1ページ目

□注意したい
1ページ/1ページ

ユフィの愚痴吐き大会の翌日。
ヴィンセントが飲む筈だったウィスキーを奪い取ったユフィの末路は二日酔いだった。
当然と言えば当然の結果である。
そして現在、ユフィはセブンスヘブンの客室用ベッドで二日酔いに効く薬を飲み、頭に冷たいタオルを乗せて苦しんでいた。

「うぅ・・・」
「人の酒を奪うからこうなる」
「悪かったよぅ・・・」
「一応聞いておくが、過去にも同じ事をしてはいないな?」
「してないよーだぁ・・・」
「ならばいい。だが、次も似たような事をしたらたとえ誕生日を迎えて二十歳になっても禁酒令を出すからな」
「分かったから・・・はんせーしてるから静かにして・・・」
「私はこれから出勤する。夕方には戻る予定だ。その時に今の続きをする」
「うへぇ・・・」

顔の青いユフィに小さく呆れの溜息を吐いて部屋から出て行く。
二日酔いで頭痛が酷いユフィに配慮して説教を夕方に延期したのだ、感謝されてもいいくらいだ。
そんな事を考えながら階段を下りて、自然な流れでカウンターの向こうに目を向ければ皿を拭いているティファと目が合った。

「ユフィはどうだった?」
「二日酔いの苦しみを味わっている」
「そう。これに懲りてお酒の横取りとか二十歳になってからの飲み過ぎとかなくなればいいけど」
「都合良く忘れるのがユフィだ。ティファの方からもキツく言っておいてくれ」
「勿論よ。二日酔いが軽くなったらしっかり言い聞かせておくわ」

ティファは少し怒ったような表情でそう言い放つ。
しかしそれはユフィを想っての怒りで、母親のそれと同じ表情だった。
流石はストライフ家の母だ、頼もしい限りである。
これは夕方のユフィへの小言はほんの少しだけ緩めてあげてもいいだろう。
ちゃんと反省していればの話だが。

「私はこれからWROに出勤する。夕方にまた戻って来るのでそれまですまないがユフィを頼む」
「ええ。いってらっしゃい、ヴィンセント」
「ああ」

ティファの穏やかな笑顔に見送られながらヴィンセントはセブンスヘブンを後にするのであった。



今日は社内で書類整理をするだけの一日で、任務の報告書や内部資料をまとめて仕事は終わった。
定時で上がって真っ直ぐセブンスヘブンに向かって中に入る。
時間的に人が沢山出入りする時間で、店は繁盛していた。

「あ、いらっ・・・げっ、ヴィンセント」

ティファの店の手伝いをしていたユフィはヴィンセントを見るなり少し嫌そうに顔を顰めた。
それをティファが咎める。

「ユフィ、そんな事言っちゃ駄目でしょ」
「だって怒られるの確定なんだもん」
「怒られるような事をしたお前が悪い」
「あーはいはい。お小言は店が終わった後にしてよ」
「そのつもりだ」
「ヴィンセント、ここでご飯食べる?提供するのがちょっと遅くなっちゃうけど」
「ああ、頼む。それから私の分は後回しでいい。他の客を優先してくれて構わない」
「何言ってるの。ヴィンセントも今はお客さんなんだからちゃんと順番通りに出すわよ」

ティファは軽くウィンクをすると調理に取り掛かった。
ラッシュ時間が終わるまでの間、ヴィンセントはゆっくりコーヒーを飲みながらユフィの働きぶりを見守っていた。
テキパキと動いて料理の提供や注文を取り、時には客を上手く乗せて追加注文も取るその姿は理想のバイト店員だろう。
しかしその姿が他の男たちの視線を集める。
大半の視線は美しき女店主のティファに注がれているが、そこから少し浮気がちにユフィにも注がれている。
それがかなり不快だった。

(なんとなくクラウドの気持ちが分かるな)

対策としてペンダントになるようにチェーンを通した婚約指輪を贈ったようだが、ティファに注がれる視線が止まないのを見るに効果は薄そうだ。
いや、思い切ってアタックをするという命知らずな行動に出る者がいない辺り、それなりの役目は果たしているのだろう。
しかしユフィに対してはどのような対策を施してやれば良いのか。
恋人でも何でもない自分が指輪を贈るなんて以ての外だし、かと言って放っておけば良からぬ輩がユフィを誘惑してしまう。
どうしたものか・・・。

「焼肉定食お待ち〜!」
「お、来た来た!ねぇキミ、良ければ俺とラインの交換でも―――」

「ユフィ」

ユフィに聞こえる声量で呼ぶとユフィは「なにー?」とトレーを持ったままトコトコと傍に寄って来た。

「悪いがコーヒーのおかわりをくれないか」
「はいよー」

実は一気に飲み干して空にしたばかりのカップを渡すとユフィは頷いてカウンターの向こうに引っ込んだ。
先程ユフィに声をかけた男はガックリと肩を落としていて、渋々とスマホをポケットにしまっていた。
目論み成功。
今のヴィンセントに出来る事はこんな小さな妨害程度である。



