クリスタル横丁

□ディナー
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楽しかったディナーは恙無く終わり、二人はタクシーに乗って帰路を辿った。
現在はユフィの住んでるマンションの近くを二人並んで歩いている。
安っぽい街頭の白い光が二人を照らすが、二人の方が街頭の光を負かす何かを放っていた。

「最後まで送ってくれるなんてさっすがヴィンセント!」
「これもまたマナーだからな」
「マナーがなかったら送ってなかった感じ?」
「さぁ、どうだろうな」

なんだか上手くはぐらかされた感じがする。
でも今日は凄く楽しかったからいいや。
ユフィは今にもステップを踏みたい気分だったが、あまり慣れてないヒールで足が痛いのと、ヴィンセントの隣を離れるのが嫌だった。
けれど残酷にも隣を歩ける時間は呆気なく終わりを告げ、ユフィの部屋の前の玄関に到着してしまった。
ユフィは部屋の鍵を開けてヴィンセントの方を振り返る。

「ヴィンセント、今日は食事に誘ってくれてありがと!すっごく楽しかったよ!」
「楽しんでくれたようで何よりだ。だが、私も楽しめた、ありがとう」
「えへへっ」

照れ臭そうに頬を掻いて笑うユフィがとてもいじらしい。
少女と女性の間の曖昧な外見と雰囲気がそれらを更に高めているように思える。

「ね、ヴィンセント。ちょっと屈んで」
「?」

ユフィに強請られるままに屈んだ瞬間―――



ふわり



と、ヴィンセントの頬を柔らかい何かが触れた。
温かくて、柔らかくて、一瞬だったけれど確かな感触を持っているそれはヴィンセントの思考を一瞬で真っ白に染め上げる。

「えっへへへ!お休み、ヴィンセント!」

頬を朱色に染めて早口で捲し立てるとユフィは目にも留まらぬ速さで部屋の中へと入って行った。
ドタバタと部屋の中に駆け込んでいくらしい音がドア越しに届いてくる。
・・・今、何かに躓いて盛大に転ぶ音がした。

「・・・・・・」

彼にしては珍しく呆けた表情をしたまま立ち尽くす。
でも、ふと我に返った時には既に自宅に帰ってきており、スーツの上着を脱いで洗面所の鏡の前に立っていた。
どうやって帰ってきたのかは覚えていないがそんな事は取るに足らない事。
それよりも、だ。

「・・・・・・」

己の頬にくっきりと残っている薄いピンク色の口紅の跡。

「・・・・・・やられた」

頭を抱え、ヴィンセントは大きく息を吐くのだった。















END



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