クリスタル横丁

□あんみつ
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クリスタル横丁にやって来て早数ヶ月。
新たな仕事―――と言っても主にモンスター討伐だが―――にも慣れて来たが、まだここの空気には慣れてない。
というよりも馴染めてない。
シンクはそれを肌で感じていた。
朱雀に所属していた時より遠巻きに見られる事は慣れていたが、今の状況はそれよりちょっと違う。

なんだか壁を感じるのだ。
自分と話す時だけみんな少し緊張した面持ちで話をする。
そしてどこかよそよそしく、戸惑っている風でもある。
そんな風に接してくる人たちにシンク自身も困っていた。

(考えてたらお腹減っちゃった)

元々難しい事を考えるのが得意ではないシンクにとって難しい事を考えるのはかなりのエネルギーを要する。
こんな時は甘い物を食べるのが一番だ。

「美味しいお店ないかな〜」

パフェやパンケーキなどと言ったデザートを思い浮かべつつシンクはデザート探しの旅に出るのであった。
















そんな訳で出てきた街中だが、時間の所為もあってどこも混み合っている。
クリスタルヘブンも混雑していてすぐにはデザートにありつけそうになかった。

「デザート〜・・・」

歩く気力もなくなり、力尽きたシンクは噴水前の椅子にドサリと座り込む。
そうしてぼんやりと空を見上げた。
青空の上をのびのびと浮かぶ綿飴のような白い雲。
あれが本当の綿飴だったら良かったのに。
そしたらナインにジャンプしてもらって槍に綿飴をくっつけてもらって食べるのに。

「誰か美味しいデザートのお店知らないかなぁ・・・ん?」

のろのろと戻した視線の先にシンクはエルオーネの姿を捉えた。
今日はオフの日なのか、シスター服ではなく普段着で街を歩いている。
そういえばエルオーネはセフィロスオーナーとよく甘い物を食べている姿を目撃されている。
もしかしたらエルオーネなら美味しいお店を知っているかもしれない。
そうと決まれば予備電源ならぬ予備体力を稼働させるとシンクはエルオーネとの接触を試みた。

「エルオーネ〜」
「あ、シンク。どうしたの?」
「美味しいデザート食べようと思ってるんだけどどこも混んでてさ〜。すぐに入れて美味しいお店知らない?」
「沢山知ってるよ、連れてってあげる。何が食べたい?」
「じゃぁね〜・・・和風の物が食べたいな〜。あんみつとか抹茶アイスとか」
「なるほど、和風ね。じゃあついて来て」

エルオーネは笑顔で答えると早速歩き始めた。
一体どんな所に連れて行ってくれるのだろうと楽しみにしつつシンクはエルオーネの後について行く事にした。














「ここよ」

エルオーネについて行って到着した所は如何にも和風といった外見のお店で『月見屋』という名前だった。

「如何にもって感じだねぇ」
「オススメは月見あんみつっていうやつでとっても美味しいんだよ。
 ここでオーナーが都合よく歩いてればもっと良い事があるんだけど・・・」
「あ、あそこで都合良くセフィロスオーナーが歩いてるよ」

シンクが指差す先にセフィロスオーナーが都合良く歩いていた。
本当に都合が良い。
エルオーネは「やった!」と喜ぶとシンクに確認をした。

「オーナーも一緒でいい?」
「エルオーネが一緒にいてくれるならいいよ〜」
「じゃあちょっと誘ってくるね」

承諾を得たエルオーネは軽い足取りでセフィロスオーナーの元へと赴いた。
正直セフィロスオーナーとはあまりいたくないが、エルオーネが一緒ならば安心だろう。
たとえ一緒にいたとしてもフルボッコにされているクラウドたちという現実から目を背けつつシンクはエルオーネを待った。
最初は明るく、次はエルオーネが不満を漏らしている様子が、そして最後にはセフィロスオーナーを引き連れてとぼとぼと歩いてくる様子が見受けられた。
うん、ちょっと嫌な予感がする。

