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□レイトショーを見に行きたい
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ヴィンセントがよく利用するショッピングモールには映画館もあったりする。
ある日何気なくその映画館のラインナップを眺めてると、ある張り紙を目にした。

「レイトショーか・・・」

レイトショーというのは夜20時以降から安い料金で鑑賞する事の出来る映画の上映のこと。
タークス時代の時はこういったサービスはあまりなく、あったとしても如何わしい映画の上映ばかりであった。
その為ヴィンセントはレイトショーを利用した事は殆どない。
しかし今の時代では普通の映画も上映しているようで俄然、ヴィンセントは興味を引かれた。
元々読書の他に映画鑑賞も好きなので早速明後日にでも見ようと予定を入れる。

「明後日が楽しみだな」

一人小さく呟いてその日はそのまま立ち去った。











そして当日。
仕事を定時で終えて上がったヴィンセントは諜報室を出ると早速オフィスの出口へと足を向けた。
が・・・

「はぁっ!?何だよそれ!アタシはきょーみないつって断ったじゃん!・・・知るか!親父がきっぱり言えばいいだろ!?」

廊下の角の人気の少ない所で怒鳴り声がよく響いた。
この声と口の悪さは間違いない、ユフィだ。
会話の内容を察するにゴドーと揉めているようだが、いつもの親子喧嘩という訳でもなさそうである。
気になってヴィンセントは角からユフィの様子を伺った。

「何それ意味分かんない!じゃあ直接言ってぶん殴ってやるよ!!
 ・・・うっさいなー!そもそも親父がきっちり断らないのが悪いんじゃん!
 あーもー分かった分かった!分かりましたよ!断ればいいんでしょ!電話番号は?
 ・・・うん・・・うん・・・分かってるよ。ちゃんと冷静になって断っておくから。んじゃ」

通話を切るとユフィは忌々しげに「はぁっ」と強く溜息を吐いた。
見るからに機嫌が悪い方に最高潮に達しているユフィになんて声をかけようかと悩んでいるとユフィがこちらを振り返った。
目が合ってしまい、気まずさからどうしようかと迷っていると意外にもユフィは八つ当たりするでもなく疲れたようにヴィンセントに話しかけてきた。

「あ、ヴィンセント・・・さっきの聞いてた?」
「・・・すまない。あまりにも大きな声だったので気になってな」
「あーそっか。まぁあんだけ怒鳴ってりゃ仕方ないよね〜」
「また親子喧嘩か?」
「そーじゃないんだ。この間の見合い相手の男がど〜しても考え直してくれないかってしつこいらしくてさぁ」
「あのウータイにしか興味がないと言っていた男か?」
「そーそいつ。見合いした時は親父を通して興味ないって言ったのに納得いかないからアタシの口から直接聞きたいんだってさ。
 しつこい男は嫌われるって言葉を知らないのかよ。
 ていうかアタシに興味なくてウータイ目当てなのもうちょっと隠さない訳!?
 それなのにアタシにぶん殴られる覚悟があって事だよね!?アタシ殴っても怒られたりしないよね!!?」
「いや、間違いなく怒られると思うぞ。少なくとも現段階では」
「ヴィンセントまで親父と同じ事言う!」

不満の分だけ頬を大きく膨らませるユフィだがヴィンセントだってユフィの気持ちを蔑ろにしている訳ではない。
確かに自分ではなく愛する祖国目当てなのが見え見えなのは腹立たしいがだからと言って手を上げてはダメだ。
それでは問題を更に拗らせるだけである。
むしろそれをネタにまた望まない見合いの場を設けろと要求される可能性も生まれてしまう。
だからここはユフィに八つ当たりされても諫めるべきだと思い、ヴィンセントは実行した。

「暴力を振るえばこちらの立場が悪くなるだけだ。悔しいかもしれないがここは我慢しろ」
「そんな事くらい分かってるよ!ちょっと言っただけじゃんか・・・」

などと言っているものの、ユフィは未だに唇を尖らせている。
どうやら不満は残っているが少しは落ち着いて冷静になってくれたようだ。
ヴィンセントが内心ホッとしていると「そーいえば」と零してユフィが尋ねてきた。

「ヴィンセント今日はもう仕事終わり?」
「ああ。これから上がる所だ」
「お、奇遇じゃ〜ん。アタシも終わったとこなんだ!だからこれから一緒にご飯食べようよ!」
「生憎私はこれからショッピングモールのフードコートで夕食を済ませて映画を見る予定なのだが・・・お前も来るか?」
「映画?何見んの?」
「『コスモウォーズ〜前代の騎士〜』だ」
「マジ!?コスモウォーズ見んの!?アタシも見たい!一緒に行っていいでしょ?」
「好きにするといい」
「んじゃ行こう!」

さっきまで膨れっ面だったユフィは途端に満面の笑顔を浮かべると「レッツゴー!」と音頭を取って前を歩き始める。
コロコロと表情の変わるユフィに内心安心のようなものを覚えながらヴィンセントもその後に続くのであった。











「今日ってもしかしてレイトショーで見るの?」

フードコートでユフィはハンバーガーを食べながら、ヴィンセントはそばを食べながら話していた。
天ぷらの具は選べる店で、贅沢にもエビを二本注文した。
後はカボチャとマイタケを一つずつ。

「その予定だが何か不都合でもあるか?」
「うーうん、別に。電車も余裕で間に合うと思うしへーき。
 ていうかヴィンセントがレイトショーだなんてちょっと驚きだなーって」
「何がだ?」
「レイトショーの存在そのものを知らないと思ってた」
「そのくらいは知っている。私がタークスの時代でもレイトショーはあった。もっとも、健全なレイトショーではなかったが」
「ふ〜ん。ヴィンセント、通い詰めてたりして」
「残念ながらそんな事はない。仕事が忙しかったからな」
「あ〜やし〜。ホント―はやらしー映画見まくってたんじゃないの〜?それとも厳選して見てたとか?ん?」
「お前はオヤジか・・・」

呆れるように息を吐いてエビを天つゆにつけて齧る。
フードコートの割には中々にサクサクに仕上がったエビだ。

「そういうお前はレイトショーはよく見に来るのか?」
「ん〜まぁそこそこかなぁ。見たい映画があった時だけ見に来るって感じかな〜」
「何を見るんだ?」
「アニメとかアクション映画とか〜・・・かな?あんまりグロくないのとか見る感じ」
「ホラーは?」
「見る訳ないじゃん!」
「ククッ、そうか」
「知ってる癖に聞くなよ!」

ユフィは小さく怒ると文字通りガブッとハンバーガーを齧った。
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