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□ナンパを阻止したい
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二日酔いでティファの店の手伝いをしてから数日後。
時間の出来たヴィンセントはなんとなくティファの淹れたコーヒーが飲みたくなり、セブンスヘブンに足を向けた。
すると―――

「いらっしゃい、ヴィンセント」
「お、ヴィンセントじゃーん」

皿を拭いているティファと、コーヒー牛乳ゼリーを食べているユフィと出会った。
ユフィは端から二番目の席に座っており、ヴィンセントの指定席である一番端の席を空けてくれていた。
ヴィンセントはその席に座ると早速ティファにコーヒーを注文する。

「コーヒーを一杯」
「はーい」

オーダーを受けたティファは皿を片付けるとコーヒーの準備に取り掛かってくれた。

「コーヒー飲みに来た感じ?」
「そんな所だ。お前は?」
「アタシはティファに借りてたDVD返しに来たんだよ。んで、ついでにデザート食べてたわけ」
「そうか・・・最近よくコーヒーゼリーを食べているな」
「えっぁ・・・そ、そう?」
「違うのか?」
「ま、まぁね!こーいうのも悪くないかな〜って思ってさ!」
「コーヒーゼリーというよりはコーヒー牛乳ゼリーなのにか?」
「それがいいんだよ!苦〜い物を甘〜くするのがなんか快感でさ〜」
「・・・変わった楽しみだな」
「アンタもしてみれば?」
「生憎私はビター派だ。甘くする予定はない」
「予定がついたらいつでも言ってよ。ユフィちゃん特製ブレンドをしてやるぞ〜?」
「予定がついたら、な」

薄く笑ってコーヒーを一口飲む。
と、その時、ドアベルの乾いた音が鳴り響いて来客を告げた。
その後にティファが「いらっしゃい」と声をかけ、やって来た来客はユフィの隣に座ってきた。
上下と帽子共にストライプのスーツを着た青年が・・・。

「やぁ、また会ったね!」
「あ、この間の微少年」
「え?美少年?照れるな〜」
「美少年じゃなくて、青年だけど微妙に少年だから微少年だよ」
「え〜?相変わらず手厳しいな〜」

青年は苦笑いをしてアイコーヒーを注文し、ユフィとの会話に興じ始める。

「ていうかアンタ、結局スーツ着てるじゃん。カジュアルな服にするんじゃなかったの?」
「いや〜何だかんだ言ってこのスーツ気に入っててさ〜。もうこれと一緒にやってくつもりだよ」
「ふ〜ん。ま、トレードマークになっていいかもね」
「だろ〜?でさ、変わらないままのこんな俺だけどデートしない?」
「やーだよっ」

この青年も懲りないな。

「ちぇ〜、また玉砕しちった」
「もーちょっと雰囲気とタイミングってのを学んでから出直してきな」
「オマケに手厳しいと来たもんだ。ところでさ、この間はどうだった?」
「ん?この間って?」
「そこのお兄さんと一緒に帰った日だよ!送り狼した?」
「アンタ、何聞こうとしてんだよ・・・」
「お兄さんどうだった?送り狼された?」
「・・・ああ、私は抵抗したのだが無理矢理―――」
「話作んな!!」

軽く冗談に乗ってやればユフィに即座にツッコミを入れられた。
たまにはこういうのも悪くない。

「あはは、お兄さん面白いね〜。クールで余裕のある大人なのにちょっとした冗談言うとかカッコいいな〜」
「・・・褒めても何も出ないぞ」
「そう?俺は出るけど」

そう言って青年は胸ポケットから二枚の長方形の紙切れを取り出して見せた。
黄色の紙に配色の良いカラフルでポップな文字の印刷。
それはまさしく、ゴールドソーサーの入園チケットだった。
頭に過った嫌な予感にヴィンセントは小さく眉根を寄せて青年の言葉を待つ。

