クリスタル横丁

□今年もクリスマス
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クリスマスで賑わうクリスタルデパート。
デパートの中央には大きなツリーが飾られており、店内の至るところにはクリスマスをモチーフとした飾りが施されている。
そんな中、エルオーネは目当ての品を購入して満足そうな顔で店から出てきた。

「オーナーへのクリスマスプレゼントと誕生日プレゼント、これでバッチリね。後はちょっとだけお店を覗いて行こうかな」

こういう季節のイベントを行っている時のデパートは見ているだけで楽しい。
売っている商品の殆どがクリスマス仕様となり、うっかり心を鷲掴まれてつい買ってしまう事も。
しかしそれも季節イベントの醍醐味。
手始めに向かいの雑貨屋を覗いてみようと一歩を踏み出したその時。

ブ、ツン・・・

「あれ?」

デパート内の電気が落ちて施設内全域が真っ暗になった。
突然の停電にデパート内はざわつき、中には驚いて泣き出す子供の声がちらほら聞こえる。
それに混じって店員が「すぐに予備電源が点きますので落ち着いてその場に立ち止まっていて下さい」と大きな声で知らせてきた。

(早く点かないかなぁ)

大人しくその場に留まって予備電源が点くのを待つ事にしたエルオーネ。
しかし、突然誰かに手首を引っ張られて無理矢理歩かされた。

「きゃっ!?」

暗がりで誰なのかよく分からない。
でもこの手首の引っ張り方、覚えのある薔薇の香り、これは・・・

「もしかして、オーナー?」
「黙って歩け」

怒ったような鋭い声。
いや、これは怒っているのではない、周りを警戒している声音だ。
臨戦態勢に入った時の声で、雰囲気もいつもの『意地悪オーナー』ではなく『英雄セフィロス』の空気を纏っている。
たかが停電如きでセフィロスオーナーは動揺したりしない。
という事はつまり、このデパート内にもしかしたら敵がいるかもしれないという事。
エルオーネは気を引き締めると大人しく静かにセフィロスオーナーに従った。
暗がりだったのでどこをどう歩いたのかは分からないが『非常口』の看板が点灯している入り口から出たのだけは覚えている。
恐らく裏口であろう。
扉を開けて外に出ればキンと冷たい空気が二人を迎え、先程まで温まっていた体を冷やしてくる。
しかしそんなものを気にせずに二人は無言で無音の中を歩いて行く。
そうして暫く歩いて、デパートが見えない所まで来て漸くセフィロスオーナーは止まった。

「ここまでくれば問題はない」
「ありがとうございます。あの、デパートにはやっぱり・・・」
「そのまさかだ」

セフィロスオーナーの答えを聞いてエルオーネは少し俯く。
エルオーネの持つ特殊能力を狙う者は後を絶たない。
たとえラグナが大統領を務める大国・エスタがあろうとも、セフィロスオーナーが傍にいようとも。

「・・・それにしても随分が手が込んでますね。デパートの停電だけじゃなくて町全体の電気も落とすなんて」

エルオーネはぐるりと電気の落ちた町並みを見回す。
どこも真っ暗で、街頭すらも電気が点いていない。
その中でぼんやりと小さく明かりが点いている家が何軒かあるが、恐らくはロウソクの光だろう。
しかしセフィロスオーナーはそれらには目もくれず街頭にサンダーを放って電気を灯すとベンチに座って言った。

「町の大規模停電はただの偶然だ。奴らが電気を落としたのはデパートだけだ」
「あ、そうなんですね。でもデパートに悪い人たちが残ったままですよね。何もなければいいんですけど・・・」
「お前を連れ出す前に全て排除したから問題ない」
「流石オーナー!じゃあ、今頃は連行されてる感じですか?」
「WPOの職員が無能でなければな」
「きっとしっかり連行されてるから大丈夫ですよ」

