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□酒の練習に付き合いたい
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ユフィの水神神社への参拝が終わる頃に仲間たちが集結し、皆で亀道楽の前で待ち合わせをしてユフィたちを待った。
そして三十分もせずに化粧を落として普段着に変身したユフィと五強聖の面々が集まった。
ユフィの振袖姿を期待していたマリンなんかは落胆を露わにしていた。

「ユフィのフリソデっていうお着物姿、楽しみだったのになぁ」
「上等な着物だから飲み屋に着て行く訳にはいかないんだよ。ごめんね、マリン。あーあ、ヴィンセントが写真撮ってくれてたらな〜?」
「私に責任を押し付けるな」
「別に押し付けてないし〜?ただちょ〜っと気が利かないな〜って」
「・・・では、今度から心がけるとしよう。お前が大口を開けて昼寝をしている所などな」
「乙女の恥ずかしい一面を撮ろうとすんな!つか大口開けて寝てなんかないし!」
「でもユフィ、この間店に来た時に部屋で―――」
「ティファ〜!」

頬を膨らませて怒るユフィに皆が笑ってその流れのまま店の中へと入って行く。
通された宴会席の半分から右側は女子供とナナキとリーブ代役のケット・シーが座り、真ん中に最終防波堤のヴィンセントとクラウドが。
そしてその隣に第一防波堤のゴーリキーとチェホフが座り、最後の左側の席にはシド・バレット・スタニフ・ゴドーの酔っ払い四人衆が座った。
この四人は酔っ払って多大な迷惑をかけるという事はないがとにかく煩い・酒臭い・絡み酒が鬱陶しいの三拍子が揃っていて非常に厄介である。
流石に子供や酒がダメな相手に酒を勧めてくる事はないのだが、とにかく絡んでくるのが面倒なのだ。
そしてそれを防ぐのが先程上げた防波堤たちなのである。
酔っ払いの扱いを心得ていて尚且つ紳士(約一名は女性だが)な彼らは客人であり女子供であるユフィたちを守る役割を持っている。
大切な者たちを守る為ならこのくらいなんて事はない。
なんて事はないのだが・・・

「おうおう!ユフィの親父さんよぉ、いい飲みっぷりじゃねぇか!!」
「アンタも一人娘抱えて大変だな〜!」
「じゃじゃ馬娘で困ったもんじゃわい!それに比べてアンタの娘さんは立派で羨ましい限りじゃて!」
「ゴドー様、それ以上言ったらユフィにどやされてしまいますぞぉ!」

ガハハハ!と一斉に大笑いする酔っ払い共に、話のネタにされているユフィですら怒りを通り越して呆れている様子。
開始一時間でこの出来上がりぶりでは、早すぎるとは思うが店の為にもそろそろ出て行った方がいいかもしれない。
二次会はユフィの実家でさせればもう他人に迷惑をかける事もないだろう。
ヴィンセントはクラウドとゴーリキーとチェホフと一緒に目でそのように会話をし、帰る準備を始めた。

「皆様、本日はユフィ様の誕生日の為にお集まりいただき、誠にありがとうございます。
 少し時間が早いですが今日はこのままお開きとさせていただきたく存じます」
「な〜にを固い事を言ってるんじゃゴーリキー!宴会はまだまだこれからじゃ!」
「そーだそーだ!まだ飲み足りねぇぞぉ!!」
「シド、アンタがバレットと一緒に持ち込んで来た酒があるだろ。それをユフィの家で飲んだらどうだ」
「おう、そーだぜシド!折角持ってきた酒を飲まなきゃ酒が可哀想だぜ!!」
「ちなみに酒はどのくらいある?」
「少なくとも2ケース分はあったように記憶している」
「だそうだ、スタニフ、ゴドー様。一緒に飲まれては如何かのぅ?」
「それもそうだな!」
「よぉうし!そうと決まったらワシの家に帰るぞぉ!!」

酒を絡めた事によって話はかなり早く進んだ。
酔っ払いながらも財布を取り出して会計を済まそうとするゴドーだが、酔っていて上手く頭が回っていないらしく、財布からお金を取り出そうとするのにもたついている。
それを呆れた顔のユフィがゴドーから財布を奪って代わりに会計を済ませた。

「全く、誰の誕生日だと思ってんだよ」
「お前も今日で晴れて大人の仲間入りをしたのだから同じように酒を注文して飲めば良かったんじゃないか」
「まぁそれも考えたんだけどさ・・・それは今夜のとっておき!」
「?」
「アタシ、これからティファたちと喫茶店でデザートと食べてくるから親父たちの事宜しく〜!でも勝手に寝るなよ〜?」

ユフィはウィンクをして勝手な事を一方的にまくし立てると宣言通りティファ、マリン、ナナキ、シェイクと共に喫茶店の方へと歩いて行ってしまった。
体良く酔いどれ共を押し付けられてしまったがユフィの家に押し込めば後は放っておけばいいのだし、ここは大人しくユフィの言う事に従っておくとしよう。

(しかし、勝手に寝るなとはそちらの方が勝手な話だ)

