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□ゴールドソーサーに行く事になった
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ホテルのカウンターでチェックアウトを済ませた後、指定の部屋に案内されてユフィをベッドの上に寝かせる。
それからサイドテーブルの上に先程の水の入ったペットボトルを置いてやって先にシャワーを浴びる事にした。
ゴーストホテルの浴室は普通のタイル張りの浴室なのだが、それは勿論ワザとである。
変におどろどろしい内装にするよりも敢えて普通の内装にする事によって演出による恐怖を増長させるという寸法だ。
普通の安心感ある浴室に一定間隔で響き渡る雫の滴る音、湯煙で曇る鏡にぼんやりと黒く映る女性のシルエット、赤い水漏れ。
恐怖耐性のない者、慣れていない者にとっては背筋が凍り続けること間違いなしだろう。
かくいうユフィも、いつもなら浴槽に浸かってゆっくり寛ぐのだがこのホテルに限っては浴槽に浸からずすぐに出てくる。
今回も恐らくそうだろう。

(ネロの闇で余計に・・・だろうが)

頭の中に思い浮かんだ闇を操る男に内心舌打ちをしてすぐに掻き消す。
ユフィの心の奥深くに恐怖を刻み付けたような感じがして恐ろしく気に食わない。
いつか何とかしなければ。

「ユフィ、出たぞ」

風呂から上がって寝室に戻るとベッドで横になっていたユフィは起き上がっていて、『ラッキー』のマテリアを天井に掲げて眺めていた。
そしてヴィンセントの存在に気付くと「お」と言葉を漏らしてマテリアを掲げていた手を下げてこちらを見た。

「もう出た感じ?」
「ああ。お前の方はもう大丈夫なのか?」
「うん、しばらく横になったからへーき!あんがとね、ヴィンセント!」
「気にするな」
「でもさ、ホントにゴールドソーサーに連れてってくれるなんて思わなかったよ」
「勢いで言ったとはいえ、宣言したからな。それにお前も乗り気で予定を立てていた事だしな」
「嘘も方便だ、なんて言われるんじゃないかとヒヤヒヤしたけどね〜」
「成程、その手があったか」
「あ、忘れろ!今すぐ忘れろ!そんで次も使うな!」
「さて、どうするか」
「ヴィンセント〜・・・」

情けない顔で見上げてくるユフィの頭をくしゃくしゃに撫でつけながら「いいから入ってこい」と入浴を催促する。
するとユフィは渋々と言った様子で唇を尖らせながら洗面所に入っていった。
心配せずともそんな手を使ったりはしない。余程の事でなければ。
だが、余程の事があってもなんだかんだ言ってきっと自分はユフィの望みを叶えようとするのだろう。
いつからユフィに対してこんなに甘くなったのやら。

(甘やかすばかりではユフィの為にもならない・・・時には厳しくしないとな)

「出たよー!」

バンッ!と勢いよく洗面所の扉が開かれ、湯気を伴ってユフィが出てくる。
入ってまだ数十分しか経っていないが恐らくヴィンセントの予想通り浴室が怖くてすぐに出てきたのだろう。
これは今こそ厳しくする時かもしれない。

「・・・ちゃんと湯舟には浸かったのか?」
「きょ、今日は入っていたい気分じゃないからパス!」
「しっかり肩まで浸かっておかないと体が温まらないだろう。10分でもいいから入ってくるといい」
「いいよ!出たのにまた入るなんてそっちの方が風邪引いちゃうっての!
 それにここの浴槽真っ赤だし鈍く光って不気味だし・・・」
「つまり怖い訳か」
「こここここ怖くなんかないし!あんな子供騙しなんてことないし!」
「ならば入ってこれるだろう?」
「だ、だから風邪引いちゃうし・・・」
「風邪を引かないようにもう少し長く入ってくればいいのではないか?お前はよく長く入っているだろう」
「だからそんな気分じゃ・・・」
「怖いのなら一緒に入ってやろうか?」
「んなっななななな何言ってんだよセクハラオヤジ!!」
「それとも売店で血濡れて古びたお風呂のアヒルのオモチャでも買ってきてやろうか?」
「いらないっての!子供扱いすんなよ!」

ユフィの反応を予想してワザと怒らせたり怖がらせたりして楽しむ。
これは厳しくしているというよりもからかっているだけだな、と思うヴィンセントであった。












END
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