クリスタル横丁

□ニャんということでしょう
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(ここがヴィンセントの家か〜・・・って!あんま見ちゃダメだよアタシ!!)

ヴィンセントの腕の中でヴィンセントの部屋の中を見回しそうになったユフィだったが、すぐに頭を伏せて見ないようにした。
なんか覗きをしているようで後ろめたい気持ちになる。

「おかしな事はしない、怖がらなくていい」

柔らかい声が降ってきて落ち着かせるように優しく背中を撫でられる。
別に怯えた訳ではないが言った所で「ニャー」としか言えないので弁解はしない。
それよりも背中を撫でてくれる大きな手のなんと温かく優しい事か。
よくチョコボ牧場でヴィンセント専用のチョコボが撫でられて凄く嬉しそうにしているのを見かけているがその気持が今ならよく判る。
こんな優しい手で撫でられれば動物だって人間だって嬉しい筈だ。
今だってユフィはうっとりとしていて・・・

(ないない!うっとりなんかしてないし!ちょっと背中痒かったから気持ちいいと思っただけだし!!)

ぶんぶん!と頭を振って蕩けそうになった思考を振り払う。
ダメだダメだ、ヴィンセントの事はこの間諦めたじゃないか!
それなのにまたこんな・・・

「イタズラをしないなら好きにするといい」

いつの間にやら到着したソファにヴィンセントは座っていて、空いている方のスペースに優しく下ろされた。
柔らかく弾力のあるソファは触り心地が良く、すぐにユフィは気に入ってゴロンと横になる。
ネコだから広く感じられるし、体を大きく伸ばしてもソファからはみ出る事もない。
今のこのネコになっている状況も悪くないものだ。
でも、不便な事が一つ。

(喉乾いたなぁ)

何か飲みたいがこの姿では冷蔵庫を開けるのは愚か、水道の蛇口を撚るのも一苦労だろう。
仮に蛇口を撚るのに成功出来たとしてもびしょ濡れになるのは避けられない。
そんな訳で遠慮する事なくユフィは読書をしていたヴィンセントの太腿をペシペシと叩いて意識をこちらに向けさせた。

「ニーニー」
「どうした?」
「ニャッ(水欲しい)」
「ん?」
「ニャニャ(こっち)」

シュタッ!とソファから降りるとユフィは一鳴きしてキッチンへと歩き出した。
未だに意図を掴めぬヴィンセントは、しかしどこかに連れて行こうとしているのを察して本を閉じて同じく立ち上がった。
キッチンへ歩く最中、いつもより目線が低いからいろんな家具の足元しか見えないが慣れればこれはこれで面白いと気付くユフィ。
ちょっと顔を上げれば背の高い家具が沢山。
体を動かすのが好きなユフィにとっては足場のある背の高い物はジャンプ欲を刺激される。
後で隙を見て登ってみようか?
いやいや、ここはヴィンセントの家なんだから大人しく・・・

・・・・・・カサ

「・・・・・・ニャ・・・」

瞬間、ユフィは絶望した。
身の毛もよだつ恐怖を感じた。
心が凍りつくのをじわりと感じた。
呼吸を止め、動くのを止め、現実逃避から意識をなくそうとする。
失神出来ないのが悔やまれる。

「どうした?ユフィ」

・・・・・・カサ

「ニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

“奴”がほんの少し体を動かした瞬間、ユフィは絶叫をして一目散に窓際のカーテンレールの上に駆け上った。
忍びだからか、ネコだからか、滑らかにすんなりと昇る様は美しくすらある。
そしてカーテンレールの上に避難した後は体を丸め、前足二本で頭を覆ってガタガタと震えだす。
一方で取り残されたヴィンセントはユフィが見ていた方に視線を向けた。
そして、察した。

「・・・なるほど」


スパァン!

ガサガサガサガサ

ギュッギュッ

ポイッ

バシャバシャ(手を洗ってる)


「ユフィ、もう大丈夫だ」

迅速に“奴”を討伐・処理・手洗いを済ませたヴィンセントはユフィが逃げ込んだカーテンレールの下へ赴いて腕を伸ばした。
ユフィを安心させる為か、声は柔らかい。

「“アレ”はもう倒した。だから降りてこい」
「ニャァ・・・?(本当・・・?)」
「そこは埃だらけで汚れるぞ」
「ニー・・・?(お、降りていいんだね?」
「おいで、ユフィ」

(はうぁ!?)

「おいで」という柔らかく優しい声音とセリフにユフィのハートは撃ち抜かれる。
ネコな見た目の所為もあってペット感覚でいるのだろうがそんなのは気にならない。
それよりも、だ。
こんな風に呼ばれて行かない者がいるだろうか?
ユフィは・・・無理だった。

(ええい、もうどうにでもなれ!!)

しゅばっ!とカーテンレールを蹴り、ユフィはヴィンセントの腕の中に飛び込む。
ヴィンセントは上手にそれを受け止めるとユフィの黒い毛に付いた埃を優しく振り払った。

「埃まみれだな」
「ニー(ちゃんと掃除しないからだろー)」
「今綺麗にしてやろう」
「ニャ〜(宜しく〜)」

風呂場に連れて行かれ、熱すぎず冷たすぎない温度のお湯で優しく洗われた。
心地の良いお湯の温度と優しく洗ってくれるヴィンセントの手にユフィは酔いしれ、やがてうとうとと眠りこけた。
そうして次に目覚めた時にはふんわりと石鹸の香りが漂う体でソファの上で横になっていた。
楽出来るしヴィンセントは優しいしで、ネコののままでもいいじゃないかと思えてくる。












さて、そうこうしている内にあっという間に夜になった。

「窮屈かもしれないがこれに潜って寝てくれ」

ヴィンセントのベッドの上でユフィはヴィンセントが用意したTシャツの襟から首を出して丸まっていた。
曰く、よくある『お約束』を回避する為だとか。
別に言うほど窮屈でもないし、『お約束』回避の為ならなんて事はない。
ユフィは「ふにゃぁ」と欠伸をすると瞳を閉じて眠りについた。

「お休み、ユフィ」
「フニ〜」

最後に返事をした時のユフィは既に夢現であった。
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