クリスタル横丁

□横丁の噂〜人を好きになる花〜
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クリスタルヘブンにて・・・


ユフィ「ねー知ってる?」
ケイト「んー?」
ユフィ「なーんかこの横丁にはいわく付きの花があるんだってー」
リュック「呪われるとかそーいうの?」
ユフィ「んー、遠からず近からずってとこかな〜。なんか人の事を好きになるみたいよ。主に男」
セルフィ「好きになるって何で判るん?」
ユフィ「噂によるとその花に好かれると纏わりつかれて気付くとその花が身の回りにあるんだって。
    んで、好きになった人が他の女の人と仲良くしてるのを見ると嫉妬して相手の女をじわじわと殺そうとするらしいよ」
ケイト「うひゃー、随分とストーカー気質な花だね」
セルフィ「しかも凄い過激やな〜」
リュック「その花ってなんか特徴とかあるの?」
ユフィ「何色だったかな〜・・・確か赤だったよーな。元は白い花だったんだけど嫉妬の対象を殺す時に血を吸って赤くなったらしいよ」
リュック「益々不気味な花だね〜」
ケイト「ウチの男共がそんなのに好かれなきゃいいけど」
セルフィ「せやね、みんななんだかんだ言うて優しいし心配になるわ」


















同時刻、セフィロスオーナーは街を歩いていた。
休憩時間をいつものように教会で過ごそうと足を運んでいたところ―――

「きゃっ!」

花屋の店員がバケツに足を引っ掛けてバケツの中に入っていた花をセフィロスオーナーの前にばら撒いてしまう。
赤色の美しい花々が地面に横たわる中、一際異様な輝きを放つ一輪の花があった。

「・・・」
「せ、セフィロスオーナー!?すいませんでした!!」

店員の女性はセフィロスオーナーを認識すると顔を赤らめながら慌てて花を片付け始めた。
そんな店員に目をくれる事もなくセフィロスオーナーはただ一輪の花を見つめる。
まるで何かを語りかけてくるようなその花はどこか不気味なものを感じる。
異彩を放つこの花は一体なんなのだろうか。
そう考えようとした所、花は店員の手によって茎を指先で掴まれ、セフィロスオーナーの前に差し出された。

「あ、あの!宜しければどうぞ!ご迷惑をおかけしたお詫びです!」

真っ赤な顔で一生懸命告白もといお詫びをする店員にしかしセフィロスオーナーは

「いらんな」

と、興味なさげに言い捨てて横を通り過ぎて行った。
これに対して店員はガッカリするどころか益々セフィロスオーナーへの好意を高めていくのであった。
そして、その手に掴まれていた花も―――。







教会に辿り着いたセフィロスオーナーはいつものように自分専用のソファに腰掛けて一息ついていた。
すると、ソファの目の前にある小さなテーブルに淹れたてのブラックコーヒーが置かれる。

「お仕事お疲れ様です、オーナー」

コーヒーを置いたのはエルオーネ。
セフィロスオーナーが来る頃合いを見計らってコーヒーを用意しておいたのだろう。
トレーには本日のお茶受けと思われるクッキーが乗せてあった。
エルオーネはそのクッキーと自分の分のミルクコーヒーを同じくテーブルの上に置くとセフィロスオーナーの隣に座った。

「今日のクッキーはとっておきですよ」
「劇薬でも入れたのか」
「そんな物騒な事しませんよ。オーナーのお気に入りのメーカーのクッキーです」
「気に入っているなどと言った覚えはない」
「でもこのクッキーを出したらいつもよりも沢山食べてますよ」
「気の所為だ」
「照れなくてもいいの―――いたっ!」

エルオーネがソファに手をついた時、何か鋭い物がエルオーネの指を突き刺した。
反射的に手を引っ込めて確かめてみると―――鋭い棘を茎に纏った一輪の花がエルオーネの隣に横たわっていた。
まるで威嚇するような鋭い棘はエルオーネを突き刺した時に出た血を湛えて不気味に輝く。

