1ページ目

□たまには二人で飲んでみる
1ページ/1ページ

今日は仕事を定時に終えて飲みに行く。
お相手は我らが飛空艇団艇長のシド・ハイウィンドウ。
たまには男同士二人で飲みに行こうや、というシドの誘いに乗ってヴィンセントは導かれるがままに普段は寄らない居酒屋のカウンター席に座った。

「オヤジ!生ビール二つ!それから枝豆とさつま揚げ!ヴィンセントは何にすんだ?」
「軟骨からあげと小松菜のおひたし」
「後、軟骨からあげと小松菜のおひたし!」

「へい!かしこまりました!」

威勢の良いシドの注文に居酒屋の店主は威勢良く返事をする。
居酒屋なんて随分来ていなかったが、そういえばこんな雰囲気だったとヴィンセントは思い出す。
タークスにいた頃は同僚の付き合いでよく来たものだ。

「オメーさんとこうして二人で飲むのは初めてかもな」
「いつもはクラウドやバレットたちがいるからな」

おしぼりで手と顔を拭くシドに話を返しながら自分もおしぼりで手を拭く。
流石に顔は拭かない。

「へい!生ビール二丁!!」

「お、早速来たな!んじゃ、乾杯と行こうや!」
「ああ」

ガチャン!とビールジョッキをぶつけ合って乾杯をする。
しかしヴィンセントはいつものテンションなのでイマイチ盛り上がりに欠けるかもしれないがシドは気にせずビールをゴクゴクと一気に飲み干す。
それを見ていたらタークス時代に同じようにビールを一気に飲み干す自分を思い出して、ヴィンセントも懐かしさから一気に飲み干し始めた。
年甲斐もなく、なんて言わせない。
外見年齢はまだ二十代なのだからそこを都合良く使わせてもらう。
ドン、と二人同時にビールジョッキを置くとシドが楽しそうに笑いながら言い放つ。

「お!オメーさんにしちゃ珍しく一気飲みしたじゃねーか!」
「居酒屋でビールを飲む時はそれが礼儀だろう?」
「よ〜く分かってんじゃねーか!今日は美味い酒が飲めそうだぜ!オヤジ!ビール二つおかわりだ!」

「あいよ!!」

シドがおかわりを頼むと、先程頼んだ全てのつまみと同時に出された。
今度はビールは一気飲みせず一口だけ飲んでシドは枝豆を、ヴィンセントは小松菜のおひたしを食べ始める。

「オメー、最近引っ越したんだってな?」
「ああ。心機一転、という奴だ」
「へぇ。引っ越した気分はどうだ?」
「悪くない」
「そうかい。そりゃ良かったな」

指で枝豆を押し出して食べるとシドはそれを殻入れる器に放り投げた。

「引っ越しの荷物を運ぶのはクラウドに頼んだのか?」
「いや、クラウドに別の業者を紹介してもらって運んでもらった」
「別の業者ね〜。アイツ、そんな事まで出来るようになったか」
「流石にクラウドも良い大人だ。そのくらいは出来る筈だ」
「お前のその言い方もクラウドをガキ扱いしてるぞ」
「仲間内では私が一番年上だから年下扱いも仕方あるまい」
「言うようになったじゃねーか」

シドは短く笑うと今度はビールを飲んだ。
対するヴィンセントは小松菜のおひたしを平らげて皿を空ける。

「家には誰か呼んだか?」
「・・・呼んだ、という訳ではないがユフィが手伝いで来た」
「へへ、早速あの忍者娘に居場所を知られたか。毎日なんやかんや理由つけて上がれてんのか?」
「いや、別にそういう事はない。たまに来る程度だ」
「ほ〜?ユフィにしちゃ珍しいな。もっと遠慮なしに上がって来ると思ってたのによぉ」
「ユフィもそろそろ年頃だ。慎みという奴を覚えたのだろう」
「“慎み”ねぇ・・・ま、似たようなもんか」

シドの含みのある言い方が気になって、どういう意味だと聞こうとしたヴィンセントだったが、それよりも早くシドが次の話題を切り出した。

「WROからは近いのか?」
「ああ。近すぎず遠すぎず、と言った距離の所だ」
「んじゃ、酔って帰れなくなったらお前のとこで泊まれんな」
「悪いが定員1名までだ」
「なんでぃ、ケチケチすんなよ」
「事実、布団は私が使っているベッドしかないからな」
「床でいいから寝かせろよ」
「朝私が寝ぼけて踏んでもいいのなら許可をしよう」
「そんなに部屋狭いのか?」
「ワンルームのマンションだからな」
「つっても人一人は寝れるくらいのスペースはあんだろ?」
「酒臭いのは御免だ。それに遅くまで飲んでないで早く帰ったらどうだ。待ってくれている者がいるだろう」
「シエラの事かぁ?ちゃ〜んと飲んで帰るつってるし問題ねーよ」
「ほう、“ちゃんと”飲んで帰ると伝えているのか」
「うっせぇやい!」

怒り半分照れ隠し半分にシドはさつま揚げを齧った。
対するヴィンセントは小さく口の端を歪めると軟骨のから揚げを一つ食べた。
コリコリとした触感が楽しくてじっくりと噛んでそれを味わう。

「オメーなんか女が出来た日にゃ尻に敷かれちまえばいいんだ」
「生憎その予定はないので残念だったな」
「予定がないね〜」

シドは苦笑するとまた一口ビールを飲んだ。
その言い方がどこか意味ありげに聴こえてヴィンセントは少し気になったがあまり追及はしなかった。
それよりも軟骨のからあげがなくなってしまった。
次を頼むとしよう。

