クリスタル横丁

□ラーメン屋
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モンスター討伐任務の後はお腹が物凄く減る。
当然だ、戦闘という普段の倍の体力と精神力を使うのだ。
減らない方がおかしい。
そんな訳でユフィはこれから夕食の時間である。
本当であればそのまま家に帰ってセルフィやリュックが作ったご飯、或いはどこかファミレスなどに行って外食をするのだが、今日はその二人はいない。
理由は簡単、遠征任務に行っているからだ。
だから今日はユフィ一人だ。

「なーに食べよっかなー」

頭の中でさながらマッチ売りの少女の如く色々なご飯を思い浮かべる。
ハンバーグにするか、パスタにするか、それともカツ丼にするか。
はたまたコンビニ弁当にするかハンバーガーにするか、それとも―――

「お、ラーメンだ」

考え事をしていたユフィの目にラーメンの屋台が飛び込んできた。
ラーメンと言えば醤油に塩にとんこつ、大きなチャーシューとメンマ、ネギに煮玉子に熱々のチャーハンと餃子・・・。
考えれば考えるほどユフィの思考はラーメンに支配され、気づけば足は屋台へと向かっていた。
今日はラーメンで決まりだ。

「おっちゃーん!とんこつラーメン一つ。煮玉子と餃子もつけてー」

「あいよ!」

「・・・ユフィか?」
「ん?」

名前を呼ばれて顔を向ければ、既にヴィンセントが席についており、塩ラーメンとチャーハンを食べている所だった。
ユフィはヴィンセントと分かるとすぐに隣に座って話し込んだ。

「ヴィンセントじゃん!任務の帰り?」
「そんな所だ。お前もか?」
「まーね!今日はバラムの方でモンスター討伐しててさ。お昼は街の方でご飯食べたんだけどそこがすっごく美味しいんだよ!」

ユフィお得意のマシンガントークが始まり、任務の話やご飯の話や街で見かけた猫の話などが次から次へと語られる。
しかしそれをヴィンセントはただ静かに聞いて時折相槌を打ち、ユフィの話に付き合っていた。
どのくらい話が続いていたかは判らないがユフィのマシンガントークに一区切りがついた所でユフィのラーメンが出来上がった。
ユフィの注文通り、とんこつラーメンには煮玉子が乗っていて、別で出された皿には餃子が5個乗っている。

「きたきた。いっただっきまーす!」

パキッと綺麗な音を立てて綺麗に割り箸を割るとユフィはラーメンを啜った。
とんこつのこってりとした味とネギが麺に絡んで舌の上で最高のハーモニーを奏でる。
チャーシューは薄すぎず厚すぎず、メンマは程よい固さで歯ごたえがある。

「んま〜!ラーメン食べるの久しぶり〜!」

満面の笑顔を浮かべてユフィは更にラーメンを啜る。
本当に美味しそうに食べる姿は見てるこっちも同じ物を食べたくなるほど。
ユフィの口に運ばれる煮玉子がなんだか羨ましい。
食欲を刺激され、ヴィンセントも煮玉子を注文する事にした。

「・・・私にも煮玉子を一つ」

「あいよ!」

「美味しいよ〜!もう味と卵のとろみ具合が最高!」
「そうか」
「あ、それからさっきの話の続きなんだけどさ、森でモンスター討伐してたら猫の声が聞こえてきたんだよ。
 なんだろうって思って探してみたらやっぱり猫が木の上にいてさ。
 降りられなくなったみたいで助けてあげた訳よ。
 それで街まで引き返して逃してやっても懐かれちゃってさ〜。離すの大変だったんだよ」
「それは大変だったな」
「ホントだよ〜。アタシも離れ辛くなっちゃってさ。でも心を鬼にしてなんとか引き離して森に戻った訳よ」
「なるほどな。では、猫を助けて任務を頑張ったお前に私から何か褒美をやろう」
「え?何々?何くれんの!?」
「チャーシューなどはどうだ?」
「やった!ついでにチャーハンもちょっとちょーだいよ!」
「いいだろう」
「やりぃ!」

ユフィは自分の器をヴィンセントの器に寄せるとチャーシューを自分の器の中に入れてもらった。
更にレンゲ一杯分のチャーハンも食べて幸せの絶頂に昇った。

「やっぱラーメンとチャーハンは相性抜群だね!ありがと、ヴィンセント!」
「喜んでもらえたようで何よりだ」

その後も二人の何気ない会話は続き、屋台のおっさんが店を閉めると言い出した所でお開きとなった。
夜も遅いからとヴィンセントがユフィを自宅まで送り、無事に到着した所でユフィはヴィンセントと別れた。
ユフィは鍵を差し込んで中に入る。

「ただいまー」

セルフィもリュックもいないが、いつもの習慣で誰もいなくても「ただいま」を言う。
とりあえずリビングに足を運んで雨戸を閉め、電気を点ける。

「はぁ〜疲れた!でも美味しかった!」

独り言のように呟くとユフィはボフン、とソファに力いっぱい腰掛けた。
そしてそのままだらんと横になってスマホの電源をつけ、何気なく電話帳を開く。
あ行をスクロールし、ヴィンセントの名を見つける。

「・・・エヘッ、また一緒に食べられないかな」

チャーシューとチャーハーンをくれたのが嬉しくてユフィは一人笑顔になる。
また任務帰りにあの屋台に寄ろうかとぼんやり考えながらスマホの電源を静かに切って就寝の準備に取り掛かるのであった。











END





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