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□二日酔いのお詫びをしたい
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「ど〜だ〜?二日酔いの気分は〜?」

この間とは立場が逆転して、二日酔いで苦しむヴィンセントをユフィがニヤニヤ笑いながら見下ろしてくる。
けれどもヴィンセントは悔しがったり恥じたりしなかった。
何故なら二日酔いをした理由が全く違うからだ。

「普通に頭が痛い」
「何だよ、張り合いがないな〜」
「二日酔いの理由が違う」
「うっ・・・まぁそーだけどさ。シドやバレットが飲む酒の量を考えたら酒代バカになんなにもんね」

違う、ユフィがシドたちのお酌をするのが嫌だったんだ。
勿論それはシドたちが嫌なんじゃない。
他人であろうと身内であろうとユフィが誰かのお酌をするなどして距離が近くなるのが気に食わないのだ。
独占欲が強い自分に呆れ返るが構うものか。
自分の気持ちに少しくらいは正直になってもいいじゃないか。

「んじゃ、アタシこれから仕事行って夕方にはまたここに戻ってくるから。ティファにしっかり怒られろよ〜?」
「その要素があったらな」
「ぜ〜ったいに怒られろ!」

悔し紛れにユフィは小さく舌を出しながら部屋を出て行った。
小さな可愛らしい嵐が立ち去ると同時に訪れる静かな平和と少しの寂しさ。
二日酔いで未だ痛む頭を鎮めるべく、ヴィンセントは二日酔い用の薬を飲むとまた瞼を閉じて眠るのであった。





目が覚めたら午後の15時になっていた。
かなり眠っていたらしい。
というよりも寝過ぎた。
起き上がって頭に手を当てて頭痛を確認する。

「・・・」

もう頭痛はしなくなっていた。
薬がよく効いたのとだらしなくも遅くまで寝た結果だろう。
ヴィンセントはゆっくりとベッドから降りると支度を始めた。
でもバンダナとマントはしない。
大方身なりが整った所で階下に降りると、丁度開店準備をしているティファと遭遇した。

「あ、おはようヴィンセント。って言ってももうそんな時間じゃないけど」
「すまない、寝過ぎた」
「いいのよ。二日酔い治った?」
「ああ、お陰様でな」
「でもユフィにヴィンセントの事怒って、なんて言われちゃったわ」
「この間の仕返しだろうな」
「きっとね。でも心配しなくてもこの間のユフィのとは事情が違うんだから怒ったりしないわ」
「ならば安心だ。それより今日は迷惑をかけた、店を手伝おう」

そう申し出るとティファは一瞬キョトン、とした顔をし、そして小さく噴き出した。

「ヴィンセントってばこの間のユフィと同じ事言ってる!」
「やはりユフィも詫びにと手伝っていたのか?」
「そうよ。迷惑かけちゃったからって。それにヴィンセントが夕方に戻って来るからそれまでの時間潰しにって」
「なるほど・・・そういえば私もユフィが夕方に戻って来ると言っていたな」
「あ、ユフィが行きがけに言ってたわ。この間のヴィンセントと全く同じ事」
「余程悔しかったのだろうな」
「それもあるかもしれないけどもしかしたら無意識かもしれないわね」
「無意識?」
「最近二人でいる事多いでしょ?だからきっと似てきてるのよ」
「そう、か・・・?」

あまりピンとこないがティファは「そうだよ」と言い切った。
ティファがそう言うのならきっとそうなのかもしれないが、似てきているのならもう少し落ち着きが欲しいものだ。
そんな風に考えているとティファが黒のエプロンを差し出してきた。

「はい、これ。クラウドが使ってるエプロン」
「ああ、すまない。それで何をすればいい?」
「配膳と食事が終わったテーブルの片付けと注文の受け取りね。
 余裕があったら皿洗いとかお願い。私は料理や飲み物を作ってるから」
「分かった」

頷いてヴィンセントは早速布巾を受け取り、カウンターテーブルから拭き始めた。
開店は16時から。
セブンスヘブンは人気の店だから絶対に忙しくなる。
ヴィンセントは気持ちを切り替えると開店に備えてティファからの指示を煽るのだった。









ヴィンセントの予想通り、開店してからセブンスヘブンはラッシュに入った。
ドアベルを響かせては沢山の客が出入りして食事をしていく。
皆一様に笑顔を浮かべて満足そうに「ご馳走様」と言ってくれるものは気持ちが良く、大変でも楽しいと思えた。
やけに女性客が多いのが気になるが。