「花?なんで花がこんなところに―――っ!」

茎に指を添えて花を掴もうとすると、また棘が刺さって痛みからエルオーネは花を落とした。

「何をしている」

エルオーネに変わってセフィロスオーナーが花を掴み取る。
棘は存在していたがその鋭さは鳴りを潜めているようで、言うほど尖っているようには見えなかった。

「こんな物もまともに取れないのか」
「気をつけてた筈なんですけど・・・」
「全く気をつけていなかったという事だな」

セフィロスオーナーは軽く笑うとケアルを唱えてエルオーネの指の傷を癒した。
緑色の温かい光に包まれて傷は瞬く間に塞がった。

「ありがとうございます」
「フン」

セフィロスオーナーは花をテーブルの上に放り投げるとコーヒーカップに手を伸ばした。














翌日。
昨日と同じように教会に赴いたセフィロスオーナー。
扉を開けて中に入ればシスターの衣装を纏ったエルオーネが二人分のコーヒーを淹れて出てきた所であった。
が、黒い袖から小さく覗く不釣り合いな物が目についた。

「これはどうした」

強引にエルオーネの手首を引き寄せて袖から覗いていた物を暴く。
顔を出したのは傷を覆い隠す白い包帯―――。
エルオーネは努めて明るく、けれどどこか困ったように包帯について説明した。

「朝起きたらいくつか刺し傷や切り傷が出来てたみたいで・・・」
「誰かが来たという訳ではないのだな?」
「もしそうだったら大騒ぎしてスコールやオーナーに連絡してますよ」

冗談めかして言い放つエルオーネたがその表情はどこか暗い。
朝起きたらいきなり手首に刺し傷や切り傷が出来ていたのだ、無理もない。
セフィロスオーナーは何の遠慮もする事なく包帯を解くと回復のマテリアを取り出した。
白く華奢な手首に浮かぶ悪意のこもった切り傷・・・それがいくつもあった。
まだ新しい傷である所為か、酷く痛々しく見える。
それらを睨みながら淀みなくケアルガの呪文を唱えてエルオーネの手首の傷を癒す。
緑色の温かい光がエルオーネを包みこむと傷は瞬く間に塞がり、元の綺麗な手首へと戻った。

「ありがとうございます」
「傷はこれだけか?」
「実はもう片方の手首も・・・でも、今のオーナーの魔法のお陰で治ったと思います」

エルオーネはもう片方の袖を捲り、もう片方の手首にも巻いていた包帯を解いてみせる。
その下から出て来たのは傷一つない真っさらな手首だった。

「ホラ!治って良かった」
「原因は分かっているのか?」
「それが全く・・・ベッドには傷付くような物なんて置いてないし、動物も飼ってないし・・・」
「お前の事だ、枕の下に隠した包丁で寝ている間に傷付けたんだろう」
「包丁なんか隠してませんよ!あ、でも暗器とか隠してみたいかも」
「鈍いお前が暗器を隠した所で何の役にも立たんぞ」
「ぐうの音も出ませんよ・・・それよりコーヒー飲んだら一緒にお買い物に行きませんか?
 傷でシーツ汚れちゃったから買い換えたいんです」
「上下反対か裏表にして使え」
「なるほど、その手が!なんて言うと思いました?」
「お前の分際でノリツッコミを覚えたか」
「対オーナー用に修得しました(ドヤァ)」
「心底どうでもいい。とにかく買い物は一人で行け。私はここにいる」
「そう言わずについでに二人で何か美味しい物食べに行きましょう!」

この後、エルオーネに引き摺られてパスタの店に入っていくセフィロスオーナーが見られたと言う。








その日の夜。
セフィロスオーナーが帰宅するとテーブルの上に棘のない一輪の赤い花が横たわっていた。
昨日と同じ、異様な輝きを放つ真っ赤な花―――。

けれど、セフィロスオーナーは何の言葉も発する事なくその花をゴミ箱に捨て去るのだった。
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