クリスタル横丁

□秘密のお料理教室
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「あ、サイスだ!おハロ〜」
「よう・・・」
「サイスもティファに料理習いに来たの?」
「いや、それは・・・まぁいいか」
「いいの?サイス?」
「どーせ隠したってすぐにバレんだろ。だったら今バラそうが後でバレようが同じだ」

半ば諦めたように言ってサイスは自分はお菓子を習いに来たのだとリノアに説明した。
勿論、口止めも忘れずに。

「へ〜、ドクターやみんなを驚かせる為にね〜。分かるよ、その気持ち!
 私もスコールを驚かせる為にこうやって頑張ってティファに教えてもらってるからね!」
「でも相変わらずぶきっちょなんだろ?」
「うぐっ・・・ちょ、ちょっとはマシになったよ!ね?ティファ!」
「そ、そうね。絆創膏の数はちょっとずつ減ってるわよ」
「先が思いやられるな」
「サイスもお料理出来るんだよね?だったらサイスも私に料理の仕方教えて?」
「はぁ?ティファがいるから十分だろ」
「それでも!私もサイスのお菓子作りの練習頑張るからいいでしょ?」
「つってもなぁ・・・」
「いいじゃない、サイス。みんなで頑張りましょう」

ティファが優しく微笑んで諭してくる。
この言い聞かせ方や笑顔はアレシアや長女役のセブンに通ずるものがあり、サイスは断るに断れなかった。
元々断る理由もないのだが、渋ってたのは照れくささの裏返しのようなものである。

「あーもう分かったよ!やりゃいいんだろやりゃぁ!」
「やった!サイスありがと〜!」
「ちょっ、抱きつこうとするな!」
「ハグハグだよ〜!」
「二人共、じゃれるのはいいけど今日はどうするの?ご飯にする?それともお菓子を作る?」
「今日はリノアの方が先に約束してたんだろ?だったらリノアの料理の方が―――」
「ううん、お菓子作ろう!美味しいお菓子を作ってサイスのお母さんたちを喜ばせてあげよう!」

サイスの言葉を遮ってサイスのお菓子作りを優先しようとリノアが提案する。
そんなリノアをサイスはまじまじと見つめながら驚いた。

「な、何言ってんだよ!?リノアの方が先だったろ!それにアンタだってスコールを喜ばせたいんだろ?」
「確かにスコールを喜ばせてあげたいけどサイスの家族も喜ばせてあげたいよ。
 だってその為にサイスは今日、誰にも知られないようにティファの所に来たんでしょ?だったらサイスを優先しなきゃ!
 家族の笑顔なんていつまでも見られるものじゃないんだよ」

リノアの台詞にサイスはある事を思い出す。
それは、リノアは幼い頃に母親を亡くしているという事だ。
母親の事がとても大好きだったと聞き及んでいる。
そして母親が亡くなってからは色々あって父親とは上手くいなかなくなったとも聞いている。
そんなリノアだからこそ、サイスのお菓子作りを応援しようとしてくれるのかもしれない。
こうなってしまっては食い下がるのはリノアの気遣いを無駄にしてしまう。
サイスは白旗を上げ、リノアの提案を受け入れる事にした。

「・・・分かった。じゃあ、今日はとことんアタシのお菓子作りに付き合ってもらうからな」
「うん!」
「その代わり!次の料理教室は絶対にアンタの料理をやるからな!絶対だからな!!」
「うんうん、分かってるよ!いいよね、ティファ?」
「リノアとサイスが良いならそれでいいわよ」
「わーい!ありがとう、ティファ!じゃあ今日はお菓子作りを宜しくお願いするであります!」
「あ、あります!」

敬礼をするリノアにつられるようにしてサイスも敬礼をする。
そんな二人を可愛らしく思いながらティファも「了解しました」と敬礼をして応えるのであった。












そして夕方。
ティファから借りたカゴの中、赤のチェックの布の下にスコーンを抱えてサイスは帰路を辿っていた。
凛々しい顔に浮かぶ表情は勝利のそれとは程遠い、疲労と白く燃え尽きた瞳。
お菓子は繊細だと聞いていたが、まさかアレほどとは・・・。
スコーンはまだ簡単な部類だから今の程度で済んだものの、他の難易度の高いお菓子を作る時は一体どうなるのやら。

「これ・・・どーすっか」

今このカゴの中にあるスコーンはサイスが作ったもの。
結構疲れたとはいえ、それでも紛れもなくサイスが頑張って作ったスコーンだ。
見た目はいまいちだがティファやリノアが食べてその味を保証してくれた。
だから何の問題もなく堂々と胸を張ってみんなの前に出せるのだが・・・やっぱり恥ずかしい。
こんなのは自分の柄じゃないと外側担当の自分が訴えかけてくる。
しかし折角ティファやリノアが手伝ってくれたのだから恥ずかしがらずみんなの前に出そうと内側担当の自分が訴えかけてくる。
両者の言い分はもっともであり、故に決められない。
そこに―――

