1ページ目

□誕生日を祝いたい
1ページ/3ページ

11月20日、晴れ。
抜けるような青い空には雲一つ浮かんでおらず、気持ちの良い風に乗って鳥の歌声が澄み渡る空に美しく木霊する。
ウータイの山々を彩る紅葉の木々と自然豊かな大地には太陽の光が惜しみなく降り注がれていた。
それはまるでウータイの全てを祝福し、この先の未来への道を暗示しているようでもあった。
これも水神の加護か、それとも単なる偶然か。
或いはユフィが引き寄せた小さな奇跡か。

『アタシってば自分にとってめでたい日に雨に降られた事ないんだよね〜』

今朝、ウータイに到着して天気の感想を溢した時にユフィがそう言った。
話半分に聞き流したものの、そういえば過去のユフィの誕生日を振り返ってみると確かに雨や曇りなどの暗い天気になった事は一度もなかった。
むしろ快晴が多かったように記憶している。

「・・・・・・まさか、な」
「ん?どーかした?」
「いや、何でもない。それよりも決まったか?」
「うん。すいませーん、これくださーい!」

ユフィは店員を呼ぶと『団子を食べているモーグリ三兄弟』の小さな置物セットを購入した。
少々値段の張る物であったが、ユフィ曰く今日誕生日の自分へのプレゼントなのだとか。
それならば仲間の誰かに誕生日プレゼントに、とおねだりをすればいいだろうと提案すれば「みんながどんなプレゼントを用意してくれるか楽しみにしてるからそれはダメ」と返してきた。
どうやら最初から分かり切っているプレゼントはつまらないそうだ。
なるほど、その気持ちは分からないでもない。
楽しい事が好きなユフィにとっては指定したプレゼントが貰えるのは勿論嬉しい事だが、それ以上に中身を知るまでのワクワク感を味わいたいという事なのだろう。
そんな所はまだまだ子供であるが、同時に純粋で誕生日をしっかり楽しんでいて羨ましいと思った。
さて、そんな事をつらつらと考えていると会計を終えたユフィがウータイで言う所の『趣のある』紙袋を携えて戻って来た。

「はい、これ。落とすなよ〜?」
「分かっている」

紙袋を受け取ってしっかりと手に握り持つ。
今日の自分の任務は一足早くユフィと共にウータイに出発して買い物に付き合って荷物持ちをすること。
どうやらこの間の、誕生日を有意義に過ごす計画を立てた自分を真似して同じようにしているつもりらしい。
自分はユフィにマッサージをお願いしたが、ユフィは買い物の付き添いと荷物持ちを言い渡してきたのだ。
漫画などでよく見かけるような、プレゼントの箱を沢山持たされて前が見えないという構図になるのではと内心覚悟したが、今の所そんな事はない。
むしろあちこちの店を見て回って初めて持たされた荷物がつい先程の紙袋だ。
それともこれから増えて行くのだろうか。

「ヴィンセントって団子食べれたっけ?」
「ああ」
「んじゃ、買いに行こ〜」

次の目的地が決まり、ユフィの後をついて団子屋へ。

「やっぱ団子と言えばみたらしときなこだよね〜。ヴィンセントは?何がいい?」
「私も同じもので」
「はいよ〜。おばあちゃん、みたらし団子二本ときなこ団子二本ちょーだい!」
「あいよ。そういえばユフィちゃん、今日はお誕生日だったよね。みたらしときなこ、一本ずつオマケしておくよ」
「マジで!?おばあちゃんありがと〜!えっと、団子四本だからお金は―――」

カバンの中から財布を取り出そうとするユフィよりも早く自身の財布から1000札ギルを取り出して小銭の受け皿に置く。
店主の老婆はそれを受け取って会計処理を始め、隣のユフィは少し驚いたような瞳でこちらを見た。

