1ページ目

□誕生日を楽しく過ごしたい
2ページ/3ページ

「邪魔したか?」
「いや、元々ユフィは昼食を摂ったらすぐに店に向かう予定だった」
「ならいいが・・・で、そのユフィにヴィンセントの相手をしろと言われたんだがここで模型を作ってもいいか?」
「元よりそのつもりで来たのだろう?」
「アンタがどんな風に作っているか参考にしたくてな」
「あまり参考になるかは分からんがな」

軽く卓袱台の上を確認すればサンドイッチを包んでたビニールがコンビニ袋にまとめられており、カップは流し台の方に運び込まれていて卓袱台はスッキリと片付けられていた。
恐らくユフィが片付けていってくれたのだろう。
心の中で感謝しながら布巾で卓袱台を綺麗にしてクラウドに座るよう促し、カップを洗う。

「ユフィと何してたんだ?」
「マッサージをしてもらっていた。お陰で肩や腰が軽くなった」
「タダでか?」
「タダだ」
「じゃぁ今日のは誕生日価格ってやつか」
「そういう事になるな」
「俺も誕生日の時に誕生日価格で何か頼んでみるか」
「どこまで適用されるか分からんがな」
「そこなんだよな」

洗ったカップを拭いて戸棚にしまって苦笑するクラウドの真向かいに座る。
そして自身もアイスクリーム屋台の模型一式を取り出して卓袱台の上に半分広げた。
もう半分のスペースにはクラウドが模型を広げる。
黒塗りの大型バイクの模型はまだまだ組み立て途中だった。

「上手く行ってるか?」
「時間の関係で中々進まないがそれなりに」
「・・・意外に綺麗に出来ているな。あまり得意ではないと思っていたが」
「侮ってもらっちゃ困るな。俺はこういうのは得意なんだ。デンゼルにもよく教えてやってる」
「ほう、仲が良いな」
「今回もこのバイクのプラモが出来上がるのをワクワクしながら待ってくれているんだ」
「無様な姿を晒す訳にはいかないな」
「ああ。それにフェンリルに外見が似てるから出来るだけかっこよくしたいんだ」
「その模型を購入した理由はそれか」

バイク好きのクラウドの事だからもっと複雑で且つ作り甲斐のあるカッコいいバイクの模型を買うと思っていたのだが、その予想も外れて組み立てが簡単な模型を買ったのには驚いた。
しかしその理由にもなんとなく頷けるものがある。
愛車と外見が似ている物があれば手を伸ばすのは仕方のない事。
自分もきっと同じ立場になれば同じように購入して気合を入れて組み立てていただろう。
子供っぽくはあるが、童心に帰れるという意味では良い事かもしれない。

「ところでこの間アンタが注文した組み立てパソコン、もうすぐ納品出来るらしいぞ」
「そうか、早いな」
「俺が届けるから都合の良い時間を教えてくれ」
「そうだな・・・今度の土曜日の午後なら空いている」
「今度の土曜日の午後だな、分かった」

クラウドはスマホを取り出すと何やら打ち込み始めた。
恐らくはヴィンセントへの配達予定を入力しているのだろう。
まだまだスマホの使い方に慣れていないヴィンセントにはそれすらも魔法のように見えた。

「それは・・・予定のメモを入れているのか?」
「そうだが?」
「ふむ・・・」
「何か問題があるか?アンタ諜報員だし、こういう細かい動きも漏れる訳にはいかない感じか?」
「いや、そうではない。単純に凄いと思っただけだ」
「予定をアプリに入れる事がか?」
「そうだ。私は未だにメモに書いて覚えた後に残らず燃やす程度だからな」
「いやそっちの方が凄いだろ」
「アプリに予定を入れるなどという現代人的なやり方にはまだまだ程遠い」
「アンタの能力が常人を超えてるからトントンだろ」
「だが、お前が先程言ったようにプライベートの細かい動きを知られたくないという昔からの癖もある。
 それは万が一に予定が詰まったものを拾われて普段の行動を知られたら問題なのと、単純に嫌なだけだからだが」
「まぁそれは悪い事でもないし、それで困ってないんならいいんじゃないか?」
「それでももう少しスマホを使いこなしてみたくてな」
「予定を入力するだけが使いこなす事じゃないさ。それに使いこなしてるアンタを想像出来ない」
「フッ、言ってくれるな」

