クリスタル横丁

□横丁の噂〜人を好きになる花〜
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冷たくあしらわれた花は悲しそうに揺れると今度は大きく花を開かせてその存在を強く主張した。
けれどセフィロスオーナーは変わらず、むしろ眼光鋭く永久凍土を思わせるような冷たい緑の瞳で一言。

「失せろ」

二回目は語気を強めて。
絆される事なく一切の情も見せず、ただただ冷たく。

酷く拒絶された花はまるでむせび泣くかのように見る見る内に萎れてしまい、やがてハラリハラリと花弁を散らせて床に落ちた。
エルオーネを苦しめていた棘も弱々しくなり、また蔦も萎れてシュルシュルと静かにどこかへ引っ込んだ。
隙を見て燃やしておきたかったが姿を消されてしまわれては仕方ない。

「ケアルガ」

懐から『かいふく』のマテリアを取り出してすぐにエルオーネの体中の傷を癒す。
痛ましい傷は完治出来たものの、服やソファには流れ出た血が染み付いていた。

「ぅ・・・うぅ・・・オー・・・ナー・・・?」

真っ青な顔で目覚めるエルオーネにセフィロスオーナーはただ無言でケチャップをぶちまけた。

「いやいやいやいやいや!!何でケチャップぶちまけるんですか!!?」
「マヨネーズの方が良かったか?」
「どっちも嫌ですよ!!」

「姉さん、起きた―――何やってるんだ、アンタは・・・」

「見て判らんか?」

(判る訳ないだろ・・・)

額を手で抑えてスコールは盛大に溜息を吐く。
誰かクラウド呼んでこい。

「ひど〜い、服が台無しじゃないですか」
「金をやるからそこの弟にでも買わせてこい」
「頼んでいい?スコール」
「ああ、それは別に構わないが」
「じゃあお願いね」

セフィロスオーナーから受け取った一万ギル札をエルオーネに渡されてスコールは服を買いに行った。
エルオーネの事が心配だったが一応はセフィロスオーナーがいるので大丈夫だと思いたい。
先程までの態度に腹を立てたものの、なんだかんだ言ってセフィロスオーナーは―――

「さっさと行かないと切り刻むぞ」

スコールはヘイストを自らにかけて風の如く教会を去るのであった。

「もう、スコールに意地悪言わないで下さいよ」
「さっさと行かない奴が悪い」
「またそんな事言って―――あ・・・」

立ち上がろうとしたエルオーネだったが貧血から来る酷い目眩が彼女を襲い、足元をふらつかせる。
結果、倒れそうになった所をセフィロスオーナーに抱きとめられた。

「すい・・・ま、せん・・・」
「寝てろ」
「でも・・・ソファ、ケチャップまみれ、です・・・」
「私のソファで寝てろ」
「・・・ケチャップ、ついちゃいますよ?」
「そろそろ買い換える予定であったから丁度良い」
「そっか・・・」

気怠そうに、けれどもどこか嬉しそうに小さく微笑みながらセフィロスオーナーに支えられてエルオーネはソファに横になる。
セフィロスオーナーの香りのするソファがエルオーネを酷く安心させる。
なんだか良く眠れそうだ。

「今日は焼き肉屋に行くぞ」

微睡みの中、セフィロスオーナーの声が耳に心地よく響く。
「はい」と返事をしたが上手く届いただろうか。
行くまでには少しは良くなっているだろうか。
帰りには出来れば店に寄ってまたシーツを買いたい。
それから何かお礼をしたい。

色んな想いを胸にエルオーネは静かに眠りに就くのであった。

















横丁のとある花屋の店先に開かれているバケツには赤い花が活けられていた。

「お、綺麗だな」

一人の男が赤い花に目をつける。
真っ赤な真っ赤な血の色のような赤い花―――。

「すいませーん、この花下さい」

男が手に取った真っ赤な花は風に吹かれると妖艶にその花びらを揺らめかせるのだった。











END





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