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□ユフィを探しに行きたい
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「怪我はないか?」
「・・・うん・・・・・・」
「スマホは電池が切れたのか?」
「・・・うん・・・・・・」
「ティファたちが戻ってこないと心配していた」
「・・・うん・・・」

なるべくユフィの気を紛らせてやろうと話題を振るがユフィはこんな調子だし自分も上手く話しを繋げられない。
だからと言って無言のままでいる訳にも行かず、なんとか頭を振り絞って話題を探した。

「買ったジュースはどうしたんだ?」
「・・・女の子にあげた。泣いてて可哀想だったし・・・まだ口付けてなかったし・・・」
「そうか。戻ったら私が代わりの物を買ってやろう。何がいい?」
「レモンソーダ・・・」
「分かった、レモンソーダだな。他に欲しい物はあるか?」
「・・・麦チョコ」
「分かった、それも買おう」
「・・・・・・ヴィンセント」
「何だ」
「・・・・・・来てくれて・・・ありがと・・・・・・」
「・・・ああ」

未だ腕の中で震えながらユフィはそう言った。
どうせなら太陽の下で笑顔で言ってほしかったがそれは贅沢な願いだろうか。
と、そこでとある人物の事を思い出して、強く抱き直しながらその人物について語った。

「ナナキにもちゃんと礼を言うのだぞ。ナナキが場所を教えてくれた」
「うん・・・」
「お前の事を心配していた」
「・・・ナナキも分かっちゃってんのかな・・・」
「どうだろうな。だが責めてやるな。お前を本当に心配していた」
「分かってるよっ」

ぎゅっとユフィはより一層腕に力を込めて抱きついて来る。
ユフィは自分の弱点などを知られて弱い者扱いをされるのを嫌う。
そしてそれは身内とて例外ではない。
ただでさえ仲間内では最年少という位置付けに立っており、子供扱いされる事が多いのにそこに加えて弱い者扱いされるのはユフィには耐えられない事だ。
だからこうして弱い所を見せて不安になり、強がろうと無理をする。
仲間の誰もユフィの弱点を知った所で弱い者扱いなどしないがユフィのプライドがそれを許さないのだろう。
でも、せめて自分にくらいにはその弱さを隠さず見せて欲しかった。
弱さを見せて、弱音を吐いて、自分に逃げ込んで欲しい。
そんな想いがヴィンセントを突き動かして行動に移させる。

「・・・ユフィ、暗闇は今でも怖いか?」
「・・・悪いかよ」
「いや、悪い事ではない。あれはトラウマになってもしょうがないものだ」
「誰にも言うなよ・・・」
「分かっている。だがお前も耐えられなくなったら遠慮なく私を頼って欲しい」
「・・・・・・笑わない?」
「私が笑った事があるか?」
「・・・ない。絶対助けろよ」
「ああ、約束だ」

努めて優しく囁いてみれば「絶対だかんねっ」とこれ以上ないくらい抱きつかれた。
どうやら頼ると決めてくれたようでヴィンセントはとても嬉しかった。
温かく、穏やかな気持ちがじんわりと胸を中心に広がっていくのが分かる。



絶対に守ろうと決めた。

暗闇からも、色んなものからもユフィを守ろうと決めた。

無鉄砲で強がりな彼女を。

何かと自分に構い、傍に近づき、太陽のような笑顔を向けてくるこの少女を―――。



洞窟を抜けて光刺す森に出てからは自分で立てるとユフィが言ったので降ろした。
けれども一人歩くその姿は頼りなさげで手を握ってやりたくなった。
しかしそこまでの行動が出来るほど自分にその勇気はなく、過去の経験からか臆病になっている。
慎重になりすぎているのも原因の一つだろう。
だから代わりにヴィンセントはユフィの歩幅に合わせて歩き、街に戻った。
街に戻ると臭いを嗅ぎつけたのか、ナナキが一目散に駆け寄ってきて二人の帰還を喜んだ。

「ユフィ!ヴィンセント!良かった、無事だったんだね!」
「ああ」
「ナナキ!」

ナナキを見るなりユフィはガバっとナナキに抱きついた。
いや、どちらかと言うとしがみついた、という表現の方が正しいだろうか。
少なくともヴィンセントにはそう見えた。
動物というのはとても温かく、また心臓など身体の機能がとても分かり易くて生命を一番身近に感じる事の出来る生き物である。
それを抱きしめる事によって命が近くにある事、それを感じ取っている事、生きている事を実感したいのだろう。
絶対とは言い切れないが多分そうだろうとナナキにしがみつくユフィの小さな背中を見てそう思った。

「ヴィンセントを呼んでくれたんだよね、ありがとナナキ」
「うん。でもヴィンセントもユフィを探してるみたいだったよ」
「ヴィンセントが?」

見上げてくる黒の瞳と視線を合わせるのがなんとなく照れ臭くて目を逸らす。

「なんだか誰か探してるみたいだったけどヴィンセントはユフィを探してたんだよね?」
「・・・何故そう思う?」
「だってオイラがユフィは帽子を取り返しに行ったよって言ったら安心したような顔してたもん」

まさか見られていた上に覚えられていたとは。
不覚を取ったと思った頃には時既に遅く、ユフィはにんまりとした表情を浮かべてからからかって来た。

「何々ヴィンセント?アタシがいなくて不安になったの?必死だった訳〜?」
「・・・」
「しょうがないな〜ヴィンセントは!そんなにユフィちゃんの事が恋しいとは思わなかったよ!」
「・・・ジュースとお菓子は無しだ」
「照れんなよ〜!」

バツの悪い表情を見られたくなくて大人げないセリフを吐きながらユフィとナナキを置いて別荘に足を向ける。
それにこれだけ賑やかな街に来てナナキと一緒とあれば自分がついていなくても大丈夫だろう。

「ユフィ、帽子は取り返せた?」
「もっちろん!」
「じゃあ返しに行ってあげよう?女の子泣いてたからさ」
「そーだね。そーいやナナキ、アンタ風呂はもう入ったの?」
「入ったよ」
「でも森に行ったから足とか汚れてるでしょ?アタシが洗ってあげるよ」
「ありがとうユフィ!でも肉球はあんまり触らないでね」
「え〜?いいじゃん気持ち良いんだからさ!」

二人の他愛のない会話を背中に聞いてヴィンセントは一安心するのだった。
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