薄く笑ったクラウドに苦笑する。
確かにスマホを使いこなす自分なんか想像出来ないし、何だか変な感じがする。
しかし結構高かったので元を取りたという気持ちがあるのだ。
とはいえクラウドやユフィのように使いこなすには経験値があまりにも低い為、やはり地道に使っていくしかないのだろう。
ヴィンセントは小さな敗北を覚えるのであった。

「ところで、パソコンを届けてくれたらついでにセットを頼んでもいいか?あまり分からなくてな」
「ああ、いいぞ。確か音楽を取り込みたいんだよな?だったらそういうののインストールもしておくぞ」
「助かる」
「ウィルスメールには気を付けろよ」
「良く学んでおこう」
「最近のウィルスは巧妙だからな・・・っと、ユフィからラインだ」

軽快な音がクラウドのスマホから鳴り出す。
ユフィからのラインと聞いてヴィンセントはそろそろかと思い、模型を組み立てる手を止める。
現在の進捗率は40%といった所か。

「準備が出来たから店にヴィンセントを連れて来い、だとさ」
「頼もうか、運転手」
「タクシー代は誕生日価格でタダだ」
「フッ、助かる」

二人で卓袱台の上に広げた材料や道具を手早く片付けると準備をして部屋から出て行った。











『ヴィンセント!!お誕生日おめでとう!!』

グラスを持った仲間たちに己の誕生日を盛大に祝ってもらった。
ティファとユフィ、そしてマリンが腕によりをかけて作ってくれた料理が並べられていてとても豪華だ。

「お、今回はウータイ料理が中心か!」
「そーだよ。ヴィンセントが天ぷら食べたいっていうからそれに合わせた料理にしたんだ」

珍しいメニューにシドが興奮し、それに対してユフィがヴィンセントの隣に座りながら説明をする。
その手にはビール瓶が握られていた。

「ほらヴィンセント、美少女からのお酌だぞ〜?」
「この間のように横取りして飲まないようにな」
「分かってるよ!」
「何だ何だぁ?ユフィの奴は何をしたんだぁ?」
「私の酒を横取りした」
「ガッハッハッハッ!やるじゃねぇかユフィ!」
「おいおい、マリンやデンゼルが真似するといけねーから二人の前でやんなよ?」
「だからやらないっての!も〜ヴィンセントが余計な事言うから!」

シドがからかい、バレットが注意してきた事でユフィが怒ってシュシュシュと拳を突き出してくる。
が、それを片手で軽く受け止めて流す。

「ユフィ、なんか嫌な事でもあったの?」
「大した事じゃないよ。それよかナナキ、アンタどれ食べる?取ってやるよ」
「えーっとね〜」

話題を上手く逸らしたユフィが取り皿を持ってナナキのリクエストを尋ねる。
ヴィンセントもユフィが何故酒を横取りするような行為に至ったかは口にせずに静かにビールを煽った。
ユフィはきっと余計な心配をかけさせたくないだろうし、かっこ悪いと思って話したがらないだろうし話させないだろう。
でなければ今この場で話題を逸らさずに話している筈だ。
あの晩の愚痴を知っているのは自分とティファだけでいいのだ。

「しっかり天ぷら食べろよヴィンセント〜。このユフィちゃんが一生懸命揚げたんだからな!」
「ああ、分かっている」

勝気な笑顔を向けてくるユフィに薄く笑みを浮かべて、エビの天ぷらに箸を伸ばした。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