「じゃじゃ〜ん!ゴールドソーサーのチケット〜!」
「おろ?どーしたんだよそれ?」
「商店街の福引で当ててさ〜。ねぇ、良かったら俺と一緒に行かない?クレーンゲーム得意だから好きな人形取ってあげるよ?」
「アンタついさっきアタシに振られたばっかじゃん」
「諦めの悪いのが俺の取り柄だからね。それに俺、キミとの相性抜群だと思うんだ。どう?」
「何を根拠に相性抜群なんて言ってんのさ?」
「勘・・・かな?後、キミと俺って似てる気がしてさ・・・」
「な、何急にシリアスに話してんのサ・・・!」
「ね、一度お互いの事を深く知ってみない?このデートをきっかけにさ―――」

「悪いがユフィは私とゴールドソーサーに行く予定だ」

音もなくユフィの肩に回されそうになった腕をユフィに気付かれないように払う。
そして考えるよりも先に自分の口からついて出たセリフに内心自分でも驚きながらもそれを表に出さないようにした。
弁明するつもりもなければ引き返すつもりもない。
むしろ押し通してやるつもりだ。

「お前がユフィとゴールドソーサーに行く事は出来ない」

ハッキリと言い切ってやった。
すると青年はポカンと呆気に取られたような顔をし、隣のユフィも似たように口を開けてこちらを凝視した。
けれどそれはすぐに花のような笑顔に変わって「そ、そうそう!」と何回も頷いて唐突に腕に抱き付いてきた。

「アタシってばさ!ヴィンセントとゴールドソーサー行く約束してたんだよ!だからアンタとは行けないんだ、悪いね!」
「・・・・・・はぁ〜〜〜っ!もう完敗だよ、お兄さんには・・・ティファさ〜ん!メロンソーダジョッキでお願−い!」
「アイスクリーム乗せる?」
「乗せる〜!それから俺と一緒にゴールドソーサーにでも―――」

「何やってんだ?」

ガシッ!と大きな手が青年の頭を帽子の上から力強く掴む。
見れば鬼の形相をしたクラウドが殺気のオーラを放ちながら青年を見下ろしていた。
ある意味当然の結果とも言えよう。
青年は苦笑いを浮かべると

「じょ、冗談だよ冗談!やだな〜クラウドさんってば〜!」

と言ってティファに差し出そうとしていた入園チケットを懐にしまった。
少し前にもティファにアタックしてクラウドに殺されそうになったと自分で言っていたのによくもまぁそんな事が出来たなと良くも悪くも心の中で感心する。

「ねぇねぇヴィンセント!今度の休みに行かない?アンタもオフでしょ?」

それまで腕に絡みついていたユフィが離れるとカウンターに両腕を乗せてこちらを覗き込むよに見上げてきた。
その瞳はキラキラと輝いていて無邪気な子供のそれと似ている。
頬が緩むのを止められなくて、そのまま「ああ」と頷く。

「んじゃ、今度の休みに決定!バトルスクエア行くからしっかり準備しとけよ〜!」
「主に参加するのはお前だろう」
「それでも!アタシが休憩してる間にヴィンセントがやるんだよ!」
「それでポイントをマテリアと交換か?」
「分かってんじゃ〜ん!」

ばしん!と腕を叩かれたので「痛い」と小さく返しておいた。

「あーあ!お兄さんなんてカエルと張り手合戦してればいいんだ!」

青年はクラウドからの殺意の光線から逃れるように大急ぎでメロンクリームソーダを飲み干すと代金を払って捨て台詞を吐いて店を出て行った。
負け犬の遠吠えとはこの事を言うのだろうと実感しながら勝利のコーヒーをまた一口飲む。
初めての勝利の味かもしれない。
少し大人気ないとも思うが気にしない事にした。

「バトルスクエアで荒稼ぎした後はチョコボレース見てー、観覧車乗るでしょ、それからー」

当日の予定を組み立てて行くユフィの言葉を耳に心地良く聞きながらヴィンセントはゆったりとした午後を過ごした。











END

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