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□誕生日を楽しく過ごしたい
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こんなに穏やかな気持ちでモーニングを過ごすのは初めてかもしれない。
コーヒーの最後の一口を飲み干してヴィンセントはそう思った。
出来立てのハムエッグとパン、デザートのヨーグルトとコーヒーが心に平穏をもたらす。
今まではあまり興味がなかったのでモーニングを利用する事はなかったのだが、たまにはこういう朝もいいかもしれない。

「コーヒーのおかわりは如何ですか?」
「ああ、頼む」

店員の女性がコーヒーポットを持って尋ねてきたので追加を頼む。
新しく注がれて差し出されるコーヒーにすら胸が踊る。
小さな幸せを感じる事も大切だとつくづく感じた。











「それが今日のモーニングの感想?」
「そうだ」

優雅な朝食を終えたヴィンセントは昼食をコンビニで購入して自宅で一服した後、ユフィを呼んでマッサージをしてもらっていた。
ベッドの上に俯せに横たわって肩や腰を揉んでもらっているのだが、これが中々気持ち良くて眠気を誘われる。
ややウトウトしながらもヴィンセントはなんとか意識を保ってユフィとの会話を続ける努力をする。

「たまにはああいう朝食も悪くないな」
「ぜーたくしてるって感じがするよね」
「そうだな。お前は喫茶店のモーニングを利用する事はあるのか?」
「もっちろん!って言ってもたまーにだけどね。頑張ってる自分へのご褒美って事で」
「そんな事を言っておきながら毎日自分へのご褒美とやらをやってるんじゃないか?」
「んな訳あるかっ!」

べしん、と背中を叩かれるがヴィンセントの口から漏れるのは小さな笑い声のみ。

「くっそ〜!今日がアンタの誕生日じゃなかったら速攻でマッサージ打ち切ってるよ!」
「そうか。ならば自分の誕生日に感謝しなければならないな」
「感謝の仕方が違うだろ」
「それよりもう少し下の方を強く押してくれ」
「ここ?」
「ああ、そこだ・・・」

少し下がって腰のツボを指で強く押してもら事で、疲れが瞬く間に癒されていくのが分かった。
気持ち良い、と感じる辺り自分で自覚していないだけで本当はかなり体の疲れを抱えていたのだと気付く。
マッサージ機を検討してもいいかもしれない。

「どーですかお客さーん?気持ち良いですか〜?」
「ああ、中々の腕前だ」
「報酬次第ではいつでも出張してあげてもいいけど?」
「お駄賃10ギルで十分か?」
「不十分だっつの!マテリア1個!」
「割高だな」
「肩から腰までしっかりマッサージしてやるんだからむしろトントンじゃない?」
「いや、高いな」
「じゃぁどこまでやったら丁度なんだよ?」
「腕と足もマッサージをしたらだな」
「全身じゃんか!割に合わなーい」
「ならば交渉決裂だな」

薄く笑って身動ぎをして起き上がる意思を見せる。
するとそれを察してくれたユフィが足の上からどいてくれたのでベッドの縁に座る事が出来た。
起き上がる途中、腰と肩の軽さに内心驚くと同時に改めて体の気持ち良さを実感した。
マッサージをしてもらう前は漬物石でも腰に抱えていたのではないかと錯覚するくらいだ。

「大分体が軽くなった。礼を言おう」
「どーいたしまして。ていうかアンタの体硬過ぎ!ホテルとか宿とかに泊まった時にマッサージ機があったら使えば?」
「そうだな。お前にお駄賃を渡すよりは安く上がるな」
「訂正!!アタシがいる時はアタシに頼め!!それ以外ではあんまり使わないでアタシを呼べ!」
「覚えていたらな」

軽く笑ってユフィの主張を流す。
ユフィは頬を膨らませて不満を露わにしていたが「あ」と小さく声を漏らすと首を傾げて尋ねてきた。

「そーいえばアイスクリーム屋台の模型って完成した?」
「いや、まだだ。パーティー開始までの間にまた進めておくつもりだ。それからチョコボのボトルシップはそこに置いてある」
「どれどれ〜?」

ベッドから降りてユフィはヴィンセントが指し示した棚の方にトコトコと近寄る。
そして小さなチョコボのボトルシップを目の当たりにして感嘆の声を上げた。

「お〜!可愛い〜!貰っていいんだよね!?」
「ああ」
「サンキュ〜!大切にするよ!」

ユフィは嬉しそうに笑うとカバンのポケットの中に大切そうにしまった。
喜んでもらえたようで何よりだ。
これからユフィの家の一員として盛り上げてくれ、と心の中で明るい別れの言葉を告げる。
しかしそんな言葉を心の中で呟いているのも束の間、ユフィが荷物をまとめて帰る準備を始めた。

