クリスタル横丁

□ダブルプレゼント
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日が傾き、空が暗くなってきた頃。
こんな時間になってもエルオーネとセフィロスオーナーは教会でダラダラしながら過ごしている事が殆どである。
が、今日は違った。

「先に帰るので鍵、お願いしますね」

そう言って立ち上がるとエルオーネは帰り支度を始めた。
ちなみにこれは今日が初めてではない。
ここ最近、エルオーネはこんな調子である。
本を読んでいたセフィロスオーナーは視線をエルオーネに移して理由を尋ねてみた。

「最近はやけに帰りが早いな」
「暗くなってきて危ないですからね。明るい内に帰らないと」
「お前を襲う物好きなんぞ存在しないから心配するな」
「そんな事ありませんよーだ・・・多分」
「絶対に有り得ないと断言する」
「私にそんな毒舌吐いちゃっていいんですか?でないと・・・あ」

いけない!と言った感じでエルオーネはすぐに口を噤む。
何を言ってしまいそうになったのかは判らないがセフィロスオーナーは続けた。

「でないとなんだ?『Jの悲劇』とやらでも起こすか?」
「あ、それいいかも!」
「やってみろ。そしたら『Jの惨劇』をお前にお見舞いしてやろう」
「だったらそれのお返しで『Jの残酷なるテーゼ』を―――」

そんな調子でいたものだからエルオーネの帰宅時間は一時間程延びてしまったという。











別の日。


「へっくしゅ!」

昼間の教会、ソファの前に置いてあるヒーターで暖を取りながらシンクとお喋りしていたエルオーネは突然くしゃみをした。
鼻をすすりながら体を震わせ、寒そうに自分の体を擦る。

「だいじょーぶ、エルオーネ?風邪?」
「大した事ないから大丈夫よ」

「バカは風邪を引かないと聞いたがな」

ソファに深く腰掛け、右手を背もたれに、左手に本を持って読書をしていたセフィロスオーナーがすかさず嘲笑しながら貶してくる。
しかしそれに対してエルオーネは勝ち誇ったように言い返した。

「フフン、私もバカではなかったという事ですよ」
「だが最近では健康管理が出来ない奴の方がバカだという説もあるがな」
「あー言えばこー言う」
「事実を言ったまでだ」
「もう!」

ぷくっと頬を膨らませて怒るエルオーネを他所にセフィロスオーナーは本を閉じると仕事カバンを持って教会から出て行った。



そして夕方・・・



「暗くなってきたね〜」
「そろそろ帰ろっか」

ソファから立ち上がって帰る準備に取り掛かろうとした時、ガタン、と教会の扉が開く音がした。
2人揃って振り返ってみれば、帰りがけであろうセフィロスオーナーがカバンとコンビニ袋を片手に持っていた。

「お帰りなさい、オーナー。何か忘れ物でもしたんですか?」
「荷物を取りに来た。私宛に来ただろう?」
「ええ、来ましたよ。そこのテーブルに置いておきましたから」
「そうか、ご苦労だったな。それから―――」

ツカツカと歩み寄ってエルオーネの前で止まると、セフィロスオーナーはコンビニ袋を持つ手をずいっと前に差し出してきた。
きっと受け取れ、という事なのだろうと察したエルオーネは袋を受け取り、中を見た。
すると、中には『ココア』と書かれた1つの箱が・・・。

「あ、ココアだ。どうしたんですか?」
「ファンタジーマートでくじ引きキャンペーンがあって当てた。いらんからお前にくれてやる」
「やった!ありがとうございます!」
「私はこれで帰る。お前らもさっさと帰れ」
「はーい」
「は〜い」

荷物を片手に抱えてフィロスオーナーはそのまま帰った。

「良かったね〜、ココア」
「うん!明日シンクも一緒に飲む?」
「うーうん、私はいいや。ホットミルクの方が好きだし。家で飲んだら?きっと温まって風邪も治るよ〜」
「じゃあ、そうしようかな」

(それにココアはくじ引きの対象外だったと思うんだよね〜)

シンクがココアの真実をエルオーネに語る事はなかったという。













また別の日。


エルオーネが買い出しの用事で街を歩いていた時、偶然にもアンジールと出会った。

「あ!アンジールさんだ」
「ん?確か・・・エルオーネ、だったか?」
「丁度良かった!聞きたかった事があるの!」

エルオーネはとある事情をアンジールに話して、とあるお願いをした。
しかし全てを聞き終えたアンジールは首を横に振って穏やかに微笑みながら諭すように言った。

「いや、それはアンタ自身がやるべきだ」
「でも・・・」
「大丈夫だ、俺がなんとかする。そっちは連絡を待っててくれ」
「うん、判った」

アンジールの協力を得られてエルオーネはとても喜んだ。
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