「え、ヴィンセント・・・?」
「誕生日、だろう?このぐらいは奢る」
「・・・!さ〜っすがヴィンセント〜!」

大喜びするユフィにバシン!と強く背中を叩かれて「痛い」と一瞬眉根を寄せて抗議をした。
しかしユフィにはどこ吹く風で、老婆から団子を受け取ると上機嫌にスキップをしながら店を出て行った。
その後に外見がウータイの建物のコンビニでお茶を二本購入し、ダチャオ像のユフィの特等席へ。
登山の合間に眺めた時から既に美しい光景が眼下に広がっていたが、特等席に到着して改めて見てみると、それまでのとは比べ物にならない光景が視界いっぱいに広がっていた。
春に眺めた一面桜模様とはまた違った美しさがそこにあったのだ。
桜が命の始まりと成長・活気を象徴するならば紅葉は命の終わりと別れ・眠りを象徴しているように思える。
しかし悲しいばかりではない。
紅葉には別れの切なさがありながらもまた会えるという小さな希望も孕まれている気がする。
それは枯れ葉となっても春にまた緑に色づく木々の存在があるからか、冷たくも優しい風がそう囁きかけるからか。

「や〜絶景かな〜!」
「花見の時と同じで丁度見頃だな」
「だね〜。観光客もいっぱい来てるよ」

そう言い放つユフィの言葉には明らかに嬉しさが含まれていた。

「やけに嬉しそうだな。観光地になるのは嫌だったんじゃないのか?」
「敗戦国で誇りも何もかも失って没落した観光地のウータイが嫌だっただけだよ。
 今はちゃんと正しい力を持った誇り高きウータイだからいーの。それにお金が貯まるのはいい事だからね」

ニシシ、と商売人の如く笑うユフィに当てつけで溜息を吐く。
そのセリフは胸の内にしまっておけばまだ恰好がついたものを。
二人並んで座り、ユフィが広げた団子の包みからみたらし団子を一本取って一つ食べる。
ヴィンセント好みの甘さ控えめのみたらしの味ともちもちとした団子の歯ごたえはいつ食べても絶品だ。
帰りに寄ってまた買ってもいいかもしれない。

「ん〜!紅葉眺めながらのお団子はサイコーだね!」
「花見の時もこうして景色を眺めながら団子を食べたな」
「そーそー。あの時は桜がキレーだったよね〜」
「ああ、まさに自然の宝だった」
「お、自然の宝って良い響きじゃん!アタシもこれから宣伝する時に使おーっと」
「では提供料をいただこうか」

ほんの軽い冗談で言ったのにユフィは「んじゃ、これ」と言って自分の分のみたらし団子を一本差し出してきた。
普段なら絶対にしないようなその行動に驚いてゆっくりと首を傾げながら失礼な事を聞いてしまう。

「・・・何を企んでいる?」
「はぁ!?何だよそれー!」
「お前がそんな簡単に物を差し出す事などないからな」
「失礼しちゃうなーもう!・・・まぁ、理由があるのは否定しないけどサ」
「理由?」
「あのさ、この団子、お昼ご飯代わりでいい?」
「昼食の?」
「そ。アタシ午後から着物を着て親父たちと神社にお参りに行かなきゃいけないんだよ。
 でもお腹いっぱいに食べちゃうと着物キツくなっちゃうからこーいうので軽く済まそうかな〜って」
「なるほど、そういう事か。だったら私もこの団子で十分だ」
「中途半端な間食で食べられそうにないから?」
「いや、それに関係なく言う程空腹ではない。だから気にするな」

後出しになってしまった事への後ろめたさに眉を八の字に曲げるユフィを安心させるように言い聞かせてユフィの手から二本目のみたらし団子を受け取った。
その代わりにきなこ団子を一本差し出す。
これで数は平等だ。

「きなこ団子もらっていいの?お腹空かない?」
「問題ない。それに私はみたらし団子を貰ったからこれで平等だ」
「・・・エヘッ!サンキュー、ヴィンセント!」

ユフィは太陽のようにニカッと笑うとヴィンセントの手からきなこ団子を受け取ってそれを頬張った。
ヴィンセントのよく知る笑顔で団子を食べるユフィの姿は眩しい。
秋の訪れと共に空気は冷たくなり、太陽が雲に覆われる日が多くなろうともユフィがいればウータイは明るい光に照らされ、温かい空気に包まれるだろうとヴィンセントは確信するのだった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