「・・・もう帰るのか?」
「14時からティファの手伝いするからさ〜」
「それでもまだ時間はあるだろう?」
「でも昼ご飯食べなきゃだし」
「・・・お前の分の昼食を買ってきてあるのだが」
「マジで!?」

頷いて冷蔵庫からコンビニ袋に入ったサンドイッチを掲げて見せる。
昼飯はないのかと聞かれた時に、そしてそのまま帰ってしまわないように引き止め用として買ってきておいて正解だった。
パーティーの時にまた会えるとはいえ、それでももう少しユフィと居たくて用意したのだ。
コンビニ袋を見たユフィは「さっすがヴィンセント!」と小さく飛び跳ねて中身を物色してきた。

「カツサンドに卵サンド、ミックスサンド、イチゴサンド・・・色々買ってきたね〜」
「お前が何が好きか分からなくてとりあえず一つずつ買ってきた」
「どれも食べれるからへーき!早く食べよっ!」
「ああ」

短く返してサンドイッチの入ったコンビニ袋をユフィに渡す。
受け取ったユフィはそれを卓袱台に広げ始めてヴィンセントは棚からカップを二つ取り出した。

「カフェオレでいいか?」
「うん!」

インスタントコーヒーの粉をスプーンで掬って適量入れる。
自分のは八分目までお湯を注ぎ、ユフィのは三分目まで注いで牛乳と砂糖を沢山入れた。
薄茶色の液体から漂う甘い香りに、丁度このくらいか、と見当をつけてユフィの前に出す。
判定の程や如何に。

「うん!ごーかく!」
「フッ・・・」

一発合格をもらって少し得意気になる。
よくティファがユフィの為に作っている所を見ていたのでそれを真似たのだが、ほぼ完璧にコピー出来ていたようだ。
ヴィンセントは床に座るとユフィと一緒になってサンドイッチのビニールを剥がして食べ始めた。

「アンタの誕生日なのにお昼買ってもらってなんか悪いね〜」
「気にするな、大した事ではない」
「このユフィちゃんがティファやマリンと一緒に腕によりをかけてご馳走作るからしっかりお腹を空かしておけよ〜?」
「楽しみにしていよう・・・―――絆創膏の数を」
「絆創膏なんか一枚も貼らないも〜んだ。見てろよ〜!美味しい天ぷらも揚げてやるんだから!」
「火傷しないようにな。油が跳ねたらすぐに水で冷やせ」
「分かってるよ、マジの心配あんがと。それよりも自分の心配したら?」
「何故?」
「シドとバレットが酒盛りで思いっきりヴィンセントを巻き込むって意気込んでたよ」
「いつものように二人のペースに巻き込まれないように飲むつもりだから心配無用だ」
「でもなんか秘策があるとか言ってたよ」
「秘策?」
「うん。教えてくんなかったけどなんか企んでるみたい」
「・・・」
「一体どんな事をしてくれるのか楽しみだね〜?」

二ヒヒ、と笑ってユフィはイチゴサンドの最後の一口を食べた。
・・・とてつもなく嫌な予感がするのは何故だろう。
どうしてだか分からないがシド達の企みを躱せない未来が見える。
今夜の誕生日パーティーに一抹の不安を覚えながらヴィンセントもミックスサンドの最後の一口を咀嚼して飲み込んだ。
そしてそれと同時にインターホンが来客を告げる。

「ん?誰だろ?」
「恐らくクラウドだろうな」

立ち上がって覗き穴を覗くと、黒の手提げ袋を持ったクラウドがそこに立っていた。

「来たか」
「ああ。ユフィも来てるのか?」

「クラウドじゃーん!アタシこれからセブンスヘブンに行くから送ってってよ」
「俺はお前の専属運転手じゃないぞ。自分の足で歩いて行け」
「ちぇー、クラウドのけちんぼ。んじゃヴィンセント、アタシそろそろ行くから」
「・・・そうか。気を付けてな」
「んー。また後でね〜」

ユフィは軽く手を振りながら荷物を持って出て行ってしまった。
少しの名残惜しさを感じながら玄関の扉を閉めてクラウドを部屋に導く。
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