小さな不満を抱きながらも、それでも起きていてやろうとする自分はお人好しなのだろう。










どうにかこうにか酔っ払い四人を居間に押し込めたヴィンセントたち。
クラウドとデンゼルは風呂に、ケット・シーはシャットダウン、ヴィンセントは縁側でゆったりと夜空にぷかぷかと浮かぶ月を見上げていた。
月の放つ淡く優しい光が縁側を照らして薄ぼんやりと物を浮き上がらせ、風が吹いて庭の植物を優しく撫でて影を揺らす。
虫の声に混じって酔っ払いの大声が聞こえてくるのは少し残念だがそこは頑張って目を瞑ろう。
それに今はその酔っ払いたちを責める事は出来ない。
何故ならヴィンセントも今はお酒が飲みたいから。
こんな風流で趣のある空間と夜空の月を眺めながら飲む酒はさぞかし美味であろう。
今からコンビニに行って買いに行こうか。
それとも―――

「お、いたいた」

明るい声が降ってきて振り返ってみれば、お盆にフルーツのイラストが描かれた缶一つと氷の入ったグラス二つを乗せた、浴衣を着たユフィが悪戯っ子のような笑みを浮かべながらこちらを見下ろしていた。
缶の方はコンビニやスーパーでよく見かけるメーカーのお酒で、アルコール度数が低いものだ。

「帰ってきたのか」
「うん、ついさっきね」
「ティファたちは?」
「ティファとマリンとナナキは一緒に風呂に入ってるよ」
「クラウドとデンゼルが先に入っていたと思うが」
「あぁ、もう出てたよ。んで暇そうにしてたから適当にオモチャ出しといた」
「子供のお前が二人を子供扱いとはな」
「もう子供じゃありません〜。せ〜っかく人がお楽しみを持ってきてあげたってのにさ〜」
「悪かった。丁度飲みたい所だったから飲ませてくれ」
「仕方ないな〜」

言いながらユフィは笑うとヴィンセントの隣にお盆を置いて、更にその隣に座った。
月に照らされる薄緑色の浴衣はユフィによく似合っていて、純粋に綺麗だと思う。
だがウータイ人の特徴の所為か、やはりまだまだ幼さが残っていて大人とは言い難いものがある。
しかしそれがまた一つの魅力だと思うのだが、それを言ってしまうとにんまりと笑ってからかってくるので胸の奥にしまっておくことにする。
缶を開けようと手を伸ばすユフィの手をやんわりとどけて代わりに缶を開けてグラスに注ぐ。

「あ・・・」
「今日は誕生日だろう?」
「・・・エヘッ!そうこなくっちゃ!今日はとことん付き合ってもらうぞ〜?お酒飲む練習、付き合ってくれるって約束したしね?」
「そういえばそんな話をしたな・・・とりあえず一口だけ飲んでみろ。ほんの一口だけだ」
「はいはい、分かってますよ〜」

ユフィはグラスを持つと軽くこちらに差し出してきた。
それが意図するものを心得ているヴィンセントは同じようにグラスを持つとユフィのグラスに優しくぶつけてカチャン、と挨拶をした。
そしてそのままユフィを横目で見守りつつ一口だけ酒を煽る。
桃の甘やかな風味が口いっぱいに広がって、たまにはこういう酒も良いかという気分になる。
さて、ユフィの方はと言うと・・・

「ぷはぁっ!美味しい!でもちょっと変な味がするようなしないような・・・?」
「それがアルコールだ。調子に乗って飲み過ぎるとすぐに酔っ払うぞ」
「そんで二日酔い?」
「そうだ」
「うへぇ、気を付ける。親父たちもありゃ二日酔いコースだね」

ユフィは苦笑しながら廊下の奥を見やった。
未だ聞こえる酒盛りはまだまだ終わりそうにないようだ。
ある意味ではユフィへの良い手本となっているが。

「アタシもいつかあんな風になるのかな?親父の子供だし」
「酒に慣れたらきっとな。お前もあんな風になりたいのか?」
「あんなんじゃなくてもっと上品でスマートな感じ?お酒慣れしてるクールな女?みたいなさ。
 ワインとかカクテルとか傾けてさ、そんで色っぽいドレスとか着てカウンターで静かに飲んでるの。
 んで、店に入って来た男がアタシに一目惚れして口説いて来る訳さ。
 お嬢さん、いい店知ってますよ、一緒に行きませんか?って!」

ユフィの妄想を頭の中で再現してみる。
色っぽいドレス・・・恐らく普段の服装と同じで肩や胸元が露出しているチューブトップタイプだろう。
色は青でラメが入っている。
サテンのドレスで勿論スカート丈は短い。
足には少し高めの白のハイヒールを履いている。
可愛らしいネックレスやイヤリングをして、ナチュラルメイクをして、彼女の魅力の一つである足を見せつけるように組んで一人でカクテルを煽る。
そこに男が寄ってきて口説く・・・そこまで頭の中で再現してヴィンセントは大きく噴き出した。
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