クリスタル横丁

□その頃船では
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「・・・何の用だ」
「別に。普通に挨拶しに来ただけよ。ご機嫌はいかがかしら?」
「お前に挨拶されなければまだマシだったな」
「わたしだって好きで貴方に挨拶した訳じゃないの。大切な子供達に示しがつかないからね」
「ご苦労な事だ。用が済んだらさっさと失せろ」
「その前に貴方も挨拶を返すべきでしょう?そんなんでよく社長なんかやっていられるわね」
「そういうお前もそんな性格でよくマザーだなんて呼び親しまれたな」

両者の冷たい空気がぶつかり合い、会場内の温度をこれでもかと下げていく。
終いには二人の足元から氷が発生して広がっていくほどた。

「いつもいつも思うんだけど、あの氷って魔法で出来てるの?」
「いや、検証の結果、あれからは魔力が感じられない事が証明された。よってあれはナチュラルに生じた氷だ」
「どんだけ仲が悪いの、あの二人」
「だが、このまま対立させると船が氷漬けになって沈没してしまう恐れがある。
 そこでエルオーネ、お前にはセフィロスオーナーをドクター・アレシアから引き離す任務を言い渡したい」
「えー?嫌。流石の私でもあの中に飛び込むのはイヤ」

「じゃあ、私が一緒に行ってあげる〜」

のんびりとしたような声が届いて目を向けると、ピンク色の可愛らしいドレスを見に纏い、いつもとは違うオシャレな髪型をしたシンクがそこにいた。

「私もマザーとお喋りしたいんだけどセフィロスオーナーが一緒だとちょっと難しいな〜って思ってたんだ〜。
 でもエルオーネが一緒に行ってくれたら大丈夫だと思うんだけどどう?」
「うん、一緒に行こう!」

エルオーネはシンクという心強い味方を得ると子供のように笑い合ってセフィロスオーナーとアレシアの元へと一歩ずつ足を踏み出した。
そんな二人の背中をシャルアは静かに見守る。
しかし、二人が次の一歩を踏み出した時。
次の一歩が赤い絨毯を敷き詰めた床を踏みしめようとしたその時。
セフィロスオーナーとアレシアの足元から広がっていた氷が二人の足元にまで侵食した。
その結果、氷を踏んでしまった二人は盛大に転んだ。

「きゃっ!?」
「んにゃっ!」

ドシン、という音と同時にエルオーネが持っていた皿とフォークが床に散らばる音がホール内に響く。
なんの音かと談笑していた者たちが振り返り、セフィロスオーナーとアレシアも振り返ってその惨状を目にした。

「大丈夫?シンク?」
「新しい芸の練習か?」

二人は会話を打ち切るとそれぞれの元へと歩み寄った。
氷の上だというのになんて事ないといった表情で歩くのは流石といったところである。

「えへへ、転んじゃった〜・・・よいしょ〜!」

シンクは自力で立ち上がると屈託のない笑顔を惜しみなくアレシアに向けた。

「フフ、大丈夫そうね」
「私頑丈だからね〜。それよりもマザー、あっちでみんなとケーキ食べよう?美味しいよ〜」
「ええ、いいわよ」

アレシアが快諾するとシンクは「やった〜!」と喜びの声を上げてアレシアに飛びついた。
そんなシンクを突き放すでもなく、させたいようにさせたままアレシアはケーキが置かれているテーブルへと離れて行くのであった。
一方、エルオーネはというと―――

「マヌケめ」
「オーナーとアレシアさんが発生させた氷の所為ですよ、もう」
「それでもマヌケである事に変わりはない」

嘲笑しながら差し出される手に掴まってエルオーネは注意しながら氷の上に立つ。
が、ヒールの靴ではそれは難しく、エルオーネはバランスを崩してしまう。

「きゃっ!?」

倒れそうになった所を、しかしセフィロスオーナーが素早く抱き留めて立たせる。

「少しずつ後ろに下がれ」
「は、はい・・・」

セフィロスオーナーにしがみついたまま、後ろを見ながら一歩一歩慎重に下がって行く。
そうしてエルオーネの足は氷のない床に到着し、安全に立つ事が可能となった。
エルオーネはセフィロスオーナーに未だしがみついたまま彼を見上げて礼を述べる。

「ありがとうございます」
「もう一度氷の上に放り投げてもいいか?」
「ダメです」
「固い事を言うな」
「言いますよ!大体なんでそんな嫌がらせを―――」

「おーい、エルオーネ」

「ん?」

シャルアに呼ばれて振り返って見ると、シャルアが自分の後ろにいる般若もといラグナを指し示した。
般若面のラグナはただならぬ妖気を発しており、今にも覚醒しそうである。
ちなみにラグナの両サイドにいるキロスとウォードはラグナに対して呆れ気味な表情を浮かべていた。

「セフィロス貴様〜!嫁入り前のエルと密着するってどういう事だ〜!!!??」
「嫁入り前にコイツが傷つこうが汚れようが私の知った事ではない。仮にそうなったとしても貰い手が存在しない以上は杞憂に終わる事だ」
「失礼な!貰い手くらいいますよ!多分!」
「賭けてもいい、存在しない」
「じゃあ私に嫁の貰い手が出来たらご祝儀100万ギル出して下さいよ!?」
「望む所だ。ご祝儀袋に100万ギルを詰め込む日を楽しみにしておいてやろう」
「こらそこ!!!密着しながらそんな話をするんじゃありません!!」

不毛な争いはシャルアがコーヒー一杯を飲み終わっても続くのであった。
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