クリスタル横丁

□横丁の噂〜人を好きになる花〜
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次の日。


今日も今日とて教会に足を運ぶセフィロスオーナー。
扉を開け放てばいつものようにコーヒーを淹れたエルオーネが―――いなかった。

「・・・」

いつもいる訳ではないので、まぁ不思議ではない。
気にせずに中に入ろうとすると―――

「あ、オーナー」

背中から声をかけられた。
少しだけ弱々しい声。
振り向けば普段着のエルオーネがいて、手首と足首に包帯を巻いていた。

「傷の手当てと部屋の点検をしてたら遅くなっちゃって・・・」
「見せろ」

エルオーネの返事など聞かずに強引に腕を引っ張って袖を捲って包帯を解く。
顔を覗かせた手首には昨日よりも多くの傷が付いていた。
その傷口は昨日より深い様子であった。
セフィロスオーナーは懐からマテリアを取り出すとケアルガを唱えて傷を癒した。

「本当に部屋には誰も入ってきていないんだな?」
「その筈です。それらしい痕跡はどこにもなかったですし・・・」
「・・・」
「また・・・シーツ買って来なきゃ」
「今日は蕎麦の店に行くぞ」
「・・・!はい!」

満面の笑みを浮かべてエルオーネは嬉しそうに頷いた。





その日の夜。
エルオーネにバリア・マバリアをかけ、部屋の確認と侵入者対策をして帰宅したセフィロスオーナー。
すると、またテーブルの上に棘のない一輪の赤い花が横たわっていた。
何かを主張するように花開かせるそれに、しかしセフィロスオーナーは興味を示さない。
だから昨日と同じように無言でゴミ箱に捨てて部屋に戻った。
でも、戻った部屋の枕元にも赤い花が横たわっていた。
しかしセフィロスオーナーは動じず無言で花をゴミ箱に捨てるのであった。















翌朝。
忘れ物を思い出して朝から教会に立ち寄ったセフィロスオーナー。
扉を開けると、エルオーネの代わりに別の人間がエルオーネ用のソファの近くの壁に寄りかかっていた。

「珍しい客だな。神(私)に縋りに来たか」
「・・・そんな所だな」

セフィロスオーナーの皮肉めいたセリフに客人―――スコールはやや重々しくそれを肯定した。
いつも皺が寄っていそうな眉間により深い皺を寄せて。
一体何事かと思って何気なくエルオーネ用のソファに目線を送ると―――エルオーネがソファの上に静かに横たわっていた。
血の気のない、穏やかではない顔で。

「・・・また傷が出来たのか」
「また?今回が初めてじゃないのか?」
「聞いているのは私だ」
「答えてやるから俺の質問にも答えろ。姉さんはいつからあんな傷が出来ていた?」
「チッ、二日前からだ」
「二日前?二日前からあんな傷を負っていたのか?」
「一日目に手首、二日目に手首足首に切り傷と刺し傷が出来ていたな」
「段階を追って傷の範囲が広がって来ているのか・・・」
「次は私の質問に答えろ。今度はどこに傷が出来た?」
「・・・全身だ。顔だけを残してほぼ全身に深い切り傷と刺し傷が出来ていた」
「・・・」
「半分パニックになりながら携帯で俺に連絡してきた。急いで駆け付けると血塗れのベッドの上で姉さんが怯えていた。
 幸い命に別状はなく、ケアルガで完治出来たが貧血でこうして眠っている」
「翌朝までバリア・マバリアが続くように魔法をかけた」
「俺が来た時には解除されていた」
「侵入者対策もした」
「調べたが誰かが入った形跡は一つもなかった」
「そもそも何故お前が呼ばれた?すぐに私を呼べるようにとコイツは私のアドレスページを開いていたぞ」
「アンタ、姉さんとアドレス交換してたのか・・・?」
「コイツの携帯は?」
「これだ。姉さんのプライバシーもあるからあまり見るなよ。って言ってもロックがかかっているが」
「コイツにプライバシーなどという上等なものは存在しない」

いつもと変わらず辛口で言い放ってエルオーネのスマホを開くセフィロスオーナー。
迷いのない滑らかな動きでホーム画面のロックを解除するその指にスコールは「何でロックナンバーを知ってるんだ」と呆れにも似た疑問を抱いた。
何故かアドレスを教えていないのにメールや電話をしてきていたが、この分だと全員のスマホのロックナンバーを知っていそうである。
アドレスに関してはエルオーネに教えてもらった可能性があるが、本人は一度も教えた事はないと言っていた。
それにセフィロスオーナーが態々エルオーネに教えてもらうなんて事もあまり考えられない。
情報部と同等かそれ以上の情報を有するセフィロスオーナーにスコールは改めて恐ろしさを覚えるのであった。

「・・・私のアドレスが消えているな。代わりにお前のアドレスが開かれていたようだ」
「姉さんがアンタのアドレスを消すとは思えないな」
「お前たちの親父が遠隔操作で消したのだろう」
「アンタじゃあるまいし、いくらなんでもそんな事はしない。それに今は母さんとキーリカに旅行中だ」
「そうなると残されたのは物好きなストーカーだな。それも近年稀に見る奇跡の物好きだ」
「真面目に話せ!ここに姉さんを連れて来たのだって姉さんが―――」

ブブブ、とスコールのポケットに入っていた携帯が着信を受けて震える。
ディスプレイを確認すると、言い足りないといった表情をセフィロスオーナーにぶつけながら着信に出た。

「もしもし」

通話しながら歩いて教会の外に出て行くスコールを横目に、改めてエルオーネの方をチラリと見る。
今の所変わった様子は見受けられない。
呪いだなんて眉唾なものは信じないが、アイテムや魔法という形でならその存在は否定出来ない。
しかしそうなるとエルオーネを苦しめる理由は一体なんなのだろうか。
エルオーネを狙う奴らによる、痛みを植え付けてそれを脅しに従わせるつもりか。
それとも単純に恨みからか。
どちらにしても厄介な者に目を付けられたようである。
一体どこの物好きが―――

「うぅ・・・」

苦しそうな呻き声が聞こえてサッと振り向く。
見れば、エルオーネの全身に鋭い棘のある蔦が巻き付いているではないか。
蔦が締め付けるように蠢く度にエルオーネの白い肌は鋭利な棘で引き裂かれ、そこから鮮血を流していく。。

「・・・」

まるで生き物のように不気味に悪意を持ってエルオーネを苦しめる蔦をセフィロスオーナーは無言で引き千切ろうとする。
が、そこでまた異変が起きる。
蔦はより一層エルオーネを締め付けるとその柔肌に棘を深く差し込んだ。
そしてそこから血を吸い上げているのか、蔦がドクドクと脈を打つように蠢き始めた。
やがてそれらは一箇所に集ってエルオーネの首元に一つの蕾を実らせる。
血を栄養分にスクスクと育つ蕾は一度ギュッと締まったかと思うとフワリ、と舞い踊るように花を開かせた。
開いた花の花弁は天使の羽のように白く美しかったがそれも束の間。
今も尚吸い上げている血が花の元まで送り込まれ、花弁の根本からじわじわと真っ赤に染まっていく。
先程まで美しかった白は瞬く間に鮮血の赤に侵食されて真っ赤に染め上がる。
そうして咲き誇ったそれはここ数日、セフィロスオーナーの部屋に置かれていた花そのものであった。
ステンドグラス越しの光を受けて鈍く不気味に輝く花はどこか誇らしげで何かを主張する。

しかし、セフィロスオーナーは根本を締め付けるように強く指で挟んで一言。

「失せろ」

ただ冷たくそう言い放った。
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