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□また愚痴を聞いてやりたい
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「あ〜も〜!ほんっとにふざけんな!!」
「ユフィ、静かにして。子供たちが起きちゃうでしょ」

本日の営業を終えた夜のセブンスヘブン。
だが現在は特別営業時間という名のユフィの愚痴聞きタイムとなっている。
しかしユフィが飲み干して空になったグラスを木のカウンターテーブルに強く叩きつけて大声で愚痴を吐き散らかした事についてはティファのお咎めが飛んできた。
いくらでも愚痴を聞くのは構わないのだが、大声を出して眠っている子供たちを起こしてしまうのが許せないのだ。
これはユフィが悪いと思いながらヴィンセントは麦茶の入ったグラスを傾ける。
本当だったらウィスキーを飲んでいる所なのだが、頼んで出してもらった瞬間に横からユフィにひったくられて挙句に全部飲まれてしまったのだ。
慌ててティファに水を出してもらって飲ませたがすっかり出来上がってしまったらしく、今はこのざま。
酔いどれ宜しくゆらゆらと揺れる体を支える為にカウンターに腕を付き、顔を真っ赤にして愚痴を吐き続けている。
目も据わっていて、正直絡みたくない雰囲気だ。
それでもそんなユフィに付き合ってやろうとする自分もティファもよっぽどのお人好しだと思う。

「だってだってだって!!」
「分かったから。聞いてあげるから大きな声出さないで」
「うぅ・・・うん・・・」

ずびっと鼻をすすってユフィは注ぎ足してもらったメロンソーダを豪快に飲み干して「ぷはぁっ!」と息を吐き出すと愚痴を続けた。

「でんわでさ・・・なんどもさ・・・きょーみないっていったんだよ・・・」
「うん。それで?」
「あっちはさ・・・ふたりでウータイのしょうらいをかんがえましょーとか・・・
 ふたりでウータイをよくしていきましょーとかいってきてさ・・・」
「うん」
「ひゃっぽゆずってウータイのことをかんがえてくれてるんだっておもってあげてもいいけどさ・・・
 このひと、アタシのことはかんがえてくれてないんだろうなってさ・・・おもったわけよ・・・」
「そういうの感じられなかったの?」
「ぜ〜んぜん!むしろりようするきまんまんだよ! 
 けっこんしてもWROにいていいとか、ウータイのぎょーじがめんどーだったらぜんぶじぶんがかわってあげるとかさ!」
「それって聞こえはいいけど・・・」
「確実に気を許してはいけない相手だな」

ユフィの言った男のセリフにヴィンセントは不快感を示した。
まず、WROにいていいというのは色んな意味合いに受け取れる。
WROでは遠征など任務に出掛ける関係で世界のあちこちに行く事が多い。
つまり留守になりがちになる訳だが、その隙に好き放題やらせてしまう事になり兼ねる。
また、ユフィはWROでは諜報部員として働いている。
諜報部員として働いているという事は様々な機密情報に触れているという事。
その情報を引き出させようとする可能性もあるし、情報を取ってこいと命令される可能性だってある。
なんなら結婚した後に偽物の依頼者を装ってユフィを派遣させて罠に嵌めて暗殺して亡き者にし、ウータイの実権を握る事だって考えられる。
ウータイの行事を変わる事についても、めんどくさがり屋なユフィにとっては助かるかもしれないが、ユフィ抜きでウータイの行事を進められるとユフィに発言権がなくなってしまうリスクがある。
そしてそれと同時に自身が発言権を強め、ユフィの影響力を弱らせる事によって実質的にウータイを乗っ取られる可能性が高い。
流石のユフィもちゃんとそこは、むしろよく分かっていたからこそ飛びつかずに拒否をした。
ウータイの為だからこそ誰彼構わず受け入れるのではなく、ちゃんと相手を見極めているのだとヴィンセントは感心した。

