クリスタル横丁

□教会の私物化
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それはある日の商店街通りでのこと。
クラウドとスコールはぶらぶらと商店街を歩いていた。
灰色の雲、少し冷たい風、湿った空気の臭い。
絶好の雨日和である。

「何が絶好だよ。不吉の間違いだろ」
「ついさっきセフィロスオーナーとすれ違ったのだから無理もない」

そう、二人は少し前にセフィロスオーナーとすれ違った。
と言っても二人の危機察知レーダーが反応してセフィロスオーナーの存在を素早く捉え、気付かれる前に早く隠れたのだ。
本当は気付かれていたが気紛れで見逃してくれたのか、本当に気付いていなかったのか判らないがなんとかやり過ごす事が出来た。
それなのにこの天気・・・また不吉な事が起こりそうである。

「早く帰ろう。絶っっっっっ対に良くない事が起こる」
「そうするとしよう」

足早に歩き始めた二人だったが、ふとバニラの甘い香りが二人の鼻腔をくすぐった。
その香りに二人の背筋は凍りついて光の速さで路地の青いポリバケツの中に飛び込んだ。

「ま、まさか戻ってきたのか!?」
「何か買い忘れを・・・ん?いないぞ?」
「ハッ!上か!?」
「いや、上にもいないぞ」

「二人共何やってるの?」

声をかけられて敏感になって振り返ればシスターの服を身に纏ったエルオーネが不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
そんなエルオーネから先程のバニラの香りが漂ってくる・・・。

「姉さん?姉さんこそどうしてここに?」
「お買い物の帰りよ。なんて言っても教会で食べるおやつ用のだけど」
「なぁ、なんでアンタ、バニラの香りがするんだ?」
「え?」
「その香り、今日のセフィロスオーナーの髪と同じ香りなんだが・・・」
「ああ、それはね、同じシャンプーを使ってるからよ」

「「ふぁっ!!?」」

「あ、でも勘違いしないで!私がオーナーに一生懸命お願いして譲って貰っただけだから」
「そうでないと色々マズイだろ・・・」
「アレ(ラグナ)が聞いたら戦争が起きていたな・・・」
「それより二人共、一緒にお菓子食べる?お茶でもコーヒーでも紅茶でも出すわよ」
「・・・どうする?」
「特に用事もないし、姉さんの言葉に甘えるとしよう」

そんな訳で二人はエルオーネと共に教会に行く事にした。











ほどなくして到着したオンボロ教会。
庭には小さな物干し竿があり、薄いオレンジ色の毛布がかけられていた。

「おおよそ教会の庭にあっていい物とは思えないんだが・・・」
「寒い時に使ってるのよ」
「普通そこはブランケットだろ!!」
「ブランケットだと寝る時に布の面積が少なくて寒いじゃない」
「寝る?寝る!?教会で寝るってどういうこった!?」
「それは見てからのお楽しみ」

ニッコリと微笑むエルオーネだが、あまり楽しみになれないのは何でだろうか。
早速教会の扉に鍵を差し込んで回すが、鍵特有の抵抗がなく、空回りした。

「あ、開いてる。もしかして来てるのかも」
「来てるって誰がだ?」
「そりゃ勿論―――」

ギィィ、と古びた大きな木の扉の軋む音が教会内に響いて木霊する。
教会内は教壇の周りにしか明かりが灯っておらず、扉周辺はとても暗い。
そんなことよりも信徒たちが座る長椅子の一番前の列だけが光を受けて木の長椅子とは変わった輝きを放っていた。
そう、おおよそ木の長椅子では絶対に放つ事のないだろう光の反射を・・・。

「おい待て。一番前の列の長椅子二つだけなんで豪華なんだよ。金縁の赤ソファってなんだ!?
 ドラク○の王様の椅子とかじゃねーんだよ!!場違いにも程があるだろ!!」

「煩い黙れ消えろ」

一番前の列の左側の豪華な長椅子もといソファの影から不機嫌オーラ全開のセフィロスオーナーが顔を出す。
その姿を捉えた瞬間、クラウドとスコールは目にも留まらぬ速さで教会の外に出た。
しかしそれとは対照的にエルオーネはツカツカと中に入ってセフィロスオーナーが寛いでいるソファへと歩み寄った。

「そんなこと言うんだったら自分の家に帰ったらどうですか」
「私に指図するな」
「いだっ」

ビシッと容赦なくデコピンをお見舞いするセフィロスオーナー。
これがクラウドたちであれば容赦なく斬られていたであろう。
差別もいいところである。
エルオーネへの制裁を終えたところでセフィロスオーナーは再びソファの上に沈むと本を広げて自分の顔の上に乗せた。

「私は寝る。静かにしていろ」
「はいはい、分かりましたよ。二人共おいで。事務所の方でお茶飲みましょ」

「「お、おう・・・」」

二人は抜き足差し足忍び足でなるべく音を立てないように事務所へと入って行った。
事務所の中はやや狭かったが三人で仲良くお茶を飲むには十分な広さだった。

「ところで姉さん、あのソファは一体何なんだ?」
「オーナーが古びた長椅子じゃ寝心地悪いし髪の毛引っかかるからって自腹で新しいのにするって言ってアレを買ったの。
 で、私はそれに便乗させてもらった感じかな」
「教会の椅子は寝るためにあるもんじゃねーよ・・・つか、便乗するとか肝座りすぎだろ・・・」
「だってオーナー用の毛布やらマグカップやら他にもこの教会において色々融通利かせてるんだもの。
 そのくらいしてもらってもバチは当たらないわよ」
「バチどころかメテオが当たってもおかしくないぞ」

(やっぱ姉さんには甘いな)

「他にも―――」


「すいませーん!クロネコヤマサの宅急便でーす!」


「あ、はーい!ちょっと待っててね」

そう言ってエルオーネは立ち上がると台車を押して事務所から出て行った。
そんなエルオーネの後ろ姿を事務所の入り口の影から見守る二人。
台車には次々と大きなダンボールが積み上げられていき、最終的にはエルオーネの身長より少し高いくらいの量となった。

「いつもいつもすいません。今回も宅配ボックスいっぱいだったんですか?」
「ええ、色んな箱が沢山詰められてて」
「人気者も考えものですよね。あ、サインこれでいいですか?」
「はい、ありがとうございました!」

宅配員は爽やかな笑顔を浮かべるとペコリとお辞儀してトラックに乗り込んで行った。
トラックが走り去る音を背後に聞きながらエルオーネは重い台車を押して教会の中を進む。
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