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□ゴールドソーサーに行く事になった
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『ユフィとゴールドソーサーに行くのは私だ』と、言い切った。
ついこの間。
勢いで。
ユフィの前で。
言い切ってしまった以上は実行しない訳にはいかない。
ユフィだってその気でいたし。
男に二言はない。

そんな訳でヴィンセントはユフィをゴールドソーサーに連れてきていた。
現在は案内板の前に二人で立っている。

「・・・聞くまでもないが行きたい所は?」
「バトルスクエア!」
「では、行くとしよう」

即答で返って来た言葉に薄く苦笑いしながらユフィと共にバトルスクエアへのホールを抜ける。
ユフィはゴールドソーサーのバトルスクエアが大好きで、ここにくれば必ず遊んでいく。
敵を倒して勝ち抜いて優勝する爽快感と勝利と共に得られるポイントでマテリアと交換出来るのが何よりの楽しみなのだとか。

「リボンは装備したか?」
「あったりまえよ!」
「不倶戴天の調子は?」
「バッチリ!んじゃ、行ってくるね〜!」
「ああ、油断しないようにな」

受付を済ませて闘技場に行くユフィを見送る。
頼もしい背中と勇ましく軽やかな足音が扉の向こうに消えるのを確認してからヴィンセントは観客席に向かった。
一番前は既に取られていたので仕方なく前から三番目の席に座ってユフィの戦いを観戦する。

「せいっ!」

鮮やかな動きで不倶戴天を投げつけ、複数のモンスターを切り裂く。
その次に現れた中型のモンスターも華麗に攻撃を避けながら鋭く不倶戴天を投げつけて倒した。
ユフィが勝利する度に沸き立つ会場に少し鼻が高くなる。
19歳でありながら彼女はあんなにも強いのだと心の中で密かに自慢する。
しかし会場が盛り上がっているのを察しているのか、いや察しているのだろう。
モンスターと戦うユフィの動きにパフォーマンス性が生まれてきた。
観客の目を意識したようなステップと踏み込み、そして無駄な決めポーズ・・・。

(・・・完全に調子に乗っているな)

呆れて溜息を吐く。
調子に乗るとすぐこれだ。
死ぬ危険がないとはいえ、油断をして負けてポイントを失いかねないというのに。
まぁその辺の責任はユフィにあるのだから細かい事は―――

「なぁなぁ、あの子可愛いよな!」
「ああ!しかもモンスターをぱぱっとやっつけて強いしよ!」
「何よりあの太腿!たまんね〜よな〜!」
「いやいや、白い脇も中々いいぞ〜!」

注意する必要があるようだ。











「へっへ〜、マテリアがっぽり!」

闘技場で見事大型モンスターを撃破したユフィは獲得したポイントを全てマテリアと交換し、溢れんばかりのそれを嬉しそうに両腕に抱えていた。
ヴィンセントはそれを、係の人から貰った袋に一つ一つ入れてやっている。
低い位置でマテリアを落としていくとカチ、コチ、と固い音が小さく響いた。

「今回も快勝だったな」
「でしょでしょ?会場超盛り上がってたっしょ?」
「だが恰好をつけすぎだ。あまり調子に乗るな」
「でもその方が観客も楽しめるでしょ?」
「お前はいつからエンターテイナーになったんだ」
「細かい事は気にしなーい!」
「全く・・・それより怪我や火傷はしていないか?」
「全然だいじょーぶだけど?」
「お前のポリシーとやらを貫くのも構わないが怪我から体を守る為にも肌を隠す服を着たらどうだ。
 いくらケアルで完治出来るとはいえ、見ているこちらが心配になる」
「・・・エヘッ、心配してくれてありがと!今度考えておくよ」

頬を朱色に染めてはにかむユフィの表情に、怒らせずに説得出来たと安心する。
いつもは真正面から正論を吐いて否定するからユフィの癇に障って話を聞いてもらえないでいた。
そんなヴィンセントに対してティファが「少し言葉を変えるだけでいい」とアドバイスをくれて試しに今回は言葉を変えてみたのだ。
結果はご覧の通り、ユフィの気分を逆撫でする事なく意見を聞き入れてもらえた。
実行に移すかどうかは微妙な所ではあるが、考えておく、という言葉が聞けただけマシだろう。

「あれ彼氏かな?」
「いや、相棒とかそういうのじゃないか?同業者っぽい感じがするし」
「でも声かけづらいな〜」

先程観客席でユフィに下衆な視線を向けていた男たちの残念そうに話す声が耳に入ってくる。
試合が終わってすぐ闘技場から出てきたユフィに駆け寄って良かった。
少しでも遅れていたら絡まれていたに違いない。

「ねぇねぇ、次チョコボレース行こうよ!」
「レースに参加するのか?」
「ちょっと疲れたから見る方でいいかな。ヴィンセントは?参加しないの?」
「ああ、私も見る方でいい」

