルを手に持つと片方向を向いて目の前の背中を洗い始めた。
両端はティファとデュースだ。
デュースは目の前のユウナの背中にスポンジタオルを当てると痛くならない程度に力を入れて上下に動かし始めた。
ユウナの背中は細く華奢でほんのり焼けている。
歳はあまり変わらない筈だが自分よりも大人っぽく見えるのは気の所為だろうか。

「フフフ、デュースくすぐったいよ。もう少し強めで大丈夫だよ」
「は、はい!こうですか?」
「うん、とっても気持ち良いよ」
「あら?リノア、二の腕の所に傷があるわよ」
「あーそれ、この間スコールとモンスター狩りしてた時に出来ちゃったの」
「そう。次からは気をつけてね」
「うん!あ、ティファ、力加減大丈夫?」
「とっても気持ち良いわ。そろそろ交代しましょうか」
「そうだね。じゃ、交代!」

揃って反対方向に体を回転させるとまた同じようにスポンジを当てて上下に動かし始める。
デュースの背中を洗い流すユウナの力加減は絶妙でとても気持ちが良い。

「ふあぁ、ユウナさん、気持ち良いです」
「そう?じゃあここはどう?」
「ひゃぁあっ!?脇はくすぐったいです!」
「デュースもユウナも楽しそうで何よりね」
「じゃあガーネットも楽しくなる〜?」
「やぁっ!?くすぐったいわよリノア!」
「良いではないか〜良いではないか〜」
「こーらリノア、悪戯しちゃダメでしょ?」
「や、あはははっ!ティファやめてよ〜!」

泡や雫が跳ね跳ぶ他愛のないくすぐり合いはしばらく続き、その後少女たちは体の泡を洗い流すと入りたての湯船に体を浸した。
入りたての湯船はまだぬるく、心なしかどこか重い。
五人揃って肩まで浸かれば縁ギリギリまで満たされていた湯船はいとも簡単に溢れ出してタイルの上を滑って排水溝へと流れていった。
しかしお湯はまだまだある。

「やっぱり広い湯船はいいわね」
「思いっきり足伸ばせるもんね〜」
「だからってストレッチしたらダメよ、リノア」

上半身を前に倒して体を伸ばすリノアにガーネットは苦笑する。
自由なりノアに小さく笑いを零しながらティファがデュースに質問を投げかける。

「デュースの家のお風呂は広いの?」
「そうですね。数人で同時に入る事が多いのとマザーが広いお風呂が好きなので」
「そうなんだ。入浴剤とかは使うの?」
「よく使いますよ。あ、でも使うのは私たち女性陣だけなんですけど」
「入浴剤を使うならいいお店を知ってるわ。ちょっと高いけど」
「本当ですかガーネットさん?今度教えて下さい」
「あ、私も教えて欲しい!それで今度スコ・・・ナンデモナイ・・・」
「あら?スコールと何をするのかしら?リノア」
「なななななな何もしないよ!て、ていうかするとしてもティファもクラウドとしてるんじゃないの!?」
「するって何をするのか教えてくれないと分からないわよ。ユウナは分かる?」
「私も分からないなぁ。だから教えてくれるよね、リノア?」
「ゆ、ユウナの意地悪〜!」
「白状した方が気が楽よ?」
「ガーネットまで!!デュースは助けてくれるよね?」
「リノアさんがスコールさんと何をするのか聞かせてくれたら助けてあげますよ?」
「デュース〜!!」

四人に詰め寄られて後ずさるリノア。
しかし背中にタイルが当たって逃げ場を無くしてしまう。
その後、別の意味で逆上せてしまうまでリノアへの冷やかしもとい質問攻めは続いたという。



「もう、みんなで虐めてくるんだから・・・」
「虐めじゃなくて尋問よ。ねぇ?ティファ」
「ええ、ガーネットの言う通りよ」
「聞こえませーん!」
「ほらほら、拗ねてないで牛乳飲みましょう?」
「むぅ・・・いちご牛乳飲む」
「私はフルーツ牛乳」
「私は今日はコーニー牛乳にしようかな」
「私はカルピ○牛乳にしようかな。デュースは何にする?」
「えーっと、フルーツ牛乳がいいです」
「じゃあ奢ってあげる」
「え?いいんですか?」
「今日みんなで銭湯に来たお祝い!」
「ユウナさん・・・!ありがとうございます!」
「それじゃみんな、牛乳持った?」
「リノア、あれやるの?」
「やるやる!やるよ!これで銭湯の儀式は終わるんだから!」
「儀式、ですか?」
「あのね、儀式って言うのはね―――」

リノアが銭湯で行う自分たちの儀式についてデュースに語るとデュースは少し驚いた顔をしたものの、笑いながらそれを承諾した。
了承を得たリノアは四人に一列に並ぶように支持するとまた号令をかけた。

「はい、飲むよ〜!せーのっ!」

五人同時に腰に手を当てて、瓶を傾けて勢いよく牛乳を飲み始める。
ゴクゴクと飲み下す度に五人の白い喉は上下に動いて、男性が見たら興奮を抑えられないだろう。
彼氏のクラウドたちなんかは鼻血出して卒倒するのは想像に難くない。
量はそんなに多くはないので五人はすぐに飲み干すと各々に息を吐いてそれから笑い合った。

「本日の儀式終了!!」
「ユウナさん、この儀式っていつもやってるんですか?」
「ううん、流石に人がいない時だけだよ」
「さ、瓶を片付けて出よっか。みんなでご飯食べるんでしょ?」
「そうだった!早く行かないとお店混んじゃう!」
「大丈夫よリノア、この時間ならまだ空いてるわ」

デュースたちは少し慌ただしくしながらも仲良く銭湯を出ると、その後準備をしてレストランに行った。

初めての銭湯とクリスタルヘブンのメンバーで一緒に風呂上がりの牛乳を飲んだ事はデュースにとって大切な思い出になるんであった。











END



→その頃、男湯では・・・
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