「・・・」

ボックス席の皿を片付けながら軽く店内を見回す。
店内は若い女性が多い事もあって男性客は全体の三割と言った所だった。
勿論ティファやこのセブンスヘブンという店は男性だけでなく女性にも受けがいいので女性客が多くいても不思議ではないが、それにしたってどこかこう、気合が入っているような、これからデートにでも行くのだろうかと思わせるような女性が多かった。
中には隠れるようにしながら急ピッチで化粧をして身なりを整える女性もチラホラ。
もしかしてクラウドが目当てなのだろうか?
前にティファとユフィが話している中でティファが「クラウド目当てにお店に来るお客さんもいる」と言って苦笑していた。
しかも皆、どこで情報を掴んでいるのか、クラウドが店を手伝う日を把握してやってきているのだとか。
しかしそうだとしてもクラウドは今日は町内の依頼で町の近くをうろつくモンスターを退治しに行っている。
自分と同じように二日酔いを引き摺って。
それとも依頼を終えて帰ってくるのを待っているのだろうか?
疑問を抱えながら食器を運び、流し台に運ぶとドアベルが鳴って新たな来客を告げた。

「いらっしゃいませ・・・ユフィか」
「よっ!しっかり働いてるか〜?」

ユフィは片手を挙げて悪戯っ子のような笑みを浮かべると、偶然空いたヴィンセントの指定席に座ってメニューを眺めた。

「オーダーはヴィンセントが取ってる感じ?」
「そうだ」
「んじゃ、今日のお勧めのビーフシチュー!後オレンジジュースね!」
「ティファ、ビーフシチューとオレンジジュースだ」
「はーい!」

オーダーを受けたティファは返事をするとユフィのビーフシチュー作りに取り掛かった。
その間にヴィンセントがオレンジジュースを用意してユフィの前に出す。
ユフィは出されたオレンジジュースを一口飲むと、ニヒヒと笑ってヴィンセントを見上げた。

「ちゃ〜んとティファに怒られたか〜?」
「何をだ」
「昨日の事」
「確かにお前やティファに迷惑をかけたが怒られる程の事ではない」
「えー?差別だ!さべーつ!!」
「お前が怒られたのは人の酒を横取りしたからだ。そもそもの内容が違う」
「むー。まぁいいや。それよりヴィンセントも二日酔いの世話になったお礼でティファの手伝いしてる感じ?」
「そんな所だ」
「ティファ、ヴィンセント結構出来てる?」
「ええ、勿論よ。この間のユフィと同じくらい活躍してくれてるわよ」

言いながらティファがビーフシチューを差し出すとユフィは満面の笑みを浮かべて「いただきまーす!」と挨拶をしてスプーンを手に持った。
ビーフシチューのやんわりと辛くコクの深い香りがガス台からもカウンター越しからも漂ってくる。
自分も許されるのであれば賄いでビーフシチューを食べるとしよう。

「それにしても女性客多いね〜」
「多いのか?」
「多いよ。み〜んなヴィンセントが目当てみたい」
「分からんぞ、クラウドが目当てもかしれん」
「ま、それもあるかもしれないけど今日はヴィンセントの方だと思うぞ〜?」
「・・・くだらん」

呆れて小さくを息を吐いて皿洗いを始める。
今は特にオーダーも入ってきていないし、客の出入りも落ち着いてきたので溜った皿を洗う事が出来る。
しかし、そんな矢先のこと―――

「ありがとうございました、またお越しください!いらっしゃいませ!」

ユフィの隣に座っていた女性が出て行くのとすれ違いに白と黒のストライプのスーツを着た青年が入って来た。
クラウドと同じ金色の髪を肩ギリギリまで伸ばして一つに結っている。
しかし背が低いのと童顔なせいもあってか少年のようにも見える。
スーツなんかも着ているというよりも着られているという感じで、顔に着けているサングラスも青年の幼さを後押ししていた。

「あれ?男の店員さん?ティファさん、バイト雇ったの?」
「ううん、臨時で手伝ってもらってるの」
「へ〜」

青年はスーツと同じ柄の帽子を外すと「野菜炒めとビールね」と注文を入れてきた。
それに対してヴィンセントは、本当に成人なのかと疑わし気な視線を向ける。

「・・・」
「あれ?お兄さんもしかして疑ってる?」
「・・・すまないが年齢が確認出来る物を提示してくれないか」
「あ、大丈夫よヴィンセント。この人はちゃんと成人してるから」
「それは失礼をした」
「いいよ。よく勘違いされてるからさ」

なんて言いながら青年はユフィの隣の席に座った。
その動作自体はとても自然なものなので全く悪い事ではないが何故だろう、ピリッと心が波打つのは。
ユフィの隣に異性の他人が座るのなんてよくある事で、普段なら別になんとも思わない。
それなのに何故だか心がざわつく・・・これが本能による警鐘なのだろうか。
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