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□誕生日の計画を立てたい
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「来週のヴィンセントの誕生日パーティーは18時にやるからね」

スケジュールを考慮してティファはヴィンセントの誕生日パーティーを予告してくれた。
そしてこれについてヴィンセントはセブンスヘブンのカウンター席の端っこで考えを巡らせていた。
不老不死ではなくなり、普通の人間になってから迎える久しぶりの誕生日。
どうせなら少し特別に、有意義に過ごしたい。
もうそんな歳ではないのは分かっているが記念だ。
これまでの罪を背負っていた人生に区切りを付けるという意味でも意味のある誕生日にしたい。
しかし何をしようか。

「コーヒー飲む?」

ティファが気を利かせて訪ねてくる。
頷いてカップを差し出せば、カップを受け取って追加分を注いでくれた。

「何か考え事?」
「ああ」
「仕事?」
「いや・・・自分の誕生日の過ごし方についてだ」
「え?ヴィンセントが?」
「やはり変か?」
「あ、ごめんね。そういう意味じゃないの。ただ珍しいなって驚いただけ。
 ヴィンセントってあんまりそういうの興味ないと思ってたから意外ね」
「私も普段は考えないのだが今年は、な」
「あぁ、そういう事ね」

ヴィンセントの言わんとする事を察したティファが小さく微笑む。

「だったら私も腕によりをかけて作らないとね。リクエストはある?何でも作ってあげるわよ」
「・・・天ぷらは作れるか?」
「ええ、勿論よ。他には何かある?」
「とりあえずはそれで。後は任せる」
「分かったわ」
「デザートは杏仁豆腐ねー!」
「はーい・・・って、ユフィ!?」

冷蔵庫の中身をチェックしていたティファが続いて聞こえた少女の声に驚いて振り返り、ヴィンセントも振り返る。
すると悪戯っぽい笑みを浮かべたユフィがヴィンセントの後ろに立っていた。

「よっ!ヴィンセントの誕生日は天ぷらで決まり?」
「ヴィンセントのリクエストでね。でも杏仁豆腐っていうのはあんまり作った事ないからユフィ、手伝ってくれる?」
「せ〜っかくのヴィンセントの誕生日だからね、仕方ないから一肌脱いであげるよ!」
「火傷したり手を切らないようにな」
「そこまで不器用じゃありません〜。それよかパーティーが何時から始まるって聞いた?」
「ああ、18時からだろう?」
「そうそう。任務とか入れるなよ〜?」
「緊急の任務がなければな」
「折角の誕生日なんだしゆっくりしなよ」
「ふむ・・・」

誕生日の過ごし方について話したらお祭り好きのユフィの事だ、あれこれ言ってきて面倒な事になる可能性は高い。
けれどもそんなユフィだからこそ何かしらのヒントを貰えるかもしれない。
だからヴィンセントは思い切って尋ねてみる事にした。

「・・・お前は」
「ん?」
「お前は誕生日の日はどんな風に過ごしている?」
「ん〜?どんな風に過ごしているか〜?」

ユフィはヴィンセントの隣の席に座ると「ん〜」と顎に指を当てて考えながら話した。

「朝遅くまで寝てたり、ぜーたくにモーニングに行ったり、映画観に行ったり、とにかく自分にとって贅沢な事してるかな〜」
「贅沢な事か・・・モーニングはいいかもしれんな」
「何々?ヴィンセント、誕生日当日のプラン立ててる感じ?」
「そんな所だ」
「んじゃ、バースデープランナーのユフィちゃんが手伝って進ぜよう!」
「格安プランで頼む」
「そんなんじゃ楽しい誕生日は送れないぞ〜?」
「散財はあまり好まないのでな。だが、とりあえず朝はモーニングを利用するとしよう」
「ヴィンセントの住んでる所だと〜・・・あ、こことかいいんじゃない?」

スマホで検索してくれたユフィがそれを見せてくれて、スクロールしながら眺める。
『カフェ・かーばんくる』という名前の店で、場所もヴィンセントの住んでるマンションの近くにあった。
モーニングのメニューも中々充実しており、コーヒーの評判も良さそうである。
ヴィンセントの中でモーニングを過ごす店が決まった。

「ふむ・・・モーニングはここにするとしよう」
「お?決まった感じ?その後はどっか出掛ける?」
「・・・特に行きたい所はないな」
「ぜーたくにマッサージとかは?」
「贅沢過ぎないか?それに他人に体を触られるのはな・・・」
「あ・・・そーだよね。服の上から傷跡とか分かっちゃうかもしんないもんね」
「いや、タークスの時に培った本能で警戒をしてしまってマッサージを堪能するどころではなくなるからだ」
「そっちかい!!」