ラッシュ時間があっという間に通り過ぎ、時刻はセブンスヘブンの閉店時間へ。
客を全て送り出し、戦後処理が大方済んだ所でユフィはヴィンセントの隣にドカッと腰を下ろした。

「ふい〜!疲れた〜!」
「お疲れ様、ユフィ。手伝ってくれてありがとうね。とっても助かったわ」
「泊めてくれたり二日酔いの看病をしてくれたお礼だよ。それよりお腹減った〜」
「チャーハンでいい?」
「全然おっけー!宜しく〜」

特別なオーダーを受けたティファは「はーい」と返事をすると早速チャーハンを作り始める。
その間にユフィはやや気まずそうに、バツの悪い表情を浮かべながらヴィンセントに視線を寄越した。

「・・・んで?お説教は?」
「再開するとしよう」
「今日いっぱいティファにしてもらったから短くしてよ」
「お前がしっかり反省をしているのであればな」
「反省してるよっ。この目を見て!」

下から覗き込むようにしてユフィがキリッとした目つきで漆黒の瞳を向けてくる。
ユフィは普段、ヴィンセントの瞳をマテリアだの宝石のようだのと言って来るがそれはユフィの瞳もそうではないかとヴィンセントは密かに思う。
ビー玉のように綺麗なこの瞳が潤んだらさぞかし美しいだろうに。
いつか見てみたいものだと心の中で小さく呟きながらヴィンセントはユフィの額を人差し指で軽く弾いた。

「まだ足りないな」
「はうっ」
「ユフィ、お前も良い歳だ。自分の行動には責任を持たなければならない」
「分かってるよっ」
「二十歳になってからも酒を飲むなとは言わないが無茶な飲酒はするな。
 周りの人間が善人ばかりだと思うな。特に男相手には油断してはいけない。食われて泣くのはお前だぞ」
「・・・分かってるよ」

言葉は強気なものの、俯くユフィの表情は少し弱々しい。
襲われる場面を想像して少しは怯えを感じてくれているのだろうか。
言い過ぎに感じるかもしれないがこれだけ脅かしておかないとユフィの危機管理が働かないと思うのだ。
ユフィの為にも憎まれてもいい、しっかり言い聞かせておかなければ。

「仲間内で酒を飲む分には飲み過ぎなければ何も言わん。
 だが、外で飲む場合は絶対に信頼出来る人間と一緒にいろ。でなければお前の飲酒を許しはしない」
「はいはい、ヴィンセントと一緒に飲めばいいんでしょ」
「そうだ・・・ん?」
「ティファにも言われたよ。職場の飲み会で酒を飲む時が来たら必ずヴィンセントが一緒じゃないとダメって。
 シャルアとシェルクと一緒でもいいけど酔っ払った時に家まで送ってくれるのは難しいから酒は一杯までって。
 でもヴィンセントだったら送ってくれるし安全だからペースを考えながらだったら飲んでもいいよって」

とんでもない条件が言い渡されている事に驚いてティファの方を見やれば、ティファはにっこりと笑い、それから出来上がったチャーハンをユフィの前に出した。

「ヴィンセントは同じ職場の同じ部署でしょ?
 リーブは忙しいだろうし、シャルアとシェルクだって女性なんだから任せっきりになんて出来ないし。
 だからヴィンセントならユフィと一緒にいてあげられるよね?」
「・・・私は・・・・・・」
「何だよ、説教するだけしといてそのまんまかよ。責任取れよな」

チャーハンを頬張りながらユフィはジト目でヴィンセントを睨む。
一体何の責任だと言うのか。
これが世に言う『言い出しっぺの法則』という奴だろうか。
ヴィンセントはしばし固まった後、疲れたように息を吐いて呟く。

「・・・これも私の罪か・・・」
「罪だよ」

ユフィにぴしゃりと言われてもう一度溜息を吐く。
でもまぁ、いいか。
実際それを望んでいた訳だし。
ただ素直に受け入れるのが何だか悔しくてそんな反応を示しただけで。
ユフィを子供扱いしているが自分もまだまだ子供だなとヴィンセントは心の中で苦笑した。

「・・・では、二十歳になったら酒を体に慣らす訓練からだ。アルコール濃度の低い酒から飲んでいくぞ」
「んー。ヴィンセントだけズルしてアルコール濃度の高い酒飲むなよー?」
「分かっている」
「おつまみあった方がいい?」
「好きにするといい」
「んじゃ、チーズおかき買っとくよ」
「あれは菓子ではないのか?」
「お菓子だけど親父とかがおつまみとして食べてるよ」
「そうなのか」
「ユフィ、お酒が普通に飲めるようになったら一緒に飲もうね」
「うん!アタシが酒を調達してくるからティファはおつまみ宜しく〜!」

ティファと一緒に酒を飲めるようにする為にも、しっかりと酒との付き合い方を教えなければ。
そう心に決めながらヴィンセントはチラリと気付かれないようにユフィの横顔を眺めるのであった。













END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