今日は参加したい気分ではないし、ユフィとゆっくりレースを眺める事にした。

「何が来ると思う?テバーサキかな?」
「いや、今日は調子が悪そうだ。こちらのカラアゲアゲがいいと思うぞ」
「でもそっちも調子微妙そうじゃない?トリドンとかのが良くない?」

二人で作戦を立てて賭けるレーサーを選ぶ。
決めがたい二人のレーサーがいたのでそれぞれで賭ける事にした。
ヴィンセントの賭けたレーサーが勝てば景品としてエリクサーが手に入り、ユフィの賭けたレーサーが手に入ればマテリアが手に入る。
景品が景品なだけにユフィのモニターを見つめる瞳は真剣そのものだった。

「いけいけー!頑張れ!そこだー!あともうちょいあともうちょい!!」

ユフィの掛け声と熱気は周りのオヤジ共と何ら変わりなく、むしろ同化している。
これから二十歳を迎えようとしている女性がこれでいいのだろうか。

「よっしゃぁああああああ!!マテリアゲットぉおおお!!!」

ジャンプをしながら両手を大きく伸ばしてユフィは喜びを全身で表現する。
ユフィが嬉しそうにしているのならもうそれでいい。

「やったよヴィンセント!当たったよ!マテリアゲットだよ!!」
「ああ、そうだな。景品を貰ってくるといい」
「うん!」

先程のオヤジテンションとは打って変わって子供のようにはしゃぐユフィを軽く宥める。
大きく頷いたユフィはスキップをしながら景品カウンターへ向かって行く。
それから数分して満面の笑みを浮かべたユフィがマテリア片手に戻って来た。

「マテリアマテリアマ・テ・リ・ア〜♪」
「良かったな」
「ホント―だよ〜!今日は大収穫でマテリア日和だね!」
「まだレースを見るか?」
「んー、もういいかな。それよか疲れたから観覧車乗ろう!」
「ああ」

どうやらユフィにとって観覧車は休憩所と同義らしい。
色気はないがユフィらしい発想にマントの下で小さく笑みを漏らしながらユフィの後をついて観覧車に乗り込んだ。

「ふい〜疲れた〜」
「最初から全力だったからな」
「ゴールドソーサーに来た以上は全力で楽しまなきゃ損だよ!
 ところでヴィンセントはアタシの行きたい所ばっかり優先してくれるけどヴィンセントは行きたいとことかないの?」
「いや、特にはない」
「退屈じゃない?だいじょーぶ?」
「退屈ならばさっさとホテルで寝ているところだ」
「えへへ、そっか」
「だが、そうだな・・・強いて言えばスピードスクエアに行きたいな」
「うっ・・・」

喉の奥から絞り出すような声がユフィの口から飛び出す。
顔なんかは強張って引きつっている。
予想通りの反応に心の中で「そんな顔をすると思った」と笑いながら緩く首を横に振った。

「無理に付き合う事はない。お前は乗り場で待っていればいい」
「そーさせてもらおっかな・・・ちなみに高得点景品って何だっけ?」
「今回は確か『ラッキー』のマテリアだったように記憶している」
「やっぱアタシも乗る!」
「・・・出来るのか?」
「万が一ヴィンセントが高得点叩きだせなくてもアタシがワンチャン出せるかもしれないじゃん!」
「お前がそれでいいのならば私は構わないが」
「よし!そうと決まれば二人でスピードスクエアに行くよ!」

拳を強く握り、次なるアトラクションへ行く事を宣言するユフィ。
その表情は強い決意に満ちているが、数十分後にはグロッキーな表情に変わっているのが容易に思い浮かぶ。
そしてそれはヴィンセントの思い描いた通り綺麗に現実になった。

「うっ・・・おぅぇ・・・」
「・・・ほら、水だ」

スピードスクエアでの結果はヴィンセントは言わずもがな、ユフィはマテリアへの執着からか見事に高得点を叩き出した。
そんな訳で二人揃って景品の『ラッキー』のマテリアを獲得し、またヴィンセントはそれをユフィに譲った。
大喜びで飛び跳ねると思われたユフィは、しかしマテリアを袋の中にしまうとすぐにフロアの隅の方に駆け込んで蹲った。
スピードスクエアのコースは最近リニューアルされ、よりスリルのあるものになったのだがやはりユフィには耐えられるものではなかったようである。
自動販売機で買ってきた冷たい水を差し出して背中を優しくさすってやりながらヴィンセントは尋ねる。

「そろそろホテルに戻るか?」
「う、ん・・・ごめん、だけど・・・」
「気にするな。立てるか?」
「おんぶ・・・」
「仕方ない・・・乗れ」

かがんで背中を向けてやればすぐに温かな体温の塊が背中に飛び乗って来た。
そして首に腕を回してきてぐったりと体を預けてくる。
耳元ではしんどそうに呻く声が聞こえてきて思わず苦笑を漏らす。
今日は苦笑を漏らしてばかりだ、いい意味で。
なるべく揺らさないように注意を払いながらヴィンセントはホテルへ足を向けるのだった。
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