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□ネットカフェを体験してみたい
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前回までのあらすじ!
ユフィと一緒にレイトショーを楽しみ、ユフィをからかって帰宅しようとしたヴィンセント。
しかし不運が続いて電車は止まり、タクシーも利用が困難となってしまった。
今晩のヴィンセントはどうなる!?










「参ったな・・・」

近くのホテルを当たってみたがどこも満室でヴィンセントの入る余地は一ミリたりともなかった。
かと言ってあれだけからかっておきながら今更ユフィに頼みに行くのもきまりが悪い。
どうしたものかと町を歩いて朝まで過ごせる場所を探していると・・・

「ん?ネットカフェ?」

『KUPO』と書かれたオシャレな看板の店の壁に小さな看板が張り付けられており、そこには『完全個室のネット・漫画カフェ』や『宿泊可能』や『当日ご利用可能』などという文字が書かれていた。
そういえば落ち着いた静かな空間で漫画やインターネットを楽しめる施設があるとぼんやり聞いた事がある。
あれはクラウドとユフィの会話だったか。
遠隔地に配達しに行くクラウドは時々、天気や交通、配達ルートの関係から配達先の町で宿泊する事があるらしい。
それでたまにこういったネットカフェを利用する事があるのだとかなんとか。
二人の話の内容から察するに中々便利な施設ではあるらしいが、そうは言ってもヴィンセントにとっては未知の場所。

(これも経験だな)

覚悟を決めるとヴィンセントは自動ドアをくぐり、店の中へと入って行った。

「いらっしゃいませー」

店に入ると眼鏡をかけた物静かそうな青年がヴィンセントを迎えた。
意外にも清潔でスッキリとした受付に少しだけ驚く。
ヴィンセントの勝手なイメージとしては少し散らかってるような、怪しげな雰囲気だったのだがその逆を行っていて関心した。

「初めて利用するのだが、宿泊出来るというのは本当か?」
「ええ、出来ますよ。ご入会も会員登録も不要です。本日は宿泊プランで宜しいですか?」
「ああ」
「喫煙と禁煙ルームの二つがございますがいかが致しますか?」
「禁煙ルームで頼む」
「承知致しました。そうしたましたら205号室をご利用ください。
 当店のご利用についてはお部屋に説明書きがございますのでそちらをご覧ください」
「分かった」
「それではごゆっくりどうぞ」

丁寧に頭を下げる青年に軽く会釈してヴィンセントは指定された部屋へ向かう。
部屋のドアの横にはカードリーダーがあり、渡されたカードキーを翳すと「ピッ」という音と共にランプが緑色に光り、ドアのロックが解除される音が鳴った。
意を決してドアを押し開いて電気を点けるとこじんまりとした小さな空間に大きなパソコンのモニターとキーボード、それから柔らかそうなソファが備え付けられていた。
脇にはもう一つ扉があり、開けてみればそこはシャワールームだった。

「ほう」

未知の世界を探検する子供のような気持ちになってきてヴィンセントは内心ワクワクする。
パソコンを乗せているテーブルの上に置かれている『当施設のご利用について』と書かれているA4サイズの説明書きを手に取って目を通す。
この店ではインターネットの利用・漫画が好きに読める事・ソフトドリンクやフードの提供、他にも様々なサービスを提供されている事が書かれていた。
バス用品は受付で貸し出しをしてくれるしランドリーの利用も出来るのにはただただ驚くばかりである。
難点と言えばベッドではなく、ソファで寝る事だがソファはリクライニングで背もたれを倒せるのでなんて事はない。

「殆どホテルだな」

思わず小さな感想が口を突いて出る。
そのくらいヴィンセントは今どきのネットカフェに圧倒されているのであった。

(試しにコーヒーを飲んでみるか)

我知らず興奮を覚えて眠気などすっかり吹き飛んだヴィンセントは好奇心を満たすべく早速施設探検に乗り出した。











漫画のコーナーでは沢山の大きな本棚に沢山の漫画が収納されていて、漫画好きには堪らない空間だなと思いながらとある漫画に手を伸ばす。
最近ユフィがハマっている漫画で、少し読ませてもらったら面白かったのだ。
折角だから2、3冊借りて読んでいこう。


貸し出しのバス用品についてはバスタオルとバスセットを貸してくれた。
シャンプーやボディソープなどは一回で使い切りタイプのもので、見るからに安物の製品だった。
流石に良い物を求め過ぎるのは贅沢だろう。


フードサービスエリアでは説明書きの通り様々なドリンクやフードの提供がなされていた。
今は何かを食べたい気分ではないので軽食はパスし、紙コップにコーヒーを注ぐ。
隣にシェイクも置いてあったり、フードメニューは割と充実していて、ここだけでレストランが開けそうだと思った。


ある程度の物を調達したヴィンセントは部屋に戻るとゆっくりとソファに腰かけてコーヒーを一口飲んだ。
味は悪くない、普通にレストランなどで提供されるコーヒーと同じレベルだ。

「・・・風呂に入ってみるか」

シャワールームの方に顔を向けて呟くと借りたバスセットを手にヴィンセントは突入するのであった。



20分後・・・



「・・・悪くない」

シャワールームから出てきたヴィンセントの最初の一言がそれだった。
彼をよく知らない人からしてみれば高くもなければ低くもない評価に聞こえるが、彼をよく知る人からしてみれば結構な高評価である。
シャワールームが狭いのが難点であるが、まぁ仕方ない。
ドライヤーもそこそこの馬力があって音の大きさが少し気になったが説明書きに『全室防音』という文字があったのを思い出して遠慮なく使った。

「これがネットカフェか・・・」

ソファに深く腰掛け、漫画を開きながらヴィンセントは改めてネットカフェの凄さを思い知った。
生活するのに困らない環境が整っており、ここに一生住めるのではとすら思う。
受付のプラン一覧表に『長期滞在プラン』があったのも頷ける。
安い料金でこれだけのサービスが提供されるのは結構魅力的だ。
ただし個人の空間が狭くてベッドがないのは残念だが、もう少し高い所に行けばきっとベッドが完備してあるネットカフェもあるのかもしれない。
いつかネットカフェを巡ってみるのも悪くはないだろう。

「これが読み終わったら寝るか」

ヴィンセントは借りた漫画の最初のページを開いて呟くのであった。
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