「あれ〜?サイスじゃん」

後ろからジャックが声をかけてきてサイスは驚くと共に一瞬固まる。

「お・・・おう、ジャック、か?今、帰り、か?」

ギギギと軋む音がしそうなくらいぎこちなく振り向いてぎこちなく尋ねる。
これには流石のジャックも苦笑いをして困ったような表情を浮かべた。

「う、うん・・・そうだけど大丈夫?なんか変だよ?」
「べべべべべ別に何も変じゃねーよ!アタシはいつも通りだ!!」
「そう?ならいいけど・・・所でそのカゴなーに?すっごくいい匂いがするんだけど〜」
「あーこれか?これはなぁ・・・―――ティファが作ってくれたスコーンだよ」

此度の戦い、外側担当のサイスの勝利である。

「スコーン!?しかもティファの手作り!?やった〜!」
「ぐ、偶然会ってくれたんだよ・・・帰ってみんなで食べるぞ」
「うん!スコーン、僕が持つね!」

半ばひったくるようにしてサイスからスコーンの入ったカゴを取り上げるとジャックは上機嫌にステップを踏みながら前を歩き出した。
オマケに鼻歌まで歌い出す始末で、かなり喜んでいる事が伺える。
これがもしも自分の作った物だと言ったらジャックはどんな顔をするだろう、という考えからサイスは無意識にそれを口にした。

「―――もしもさ」
「ん〜?」
「もしも、そのスコーン、アタシが作ったっつったら・・・どーする?」

一体自分は何を聞いているのやら。
こんな事を聞いた所で微妙な反応をされるか気を使った反応をされるのがオチだ。
自分で自分を傷付ける自分は心底馬鹿だ、なんて肩を落としているとジャックはサイスの予想に反する反応を返してきた。

「えっ!?これサイスが作ったの!?凄いねサイス〜。や〜サイスが作ったんならそれはそれで楽しみだな〜」
「・・・」

先程と変わらずニコニコと笑顔を浮かべるジャックは本当に嬉しそうで、サイスの心を覆っていた雲が瞬時に晴れた気がした。
そこからはもういつものサイスで、「はっ!」と呆れたように刺々しい言葉を吐き捨てた。

「んな訳ないだろ、アタシがお菓子なんざ作るかよ」
「え〜?違うの〜?残念だな〜」
「気が向いたらいつか作ってやるよ。いつかな」
「気長に待ってるよ〜」

二人でスコーンの香りを楽しみながら夕焼けの帰路を辿るのだった。











オマケ


ジャック「みんな〜、サイスがスコーン貰って来たって〜。食べよ〜!」
ケイト「スコーン!?」
シンク「食べる食べる〜!」
キング「ホイップクリームなら用意は出来てるぞ」
ナイン「秒で用意かよ!!」
クイーン「スコーンと言えば紅茶ですね」
デュース「あ、私も紅茶の用意手伝います!」
エース「僕はマザーを呼んでくるよ」
サイス「マザーいるのか?」
エース「ああ、今日は仕事が早く終わったらしいんだ」
サイス「へぇ、マザーが。じゃあ、さっさと呼んでこい」



そして・・・



エース「ちょっと急な用事で立て込んでるから先に食べてなさい、だそうだ」
サイス「そうか・・・」
エース「でもすぐに来てくれるって」
エイト「じゃあ、先に食べるか?出来たてなのに冷めたら良くないし、マザーの気遣いを無駄にしたらダメだ」
トレイ「エイトの言う通りです。ゆっくり食べながらマザーを待ちましょう」
サイス「そうだな」
クイーン「それでは皆さん」

12人「いただきます!」

シンク「ん〜!美味しい〜!!」
デュース「やっぱりスコーンと言えばホイップクリームですよね」
キング「定番だからな」
セブン「“美味しいよ、サイス”」
サイス「お、おう・・・」


サイス(セブンの奴、気付いてるな)


アレシア「あら、いい香りがするわね」

サイス「マザー!」
ケイト「マザーの席ここだよ、ここ!アタシとサイスの間!」
クイーン「今紅茶を淹れますね、マザー」
デュース「マザーの分のホイップクリームも用意してありますよ」
シンク「クリームをたっぷり付けると美味しいよ〜マザー」
セブン「仕事はもう大丈夫なのか?マザー」

アレシア「ええ、すぐに片付いたから大丈夫よ」

ナイン「マザー、俺が肩揉むぜコラァ!」
ジャック「あ〜!僕がやろうとしてたのに〜!」
エイト「あまり騒ぐな。マザーが落ち着いてスコーンを食べられないだろ」
エース「エイトの言う通りだ。ところでマザー、今度みんなで映画を見に行かないか?今面白い映画が上映してるんだ」
キング「今大人気の映画『ゴリランデブー』なんてどうだ」
トレイ「いえいえ、ここは『ゴリラプソディ』でしょう」

アレシア「フフ、分かったわ。今度みんなで一緒に見に行きましょうね。ところでサイス」

サイス「あ、ああ、何だ?マザー」

アレシア「このスコーン、とっても美味しいわ。“上手に出来てるわね”」

サイス「・・・!そ、そうだろマザー!マザーさえ良ければスコーン以外でも何でも作るよ!」
ジャック「え?作る?」
サイス「お、お前は黙ってろ!!」







END




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