クリスタル横丁

□モヤモヤシンドローム
2ページ/6ページ

さて、Wデート当日がやってきた。

「今日は宜しくお願いしますね」
「2人共、今日は付き合ってくれて感謝するよ」
「こっちこそ誘ってくれてありがとね」
「2人の邪魔はしないよう、私もユフィも気をつけよう」

話もそこそこに四人はお化け屋敷の中へと入っていく。
その後を三人の女の子と一人の男が物陰に隠れながら見守る・・・。

「入ってったよ」
「作戦開始やな!」
「ところでセフィ、なんでケイトがいるの?」
「ケイトは今回の作戦の助っ人にして要やで!
 インビジでユフィたちに見つからず後ついていけるし、他にも色々やってもらう予定やし」
「なるほどね〜。じゃあ宜しくね、ケイト」
「まっかせてよ!じゃ、早速お化け屋敷の中に入って行くよ!」

ケイトは複雑な呪文を唱えると自分たちにインビジの魔法をかけた。
すると四人の姿は透明になり、たちまちに周りからは見えなくなった。
けれどユフィたちは戦士なので姿を消した所で気配などで気付かれてしまいそうだが・・・そこは何とか頑張る方向だ。
四人の存在に気付かぬまま余所見をしている係員の横を通って四人はユフィたちの追跡を開始する。

「うぅ・・・割と本格的に作られてますね・・・」
「僕が手を引くから目を瞑っててもいいぞ」
「だだ、大丈夫です!こんなの・・・大丈夫・・・です・・・」

エースの腕にしっかりと抱きつくデュースだが、言葉と裏腹にどんどん声は震えていく。
こういうお化け屋敷などがデュースは苦手なのは知っているが、こうして怖がって抱きついてくる姿を見たくて態と誘った節はある。
我ながらなんとも意地の悪い事をしていると自覚しつつもエースはやめる事が出来なかった。

「デュースってば大胆だね〜」
「狙ってやっている訳ではないと思うが」
「そりゃ勿論そーだけど、それでもねぇ?」

エースたちからやや距離を取って後ろを歩くのはユフィとヴィンセントのペア。
しかし2人はお化け屋敷などに関しては耐性があるのでへっちゃらな顔をしており、いつも通りの距離を保っている。

「ユフィって暗いの苦手じゃなかったっけ〜?」
「完全な真っ暗はあかんねんや。でもこういう、ちょっと明るいとこは平気やねん」
「どうする?やっちゃう?」
「いいよいいよ、一発やっちゃえ!」
「何々?何するの〜?」
「じゃじゃ〜ん!これをユフィに撃つんだよ」

アーヴァインが尋ねるとケイトは懐から紫色に光る魔法弾を取り出して見せてみた。

「え?撃つの〜!?」
「撃つって言っても殺傷能力はないよ。痛みを感じても蚊に刺された程度の痛みだよ」
「アタシの改造をもってすれば痛みを軽減するなんてチョチョイのチョイだよ!」
「そこにアタシの魔法とケイトの魔法をミックスしたんやで〜!」
「その名も『逆コナ○弾』!」
「すごい!どんな効果なのか一発で判るね〜!でも大丈夫?戻る時とかちょっと苦しんじゃうんじゃない?」
「そこもアタシとケイトの魔法でなんやかんやしたから平気やで!」
「流石セフィとケイト〜!ちなみにこれ、どういうシナリオになる予定?」
「暗い中、何かが刺さる感触がしたユフィ。蚊に刺されたかな?って思いながらヴィンセントたちとお化け屋敷を出る。
 その時!大人びたユフィがそこにいてヴィンセントはときめく!そうして2人の距離は・・・っていうシナリオやで!」
「おお!いい感じだね!」
「早速決行しよう!」
「せやな!ケイト、頼むで!」
「了解!」

自慢の魔法銃に特別製の魔法弾を込めて構える。
狙うはユフィの項。
お化け屋敷を出た時のユフィたちの反応が楽しみだ。
さぞかし驚く事だろう。
そして大人びたユフィを見たヴィンセントは戸惑い、なんやかんやあって意識する事だろう。
その時の冷やかしが楽しみだ。
ケイトは口の端に笑みを浮かべ、眼光鋭く狙いを定めた。

「外さない!」
「へっくちっ!」

ドンッ

「ええっ!?」

くしゃみをした勢いでセルフィに背中を押され、ケイトの狙いは見事に外れる。
魔法弾は綺麗な魔力弧を描き、ユフィとヴィンセントの間を疾風の如く駆け抜けた。

「わっ!?」
「何だ?」

2人が周りを警戒する中、魔法弾はデュースの項に着弾する。

「いたっ」
「デュース?どうかしたのか?」
「い、いえ・・・蚊に刺されただけ・・・か・・・えっ!?」

瞬間、デュースの体に異変が起こる。
体内の血液が沸騰し、細胞が活性化し、めまぐるしく駆け巡っていくのがデュースには判った。
骨が軋むような感覚に加えてぐにゃぐにゃと蠢きそうな肌と体に未知の恐怖を覚えて背筋が震える。
・・・―――以前、蒼龍で封印されていた青龍人を見た事がある。
見た目はかろうじて人間でありながらも、ほぼモンスターも同然であった青龍人・・・。
禁忌を犯したが為にあのような姿になったと聞いたが、自分もあんな姿になってしまうのだろうか。
何かをやらかした覚えはないものの、それを想像した途端、計り知れぬ絶望がデュースを襲った。

「エ・・・エース、さん・・・・・・」

か細く、今にも壊れてしまいそうな声でエースに助けを求める。
するとエースはすぐに駆け寄って手を握ってくれた。
その温かい手がデュースの心を幾分か落ち着かせ、安心した気持ちにしてくれる。

「デュース?デュース、大丈夫か!?今すぐマザーに連絡を―――」

ピンッ!

ビシッ!

「・・・ん?」

弾け飛んだデュースの服のボタンがエースの額に当たる。
服のボタンが弾け飛んでしまう程、自分の体は大きく変化を遂げ、化物へとなろうとしているのだろう。
早く大切な恋人を傷付ける前に消えなければ。
悲しみと、尚も手を離さずしっかりと握ってくれているエースに心から感謝しながらふと、自分の胸元を見た時―――

「・・・・・・え?」

ブラウスを張り裂けて飛び出て来たものは獣ののような肌でも毛むくじゃらの肌でもなく、自分という人間の肌。
しかも、とても大きく柔らかそうな果実が白生地に赤いリボンの控えめな装飾の下着に窮屈そうに守られていて・・・。

パツンッ!

刹那の開放感。
締め付けられて苦しかった胸は拘束から解放されて自由を得るが、同時に支えを失って重力による痛みを受ける。
変化は胸だけではない。
気付けばエースが自分よりも下の目線にいた。
他にも着ているお気に入りの服が少しキツく感じる。

「・・・」
「・・・」

たっぷり数秒間、2人はデュースの身に起きた事を整理し、理解した。
いや、理解してしまった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