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□ユフィを探しに行きたい
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海から上がってシャワーを浴びた後、少しだけ昼寝をした。
多分三十分くらい寝ただろうか。
のろのろと起き上がって緩く欠伸をして窓の方を見る。
カーテンで光が遮られているものの、外はまだ明るかった。
寝ていた所為もあって喉が乾いたのでキッチンの方に行けばティファとシエラが仲良く談笑をしていた。
しかしそこで人間が一人足りない事に気づく。

「あ、ヴィンセント。一緒にお茶飲む?」
「いや・・・それよりユフィはどこかに行ったのか?」

三年前のひたすらマテリアにしか興味なかったユフィならいざしらず、最近のユフィはこうした女性だけのトークに加わる事も少なくない。
だからこうしてティファとシエラが話しをしていたらユフィも同じように加わって話しているものなのだが、今その姿はない。

「ユフィならジュースを買いに行くって言って十五分くらい前に出て行ったんだけどまだ帰ってきてないのよ」
「十五分も前にか?」
「うん。立ち読みとかしてるのかしら?」
「ジュースは近くのファンタジーマートに買いに行ったのか?」
「多分そうだと思う。だから大丈夫だと思いたいんだけど・・・」
「分かった、私が様子を見てこよう。ティファたちはここで待っていてくれ」
「ありがとう、ヴィンセント。お願いね」

どことなく胸騒ぎがして早くユフィの無事を確認したくなった。
軽く身なりを整えて別荘の扉を開けばギラギラとした太陽の日差しがヴィンセントを突き刺す。
全く、これから夕方になろうと言うのに日差しはまだキツイのか。
早くユフィの身の安全を確認して別荘に戻ろう。
そしてまたゆっくり昼寝をするのだ。
それかコーヒーを飲みながら本を読むでもいい。
とにかくユフィを連れて帰ってゆっくりしたかった。
ところがファンタジーマートに行ってもユフィの姿はどこにもなかった。
試しに店員に聞いてみたらユフィらしき人物は十分前にジュースを買ってそのまま出て行ったらしい。
勿論一人で。

(どこに行った、ユフィ・・・)

おかしな連中に絡まれて連れて行かれたのか、はたまた何かしらの事件に巻き込まれてしまったのか。
色んな可能性がヴィンセントの頭の中で浮かんでは消えていく。
無事でいてくれと願いながら街を歩いてユフィの姿を探していると「ヴィンセントー!」と大きな声で名前を呼ばれた。
振り向けばナナキが町の入口からヴィンセントの名前を呼びながら走り寄って来た。
後ろには三人の小さな女の子を連れた親子の姿があるが、三人共何やら浮かない顔をしている。
女の子に至っては嗚咽を漏らしている始末だ。

「ナナキか。どうかしたのか?」
「あのね、オイラ、ユフィと一緒に森の方に散歩に行ってたんだ。
 そしたらそこの親子に出会って、女の子の被ってた帽子がモンスターに持って行かれちゃったんだって。
 それでユフィが『アタシが取り返して来るからナナキはそこの親子を街に連れてって』って言って戻ってきた所なんだ」
「ユフィと森の方に行ったのか?」
「うん。ユフィはコンビニの帰りだったんだけどオイラが散歩に誘ったら来てくれたんだ」
「そうか・・・」

どうやら事件に巻き込まれたというよりは自ら首を突っ込んでいたようである。
なんともユフィらしいと思って小さく安堵の息を吐くがナナキは少し不安な表情を浮かべていた。

「それでさ、ヴィンセント。お願いがあるんだけどいい?」
「何だ?」
「ユフィの様子を見てきて欲しいんだ。どうもモンスターは洞窟の方に入って行ったみたいでさ。
 ユフィはスマホのバックライトがあるから大丈夫なんて言ってたんだけどオイラ心配で・・・」
「分かった、見てこよう。お前は親子が追いかけてこないように見ていてくれ」
「うん。洞窟はここからすぐ近くの森の中にあるから。そんなに深くない森だから迷わないし、きっとすぐ見つかるよ」
「ああ」

