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□レイトショーを見に行きたい
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夕飯を済ませて少しまったりした後に二人は映画館へと赴いた。
時間の所為もあって人気は少なく、チケットも飲食物もすんなりと購入する事が出来た。
ユフィは塩とキャラメルが半分ずつ入ったレギュラーサイズのポップコーンとオレンジジュースでヴィンセントはコーヒーを注文した。
上映時間になってホールに入場すると中には自分とユフィ、その他の人間が2,3人くらいしかいなかった。
何れも大人だけなのでこれはゆっくり鑑賞出来ると確信し、ヴィンセントは深く腰掛けてスクリーンを眺める。

(懐かしいな、これは今もあるのか)

ムービー泥棒のキャラたちによる映画の違法撮影やダウンロード、マナーを呼びかけるCMが流れてヴィンセントは懐かしい気持ちになる。
キャラそのものは変わってはいないものの、綺麗な映像となって更にキャラも増えたCMにヴィンセントの心はいくらか和む。
レイトショーは利用した事がないだけで普通の映画は何度か見た事のあるヴィンセント。
だからこのムービー泥棒のキャラたちはまるで懐かしいオモチャを見つけたような気分にさせる。
棺桶から目覚めて時代はすっかり変わっていて取り残されたのだと感じていたが、昔の時代から今の時代まで生きているものはまだあった。
それがヴィンセントに小さな安心感をもたらせる。

(“仲間”が増えたのはそちらも同じか)

昔からのキャラに引けを取らない独特な新キャラたちと展開するマナーの呼びかけのCMにヴィンセントは心の中で語り掛けるのであった。











「は〜楽しかった!ゼン・ソロとショーバッカのやり取り面白かったね〜」
「あのコンビの良さをお前も分かっているようだな」
「あったりまえじゃん!最初っから見てるんだから!」
「それは意外だな」
「ふっふ〜ん、恐れ入ったか!」

映画が終わり、帰り道でユフィを送りながらヴィンセントは映画の感想についてユフィと話していた。
人も少ない時間、静寂の中を歩きながらのびのびと交わす会話はヴィンセントを楽しませる。

「あ〜あ、アタシもビームソード使ってみたいな〜。ブオンブオン!ってさ」
「お前があれを手にしたら間違いなく真っ黒に光るだろうな」
「は〜!?正義の味方の美少女くのいちユフィちゃんはと〜ぜん真っ白に光るに決まってんだろ〜!」
「物欲に塗れて仲間からマテリアを強奪した奴はどう足掻いても真っ黒にしかならないと思うが」
「そ〜んな昔の事は忘れました〜」

調子よく言いのけるユフィにヴィンセントは呆れにも似た苦笑の息を漏らす。
本当にこの忍者娘は調子がいい。
けれど時々それが羨ましく思う時もある。
後ろ向きな考えをしては「暗〜い!」とユフィに呆れられるのだが、こんな風に調子よく返す事が出来たら後ろ向きに考える事もなくなるのだろうか。
ヴィンセントは密かに憧れた。

「そーいうヴィンセントこそビームソード握ったら真っ黒なんじゃな〜い?
 赤マント外したら全身真っ黒だし。腹の中も真っ黒だったりして」
「お前ほど真っ黒ではない」
「ほどって事はちょっとは黒いのを認めるんだ?」
「まぁ、な」
「ふ〜ん。例えば?」
「ふむ・・・このままお前の家に泊まる、というのはどうだ?」

一瞬ユフィは口を開けたままポカンとしていたが、すぐに噴き出して腹を抱えて笑った。

「ぷっ・・・あっはは!な〜にそれ〜!そんなん全然黒くないって〜!」
「そうか?」
「そーだよ。もーちょっと過激に行かなきゃ」
「例えば?」
「狼になってユフィちゃんを食べた〜い、とか」

挑戦的に見上げてくる黒の瞳。
きっとこの少女の頭の中ではこの後のやり取りがシミュレーション済みなのであろう。
自分が「ばかばかしい」と返してユフィがからかって来る。
付き合いの長さからそんな考えは手に取るように分かる。
・・・少しだけそれを変えてやろうか。

「・・・なるほど。ではそのセリフを借りるとしよう」

細い腰に腕を回して抱き寄せる。

「へ・・・?」

やはり予想していなかったらしく、素っ頓狂な声を漏らすユフィがおかしかったが笑い声は喉の奥に飲み込む。

「ちょ、ちょっと!」

月の光に照らされて浮き上がる淡く色づいた頬に気を良くして優しく腰を撫でる。
すると身動ぎしていたユフィはびくりと体を震わせて固まってしまった。
その反応が楽しくてもう少しだけからかってやろうという気持ちになった。

「ああああの、ヴィンセント!?」
「何だ」
「あ、何だって・・・も、もう・・・」
「ホテルの方が良いか?」
「ほて・・・!?」

まさかの言葉に絶句するユフィに追い打ちをかける。

「それとも私のアパートに来るか?」
「〜〜〜っ!むっ―――」
「大きな声を出すと近所迷惑になるぞ」

「ムッツリスケベ―!」と叫びそうになるユフィの口元に人差し指を立てて静かにするように示す。
ここはユフィのアパートの前。
今ここで大きな声を出してしまえば近所迷惑になってしまう。
ただでさえからかわれたというのにその上罵声の一つや二つも浴びせられない事にユフィは敗北を悟り、悔しそうにヴィンセントを睨みながら階段を駆け上がるとお休みの挨拶もせずに部屋の中に引っ込んでしまうのであった。

「くっ、くく・・・」

漸く堪えていた笑い声をマントの下で漏らすとヴィンセントはしばらくおかしさから体を震わせるのであった。
ここまでからかい甲斐のある人間はそういない。
帰り道で驚いたり頬を染めて慌てていたユフィを思い出して笑っているとラインからメッセージをキャッチする音が鳴った。
確認してみればユフィからのメッセージで、先程言えなかった恨み言が綴られていた。
しかしそれはヴィンセントを更に面白がらせるだけでしかなく。

「真っ黒じゃなくてどピンクの変態か・・・最初に言いだしたのはそっちだろうに」

きっと顔を真っ赤にして悔しいだの負けただのムッツリスケベだの騒ぎながらメッセージを打ったに違いない。
しかしそれに対してヴィンセントはユフィから教えてもらったスタンプ機能を使ってキャラクターが笑っているスタンプを送信してやった。
これできっともっと悔しがって明日には頬を膨らませて抗議とやらをしてくる事だろう。
それを考えたら明日が楽しみになってきた。
ところが・・・

『えー、東エッジ駅で起きた電車のトラブルにより、現在は運転を見合わせております。
 発車時刻は今の所未定でございます。お客様には大変ご迷惑をおかけ致します』

乗る筈だった電車が止まってしまった。
しかもこんな遅い時間に、動き出す時間も未定のまま。
ならばタクシーを使おうとタクシー乗り場の方に足を向けたら皆同じ事を考えているのか、行列が出来ていた。
このまま並んでも乗るのに一体どれだけの時間がかかるのやら。

「・・・これも私の罪・・・」

途方に暮れてヴィンセントは小さく呟くのであった。











END
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