「刺身の盛り合わせ」

「あいよ!」

「オヤジ、俺も同じのくれ」

「あいよ!」

「その分だとクリスマスはひとりぼっちで過ごす感じかぁ?」
「元よりそのつもりだ。心配せずともセブンスヘブンで開かれるパーティは出席する」
「へぇ・・・ガキどもへのプレゼントのついでに俺の酒も買ってきてくれや」
「『チルドレンのビール』でいいか?」
「いい訳ねーだろ!」

シドは笑いながらツッコミを入れると店主に出された刺身のマグロを醤油に付けて食べる。
よく見たら顔が赤くなってきているので酒が回ってきているのだろう。
しかし酒を飲むのをやめる雰囲気はなさそうなのでこれはぐでんぐでんに酔っ払って送って帰るコースになる事が予想される。
これは自分が酔う訳にはいかないなと感じたヴィンセントは残りのビールを大切に飲む事にした。

「プレゼントといやぁユフィへの誕生日プレゼントはちゃ〜んと考えてあんのか〜?」
「いや、まだだ。それにまだもう少し先だろう?」
「いいのか〜?それでいいのか〜?」
「どういう意味だ」
「そりゃオメー・・・」

シドはぐびっと残りのビールを飲み干すと「ぷはぁっ!」と盛大に息を吐いて生ビールの追加注文をした。

「オヤジ!もう一杯!」

「あいよ!」

「ユフィは今度の誕生日で二十歳になるんだぞ?ウータイじゃ二十歳で成人扱いなんだと」
「それで?」
「要はウータイでは二十歳になるってのは特別な意味があんだよ。成人式っつー二十歳になったやつらの為の式があるくらいだからなぁ」
「・・・つまり、特別な祝いをしないと後が面倒だという事か?」
「そーいうこった。ま、だからといってアイツもプレゼントにケチつけたりする事はしねーだろうけど特別に祝ってやってもいいじゃねーか」
「・・・ふむ」
「なんつっても気の利いたプレゼントなんか思いつかねーし俺はマテリアの瓶詰めにしてやるつもりだけどな。パクるなよぉ?」
「一番手っ取り早いプレゼントを取られてしまったな」

ヴィンセントは口元に薄い笑みを浮かべると醤油を付けたサバを口に含んだ。
その後に甘エビを食べて醤油のしょっぱさと甘エビの甘さを堪能した。
隣のシドは出された追加のビールを豪快に飲み干してダン!とテーブルに置くと真っ赤な顔で絡んできた。

「もしも思いつかなかったらまた今日みたいに居酒屋で俺が相談に乗ってやるぜ!」
「お前は飲みたいだけだろう」
「ガハハハ!ちげぇねぇ!!なんならバレットも呼ぶかぁ?」
「酔っ払いの追加注文は承っていない」
「かてぇ事言うなよ!クラウドも連れてきてやるからよぉ!」
「必ず頼む」

ガッツリクラウドを巻き添えにしたヴィンセント。
そこに悪気は全くないし、リーダーなのだから飲みに付き合えとこんな時ばかりリーダー扱いをして巻き込むのであった。

「よし!こーなりゃリーブとナナキも呼んで男の酒盛りと行こうぜ!」
「来るといいがな・・・」

ナナキはともかく、リーブは絶対に上手いこと逃げおおせるだろう。
なんなら忙しいを理由にケット・シーを代役に寄越す展開すら想像に難くない。
それを許してやってもいいから翌日はキツイ任務は入れないでくれと交渉してみようか。

「さ〜て、もう一杯飲むか!」
「もうやめておいたらどうだ」
「最後の一杯だよ最後の一杯!ヴィンセントは相変わらず頭がかてぇな〜!」

ガッハッハッと大笑いするシドに、これは後3杯は飲むなと予想するヴィンセント。
実際そうなった。








「ごめんなさい、わざわざ送ってもらって」
「いえ・・・」

泥酔したシドに肩を貸しながらエッジで二人が一時拠点としてる部屋に送って行った。
シエラは帰りを待っていたらしく、まだ起きていたようだった。

「よぉシエラぁ!かえったぞぉお!」
「はいはい、分かりましたから静かにして下さいな」
「ベッドまで運ぼうか?」
「大丈夫です、慣れてますから」

なんとなく、そうだろうな、と思った。
こんな状態で送られて来るシドは絶対に今日が初めてじゃないだろうし、むしろ日常茶飯事だろう。
ヴィンセントは小さく苦笑するとシエラにシドを担ぐのを交代してもらった。

「んごぉ〜・・・ぐぁ〜・・・」
「あらあら、こんなに酔っ払っちゃって」
「すまない、私もそれなりに止めたのだがこの有様だ」
「謝る必要なんてありませんよ、いつもの事ですから」
「では、私はこれで」
「はい、ありがとうございす。お休みなさい」

にこやかに微笑むシエラに軽く会釈をして玄関の扉を閉める。
その後に控え目に施錠する音がした。
これでハイウィンドウ家の安全は保たれただろう。
ヴィンセントは酒を飲んだ事で熱くなった顔にかかる髪が鬱陶しくてばさりと払った。
静かな町中を歩きながら酔いを覚ましていく。
今日は運が良くて、冷たくて気持ちの良い風が吹いている。
夜空には雲がかかっておらず、今夜は満月だった。

「こんな日も悪くはないな」

送って行くのは面倒だが、また飲みに行こうと考えるヴィンセントなのであった。









END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