「・・・どーしたの?」
「ごめんね、オーナーが一緒に食べたければバッテイングセンターで勝負しろって言うの」
「え〜?それ無理ゲーじゃん。だったら無理に誘わなくてもいいんじゃない?」
「ここのお店のおばちゃんがオーナーの大ファンでね、オーナー連れてったら色々サービスしてくれるの。
 その為にもオーナーには一緒に入ってもらいたいんだけど・・・」
「バッテイングセンターで私に勝てなければお預けだ」
「という事なの」
「ふ〜ん。エルオーネはバッテイング得意?」
「こいつが得意な訳がない」
「ぐうの音も出ませんよ・・・」
「じゃあ、私が代わりにやってあげる」

シンクのまさかのセリフはエルオーネはバッと顔を上げると聞き返した。

「えっ!?今なんて!?」
「だから、私が代わりに勝負してあげる〜。デザート前の準備運動には丁度いいかなって思ってさ〜」
「ありがとうシンク!!いいですよね、オーナー!?」
「ダメだと言ったら?」
「・・・・・・・」
「・・・好きにしろ」
「やった!」

こうして三人でバッテイングセンターに行く事となった。













そんな訳でやってきたバッティングセンター。
機械によって投げ飛ばされるボールとそれをバットで打ち返す音が響く中、三人は一番端のマウンドを借りていた。
最初にマウンドに立つのはエルオーネ。
その華奢な腕がホームランを生み出す事は出来るのか!?

「無理だな、賭けてもいい」
「やってみなければわかりませんよ!」
「エルオーネ頑張って〜」

シンクの声援を背にエルオーネはバットを強く握る。
そして・・・

「ファール1回、その後は最後まで空振りを連発。頑張った方だな・・・クククク」
「褒めるか貶すかどっちかにしてくれません?」
「1から10まで貶してしかいないが?」
「もう!!」
「大丈夫だよエルオーネ、私が仇を取ってあげる」

次にバットを片手にマウンドに立ったのはシンク。
華奢な見た目をしつつもメイスという超重量級の武器を軽々と操る彼女が挑戦する。

「お前よりは見込みがあるな」
「余裕でいられるのも今の内ですよ。シンクがオーナーを負かすんだから!」

「見ててよ〜」

シンクはバットを構えると気を集中した。
機械を注視しているとボールが装填されるのが見られ、瞬間、ボールが物凄い勢いで放たれる。
けれど戦い慣れている事もあって動体視力を鍛えられているシンクには余裕で捉えられる速さだった。
バットを強く握りしめると、腰を捻ってをそれを思い切り打ち返した。


カァアアアンッ!!!


バットがボールを打ち返す気持ちの良い音がセンター内に響き、次いでホームランを報せる音がシンクの傍で鳴った。

「凄いシンク!ホームランだよ!」
「アーリマンやモンスターの頭を何回もホームランしてきたから得意なんだよね〜」
「あんまり穏やかな特技じゃないね・・・でも頑張って!」
「はいは〜い」

はしゃぐエルオーネにつられてシンクもはしゃぎながらガンガンホームランを打つ。
そうしてシンクは十回中十回もホームランを打ち果たすのであった。

「シンクすごーい!!全部ホームランだったよ!!見ててとっても気持ちよかった!」
「えへへ〜、もっと褒めていいよ〜」
「全てホームランを打てた事は褒めてやろう。だが、まだまだ甘いな」
「え〜?どこが〜?」
「見ていろ」

シンクと入れ替わり、今度はセフィロスオーナーがマウンドに立つ。
野球選手さながらのバットの構え方には無駄がなく、隙がない。
この場にセフィロスオーナーのファンがいたらこの姿だけで黄色い悲鳴を上げていた事だろう。
既に何人かの男女が見に来ているがこの際気にしない。
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