「そりゃぁさ、アタシだってウータイのためならなんでもするかくごでいるけどさ、でもだからってアタシのこともかんがえてよぉ・・・」
「そうね。例えば行事を全部代わってあげるは違うわよね。ユフィの大切な故郷の事だもの。ユフィもちゃんと一緒にやらなきゃ」
「そーだよ!ティファのいうとーり!アタシもめんどーだってくちではいうけどでもだからってやりたくないわけじゃないもん!!
 アタシもちゃんとやっていかなくちゃいけないことなのにやんなくていいよはちがうよ!」
「そこは普通は一緒に頑張ろう、とか、面倒でもやらなくちゃダメだよ、って言ってくれないとだよ」
「そーそー!ティファわかってる〜!ティファ、アタシのおよめさんになって〜!」
「フフ、お婿さんじゃなくて?」
「うーうん、およめさ〜ん。ごはんおいしいし、めんどうみもいいし・・・おやじもきっとなっとくしてくれるよ〜」
「折角だけど私にはクラウドがいるし子供たちもいるからお嫁さんにはなってあげられないかな。
 それに私よりももっと他に素敵な人がユフィにはきっといるよ」
「え〜?だれ〜?」
「そうね・・・例えばヴィンセントとか?」

口に含んでいた麦茶を思わず噴き出しそうになる。
それをなんとか我慢してティファに視線を向ければ彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
しかしそれよりももっと嫌なものを感じて顔を隣に動かせば・・・にんまりと笑っているユフィがそこにいた。

「ヴィンセントか〜。いーじゃんいーじゃん!」
「・・・遠慮させてもらおう」
「そ〜んなつれないこというなよ〜!ぜ〜ったいにしあわせにしてあげるからさ〜!」

ぎゅうっと腕に抱き着かれて固まる。
この温かくて柔らかい感触をユフィはワザと当てているのか、それとも無意識にやっているのか。

「ヴィンセントならアタシよりもつよいしあたまいいしせぇたかいしかんぺきだよ〜!だからアタシのおよめさんになって?」
「私の場合はどう足掻いても婿だ」
「こまかいことはきにしな〜い」
「・・・はぁ・・・」

酔いどれ相手に真面目に返答するのがバカバカしくなって溜息を吐く。
それと同時にユフィがこんな事を他の人間にもやっていないか心配になる。
自分や仲間相手ならともかく、他にも同じような事をしていたらあまりにも無防備で危険だ。
すぐさま押し倒されて食い物にされるに違いない。
目が覚めたらしっかり言い聞かせねば。
一人で、或いは他の男たちと一緒の時はどんな事があっても酒を飲んではいけないと。
飲むなら自分がいる時ではないとダメだと。

(・・・よく一緒にいるのは私だからな)

仲間内の誰かが同席してればそれでいいのではないか、自分に限定する必要はないのではないかという心の声に言い訳をする。
守ると決めたのだからこのくらいは当然だ。
そう言い聞かせながら尚も腕に抱き着くユフィの引き剥がしを試みる。

「・・・ユフィ、そろそろ―――」
「ヴィンセントはーアタシのどこがすきー?」
「・・・は?」
「ウータイいがいでアタシのすきなとこってどこー?」

・・・恐らく先程の愚痴の続きのようなものなのだろう。
しつこい見合い相手からユフィに対してウータイ以外の評価がなくて傷付いたのだろう。
きっとそれを慰めて欲しいのかもしれない。
ウータイ以外の価値があると認めて欲しいのかもしれない。
酔っぱらって『すきなとこ』と質問しているが、要は『良い所』という意味だろう。
色々な言葉が浮かんできてどれを言葉にしてやろうかと考えているとユフィがティファの方を向いて

「ティファはあるー?」

とティファにも話を振った。
「そうねぇ」とティファは腕を組んで顎に指を当てて一瞬考える素振りを見せてからにっこりと微笑んで答える。

「元気で明るくて自分の気持ちに正直で行動力がある所かな」
「ティファまんてーん!ごーかくー!はいつぎ、ヴィンセント!」

次と言われても言おうと思っていた事を全てティファに取られてしまった。
勿論それで終了という訳ではないが如何せん言葉にするのが難しい。
考えあぐねたヴィンセントは少し迷ってからやや照れ臭そうにポツリと一言。