ほんのちょっと仕掛けたボケにユフィが綺麗なツッコミを入れてくれたので満足する。
カウンターの奥でティファが小さく笑ったのが分かった。

「んー、じゃぁだったらアタシがマッサージしてあげよっか?」
「遠慮しておく」
「即答すんな!心配しなくても誕生日価格でタダでしてやるよ!」
「ウータイ式のマッサージか?」
「いや?そんな本格的なもんでもないけど肩揉むのとか得意だよ?昔からじーちゃんばーちゃんの肩揉んであげてたからね〜」
「お小遣い目当てでだろう?」
「バレたか。でもどう?ちゃ〜んとしっかりやらせてもらいますよ〜?」
「・・・では頼むとしよう」
「毎度あり〜!アタシも時間空けておくからいつでも呼んでよ。すぐ行くからさ!」
「ああ、頼む」
「午前中はこんなもんとして、お昼はコンビニとかで軽い物にしておけば?夜にご馳走があるんだし」
「そうだな」
「午後はアタシはティファの手伝いをしなきゃだから・・・クラウドとなんかしてれば?」
「そんなクラウドを暇潰し要員みたいに・・・」

ティファが苦笑しながら呟く。
たまにユフィのクラウドに対する扱いが雑だったりするが、それはクラウドも同じなのでおあいこだろう。
本当に兄妹のような二人である。
だが、ユフィの提案も悪くない。

「・・・クラウドとパソコンの下見に行くのも悪くないな」
「へっ!?パソコン!!?ヴィンセントが!?」
「どうしたのヴィンセント!?急にパソコンだなんて!!」

二人揃ってそんなに驚くとは心外だ。

「マイフォンに取り込みたい音楽がある。CDがあれば取り込んでくれるのだろう?」
「そ、そーだけど・・・アンタ、パソコンの操作出来んの?電源点けれんの?」
「私が普段WROで使っている機械は何だ?」
「あ・・・」
「いくら機械に弱い私と言えどパソコンくらいは使える」
「実はワープロじゃなくて?」
「・・・もういい」
「わ〜!冗談だって!!」

ふいっと視線を外してやればユフィが謝りながらすがってきた。
さて、どうしてやろうか。

「どうせ私は機械など使えない老人だ」
「拗ねんなよ〜!ヴィンセントはまだ外見的にも若いしおじーちゃんじゃないって!」
「外見はな。実年齢はお前の父親よりも上だ」
「でも精神年齢もまだまだ若いって!ホラ、機嫌治せよ〜!」
「断る」
「う〜・・・ティファ〜!」
「あらあら、私に助けを求めてもヴィンセントの機嫌の治し方なんて分からないわよ?」
「コーヒーゼリーとか適当に出せば機嫌治るかもしんないじゃん!」
「お前と一緒にするな」

肩肘を付き、空いている方の人差し指でユフィの額をトンッと弾くように押す。
「あうっ」と呻きながら後ろに傾いたユフィだが達磨のように緩やかに同じ軌道を描いて戻って来る。

「ヴィンセンとー・・・」

眉を八の字にして困り顔を浮かべるユフィ。
そろそろ許してやってもいいか。

「反省したか?」
「した」
「では、許してやろう」
「さっすがヴィンセント!おっとな〜!」
「良かったね、ユフィ」
「うん!でも音楽入れたいならすぐの方がいいんじゃない?」
「別に急ぎはしない」
「でもずっとほっとくのも嫌でしょ?」
「ああ」
「だったらそーいうのはすぐに相談しないと!ティファ、クラウドって今日は帰ってこない?」
「そうね、アイシクルまで配達に行ってるから帰ってくるのは明後日ね」
「んじゃ、明後日に相談だね。ちゃんと連絡入れておきなよ?」
「分かっている」
「でもこれじゃ誕生日当日の午後を埋めた事にはならないしな〜・・・クラウドとトランプしてれば?」
「クラウドには悪いがあまり有意義な時間とは言えないな」
「じゃぁプラモデル作ってるとか?」
「プラモデル・・・」

ヴィンセントが幼い頃はロボットのプラモデルなんてものはあまりなかったが、そういう細かい部品を組み立てる物はあった。
たまに本を読むのに飽きてボトルシップや色々な物を作ったりしたものだ。
あれをまたやってみるのもいいかもしれない。

「・・・考えておくとしよう」
「え?マジ?ヴィンセント、プラモデルとか興味あり?」
「ロボットのプラモデルはやった事はないがボトルシップなどを組み立てた事はある」
「ボトルシップって瓶の中に船が入ってるやつ?」
「そうだ」
「あれって組み立てられんの!?」
「方法は色々あるが私の場合は部品を瓶の中に入れて組み立てた」
「へ〜。アタシってばてっきりなんか上手い事加工して入れてるもんだと思ってた。それかオーパーツ的なアレでさ」
「加工して入れる方法もある。ボトルシップの作り方は様々だ」
「でもいいんじゃない?ヴィンセントの部屋って殺風景だし。
 アタシがあげたチョコボのメモスタンドくらいしかまだ飾ってないでしょ?」
「ああ」
「んじゃ、童心に帰ってそれやるのもいいんじゃない?」
「そうだな。そうするとしよう」
「き〜まり〜!当日作業に没頭しすぎて連絡見落とすなよ〜?」
「分かっている」

ヴィンセントは口元に薄く笑みを浮かべるとコーヒーを一口飲んだ。
誕生日当日の有意義な時間の過ごし方が決まり、年甲斐もなく今から誕生日当日が楽しみになった。











END

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