クリスタル横丁

□チョコ・チョコ・チョコ(多分真面目)
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「これ、やるよ」
「そうか・・・ありがとう」
「べ、別に・・・」
「ユフィ」
「な、なんだよ」

しかしヴィンセントは何も語らずただ静かにユフィの頰に手を添えて目線を合わせさせてくるだけだった。
宝石のような紅い瞳にユフィは言葉を封じられ、ぱくぱくと唇を動かす事しか出来ない。
そんなユフィをおかしく思ってかヴィンセントはふっと意地悪に微笑むと顔を近付けて来た。
互いの吐息がぶつかり合い、目の距離が近くなる―――

「ストーーーップ!!!」

ガバッと勢いよく起き上がってユフィはストップをかける。
息を乱し、肩をこれでもかと上下させるが、今目の前に広がっているのは暗がりの見慣れた自室。
幻想的な空間でもなければ先程の意地悪く微笑むヴィンセントもいない。
つまりは夢オチである。
しばらく心臓が煩く鳴っていたユフィだったが、漸く現状を理解すると大きく息を吸って盛大に吐き出し、落ち着きを取り戻した。

「なーんだ、夢か」

嬉しいような残念なような。
いや、残念な事などない。
大体自分とヴィンセントはそういう関係まで行ってないしそこまで行く予定も―――

「予定とかないない!元からないっての!!」

勢いよく首を左右に振って思い浮かんだ言葉を否定する。
一体自分は何を考えているのやら。
余計な事を考えない為にも毛布を被って布団に潜り、目を閉じて只管睡魔が来るのを待った。
しかしその間にも頭は無意識に先程の夢を思い出し、より鮮明さと補正を入れて来る。
燃えるような紅い瞳、陶器のような白い肌、嫉妬するくらい美人で整った顔。
滅多に見せる事のない意地悪な微笑みに夢の中でもときめいた。
出来る事ならもう一度同じ夢を―――

「見ないっての!!」

ユフィは自分にスリプルをかけると強引に眠りに就いた。
が、二時間後にまた似たような夢を見て飛び起きるのであった。










一方その頃、ヴィンセントはと言うと・・・


「・・・なんという夢だ・・・」

悪夢以上の悪夢、いや、悪い夢ではないのだが罪悪感でいっぱいの夢を見てしまっていた。
夢の内容はこうだ。
ユフィからバレンタインチョコを貰うのだがなんだかユフィの様子がおかしい。
頬を赤く染め、どこか恥ずかしそうな照れくさそうな表情を浮かべており、加えて色香を放っていた。
『それ、開けてみてよ』なんて言い放つユフィは何かを期待していて瞳は熱っぽかった。
そのチョコには媚薬が仕込まれていたのだろうか。
それとももっと過激な何かが仕込まれていたのだろうか。
どちらにせよユフィに何かが起こる事は間違いなかった。
しかし罪悪感を感じたのはそこではない。
一番はそのチョコとユフィに期待を持たずにはいられなかった自分だ。
チョコを開封する事によってユフィがどうなるか、また自分の手に入るのではないかという期待が膨らんで興奮気味だったように思う。

「すまない、ユフィ・・・」

ここにはいないユフィを思って謝罪の言葉を口にする。
しかしバレンタインを前にしてこんな夢を見るとは、自分はユフィにチョコの期待でもしているのだろうか。
精々で良くて義理チョコだというのにそれ以上を無意識に求めているというのか。
浅ましい自分に重い溜息を吐いてヴィンセントは再びベッドに沈んだ。


その後、似たような夢を見てまた溜息を吐くのはここだけの話である。










END




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