エルオーネは笑顔になるとセフィロスオーナーの隣に腰掛けた。
はぁ、と静かに息を吐きだすとそれは白くなり、すぐに宙に消えた。
今日も冷えるが今はこの寒さがなんだか心地が良い。
見上げた夜空は星がキラキラと輝いており、空の広さとちっぽけな自分を改めて思い知らされる。
今、この世界には自分とセフィロスオーナーしかいないように錯覚してしまう。

「今日は本当にありがとうございます。オーナーが偶然いてくれなかったら今頃どうなってたか」
「ただの気紛れだ」
「フフ、そうですか」

この「ただの気紛れ」に自分は何回助けられて来た事か。
そんなセフィロスオーナーだからこそ今年もプレゼントを買った。
勿論、2つ。

「はい、オーナー。今年のクリスマスプレゼントとお誕生日プレゼントですよ」
「ワインとワイングラスか」
「ええっ!?ワインはともかく、どうしてワイングラスって分かったんですか!?」
「お前が店で選んでいるのを見かけたからな」
「うぐぐ、折角のサプライズプレゼントが・・・」
「高いグラスを買おうとしたが結局安い方のグラスを買ったのもな」
「そ、そこまでっ!!?だ・・・だって予算オーバーしてたんですもん!結構高かったんですから!!」
「安物に妥協された私の誕生日プレゼント、か」
「た、確かに安物で妥協しちゃいましたけど気持ちは―――」
「御託は聞き飽きた。とりあえずは受け取ってやろう」
「あ、良かった」
「それから、安物を寄越すお前には安物がお似合いだ」

そう言ってセフィロスオーナーは正面を向いたままずいっと一つの紙袋をエルオーネの前に出した。
見覚えのある紙袋。
いや、見覚えがあるのは当然だ。
だってこれは、エルオーネがセフィロスオーナーへのプレゼントとして買った物と同じなのだから。
唯一違う所は包装がされていない事。
エルオーネはそれを受け取って紙袋の中身を覗くと期待に胸を膨らませた。

「箱の中、見てもいいですか?」
「好きにしろ」

落とさないように気をつけながら紙袋の中で箱の蓋を開ける。
そうして顔を覗かせたそれにエルオーネは喜びの声を漏らした。

「わぁ・・・!」

それはセフィロスオーナーに贈ったのと同じワイングラス。
唯一の違いはガラスに刻まれた模様だけ。
エルオーネはそれを取り出すと、今この町でたった一つの光である街頭に照らしてそのグラスを眺めた。
キラリと光るグラスと模様の美しさにエルオーネはうっとりと釘付けになった。
そしてそれを大事に箱にしまうと今日一番の満面の笑みをセフィロスオーナーに向けた。

「ありがとうございます、オーナー。とっても嬉しいです」

セフィロスオーナーはチラリとだけエルオーネを見ると「フン」とだけ言葉を漏らすだけだった。

「私、頑張ってお酒飲めるようにします。そしたら私とお酒を飲んで下さいね」
「嫌だ面倒だ断る」
「・・・」
「・・・」
「・・・」(←ちょっと泣きそう)
「・・・」
「・・・」(←泣きそう)
「・・・」
「・・・」(←もう限界)
「・・・お前が本当に飲めるようになったら飲んでやらん事もない」
「絶対に飲めるように頑張ります!」
「無理だろうがな」
「そんな事ないですよ!恐らく多分きっと」
「全く期待せずに待ってやろう」
「せめて1%くらいは期待してて下さいよ」
「それよりお前はこの後どこに行くつもりだ」
「恒例のクリスタルヘブンでクリスマスパーティーをしてスコールたちに送ってもらって帰るつもりです。
 オーナーはジェネシスさんとアンジールさんとクリスマスパーティーですか?」
「そんな所だ。ついでだ、送ってやろう」
「ありがとうございます。去年と同じですね」
「去年の事など忘れた」
「またまたぁ」
「頭の中から即削除したからな」
「えー?バックアップして下さいよ」
「断固拒否する」

そんな二人の会話はクリスタルヘブンに到着するまで続くのであった。
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