話しが終わった所でヴィンセントは走って街から出て行き、ナナキは親子の方に戻って事情説明にかかった。
僅かに聞こえた会話からナナキは親子に怖がられていないようである。
ナナキを知らない人間からしてみればナナキもモンスターに見えるようだが、きっとユフィが一緒にいたからモンスターの類ではないと認識されたのだろう。
加えてナナキは人の言葉を話し、ちゃんとした知能と人懐っこさも持ち合わせいるので、それもあって受け入れられたのだろうと推測する。
だからこちらの方は心配はなかったが、その分ユフィの方がもっと心配になった。
この辺の地域のモンスターは大した強さではないのでそこは問題はなにのだが、それよりも『洞窟』という言葉が気がかりだった。

(トラウマになっていなければいいのだが・・・)

デュープグラウンドソルジャーとの戦いの時にユフィはツヴィエートのネロに闇に取り込まれた。
常人の精神ではおよそ耐えられぬそこにユフィは放り込まれ、そして闇に取り込まれて危うく死にかける所だった。
間一髪救出する事に成功出来たものの、今でもあの悲鳴は忘れられない。
事件の後からユフィはどこか暗闇を怖がる節があったのだが、もしもそれがまだ克服されていなかったとしたら―――。

「・・・・・・ん?」

森を走っている時に、風に乗って悲鳴のような音が耳に聞こえて来た。
五感を研ぎ澄まして音が聞こえた方を辿って歩くと洞窟の前に辿り着く。
恐らくナナキが話していた洞窟だろう。
魔獣の力をほんの少し解放して嗅覚を鋭くすればすぐにユフィの香りを感知出来た。

「待っていろ、ユフィ」

少し前にユフィから教わったバックライトの付け方を思い出しながらスマホを操作して明かりを灯す。
真っ暗な洞窟に向かって軽く全体を照らし、それから足元を照らしながら慎重に歩いて行く。
洞窟の中は温度が低く、またモンスターの気配もあまりなかった。
恐らくユフィが片付けたのだろう、おかげで難なく洞窟の中を進む事が出来た。
そして歩けば歩く程ユフィの香りは強くなって気配もハッキリしたものになっていく。
更にしばらく歩いて行くとヴィンセントのスマホのバックライトがストラップの付いたスマホを照らし、それからその近くに蹲る少女を照らし出す。

「ユフィ!」

頭を抱えて震える少女に、やはりか、と心の中で呟いてすぐに駆け寄る。
と、ユフィは勢い良くヴィンセントに抱きついて首に腕を回して来た。

「ヴィン・・・セント・・・」

体を震わせて必死にしがみついて来るユフィの姿に既視感を覚える。
ネロの闇に取り込まれた時と同じだ。
あの時もユフィはヴィンセントに抱きついて助けを求めるように縋ってきた。
あんなにも弱い所を見せるのが嫌いなユフィが震えながら体全体で恐怖を伝えて来たのはネロの闇に取り込まれたあれが初めてだった。
それからのこれとなると、どうやらヴィンセントの思っていた以上に暗闇はユフィの中でトラウマになっているようである。
しかしそんな状況でありならも、親子の娘の物であろう麦わら帽子を手に持っている辺りは流石と言うべきか。
ヴィンセントはユフィのスマホを自分のポケットに入れると、あの時と同じようにユフィを抱き上げて言った。

「すぐに洞窟を出るぞ」

必死に首を縦に振るユフィが痛ましくて見ていられなかったので自分のスマホをバックライトを付けたまま渡した。
来る途中の洞窟の地面は然程危険がなかったので照らさなくても大丈夫だろう。
それでも大きめの石ころが多いのでユフィには悪いが歩いて出る事にした。
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