「・・・・・・私にないものを持っている」

笑われるかと思って覚悟した。
が、返って来たのは―――

「・・・スー・・・スー・・・」

気持ち良さそうな寝息だった。

「・・・」
「あらあら、ユフィってば寝ちゃったみたいね」
「・・・・・・はぁ・・・」
「お疲れ様、ヴィンセント。今日はもう遅いから泊まっていきなよ」
「・・・そうさせてもらうと有難い。ユフィは私が二階に運んでおこう」
「うん、お願いね。ここは私が片付けておくから」
「すまない、頼む」

ティファに礼を述べてからユフィを抱きかかえて階段を上がる。
ふにゃふにゃと柔らかい体はほんのりと熱く、また甘い香りも漂っている。
寝顔は子供のように無邪気で可愛らしいのにどこか掻き立てられるものがあるのは何故だろう。
安心したように寝息を立てて眠る姿をどうしようもなく乱してしまいたくなる衝動に駆られるのは何故だろう。

(・・・これ以上は危ないな)

さっさとユフィを部屋に運んでベッドに寝かせる。
僅かに顔にかかっていた髪をどかしてなんとなしに赤い頬を軽く撫でてから部屋から一旦出る。
あのまま同じ部屋で寝られる自信がなかった。
隣のベッドで呑気に眠りに就くなど出来そうにもなかった。
大きく息を吸って吐き出しながら天井を見上げる。
やはり危険だ、ユフィが酒を飲んだ時は誰かが傍についてやらなければ。
それかユフィが二十歳になってから酔っ払わない為の酒の飲み方を教えなければならない。
あのままではいつか襲われてしまうし、そんな事はあってはならない。
この事はティファにも話しておこうかと落ち着くのも兼ねて階段に足を向けようとした時に、丁度ティファが階下から上がって来た。

「どうしたの?」
「・・・ティファはユフィに酒を出す事はあるのか?」
「いいえ、ないわよ。二十歳が近いって言っても未成年だから出してないわ」
「そうか。後で私も言うつもりだがティファの方からもユフィに仲間の誰かがいない時に酒を飲むなと言っておいてくれ。
 こんな事ではいつか取り返しのつかない事になってしまう」
「分かったわ。いくら嫌な事があってもヴィンセントからお酒を奪っちゃうのは見過ごせないし」
「・・・その辺もよく言い聞かせておいてくれ」
「フフ、はいはい」

苦笑しながらティファは了承をする。
それから「あ」とティファは何かを思い出したかのように声を漏らすと続けて言葉を発した。

「ねぇ、ヴィンセント」
「?」
「さっきの言葉、今度ユフィに言ってあげなよ」
「先程の言葉・・・とは?」
「『私にないものを持っている』」
「・・・」

思い出してバツが悪いやら恥ずかしいやらで思わず目を逸らす。
それを見てティファはクスクスと笑いながらもしっかりとした言葉で続ける。

「やっぱりああいうのは頭で分かっていても傷付くものだから不安になって直接誰かの言葉が欲しくなるものなの。
 だからヴィンセントもすぐじゃなくていいから今度言ってあげて?ユフィもきっと喜ぶから」
「・・・今度、な」
「約束よ?」
「・・・・・・それにしても」
「ん?」
「外見が立派な箱に目が眩むとは・・・愚かな話だ」
「それも言ってあげたら?」
「流石に調子に乗るからダメだ」

薄く笑って挨拶を交わし、再び部屋に入る。

「スー・・・むにゃ・・・まて・・・りぃ、あ・・・」

マテリアの夢でも見ているのか、気持ち良さそうに眠るユフィの頭を数回撫でてからヴィンセントも隣のベッドに潜って静かに目を閉じるのだった。











END

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