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□雨が止むのを二人で待ちたい
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「は〜着いた〜!」
「ここは崩れる心配はなさそうだな」
「奥もそんなに深くはないみたい。モンスターは出なさそうだね」
「ならばここで大人しく雨が止むのを待とう」
「んー」

入り口からほんの少しだけ距離を置いた所に腰を下ろして外を眺める。
雨風はこれからがピークといった感じで尚も吹き荒れていた。
同じく外を眺めていたユフィが小さく呟く。

「雨止むかなー」
「ただの通り雨だ、すぐに止むだろう」
「だといいけど。あ、それよかさ、ちゃんとお礼言ってなかったね」
「礼?」
「ビーチボール追っかけに行ったアタシの事、心配して来てくれたじゃん?だからありがと!」
「・・・この雨風のついでに雷も降るかもしれないな」
「なんだとー!?そんなにアタシがお礼を言うのが珍しいかよ!?」
「正直驚いた」
「シツレーしちゃうなーもう!!」

頰を膨らませてプイッと横を向くユフィに聞こえないように小さく笑う。
本当にユフィはこの手の冗談に乗りやすい。
からかうのが楽しくてついこんな意地悪な事を言ってしまう。
ユフィの事をまだまだ子供だと思いながらも、その実は自分も子供だと思ってヴィンセントは苦笑した。

「ただの冗談だ」
「なーにが冗談だよ!ていうかアンタ、最近アタシに対してそういう冗談言うの多くない?」
「そうか?」
「そーだよ。なになに?もしかしてユフィちゃんに心全開なわけ〜?」
「ふむ・・・そうかもしれないな」

心開いていない相手に対して冗談などは言わない。
だからユフィに指摘された通り、自分は随分ユフィに心を許しているのかもしれない。
冗談を言っても大丈夫な相手、冗談を言って楽しい相手。
仲間に対して許している心とはまた違った心をユフィに対して開いている事をヴィンセントは自覚した。
自分を客観的に考察して納得するも急に黙り込んだユフィが気になって目を向ければユフィは頰を赤くして固まっていた。

「ユフィ?」
「うぇっ!?な、何!?」
「急に大人しくなってどうした?どこか具合でも悪いのか?」
「ぜ、全然へーき!大丈夫!ちょっと疲れただけだから!!」
「眠かったら寝てもいい。何かあればすぐに起こす」
「ん、ありがと」

ユフィは体育座りの姿勢を取ると足の間に顔を埋めた。
しかしそこから数分して顔をほんの少し上げるとポツリと呟いた。

「ついてないなー」
「何がだ?」
「だってスイカ割りし損ねたじゃん?それにこんな天気に見舞われてさ。全然遊び足りなーい」
「私は午前中だけでも楽しめたぞ」
「そう?」
「ああ。海に入り、お前とカキ氷を食べた。確かにスイカ割りは出来なかったがそれはまた今度にすればいい」
「また今度、海に入ってくれんの?」
「ああ。お前を寂しがらせる訳にはいかないのでな」
「は、はぁっ!?あた、アタシが寂しがるって何さそれ!?」
「デンゼルから聞いた。私が海に入らないかもしれないと聞いて寂しがっていたとな」
「デンゼルのやつ〜!!」
「それで?私が海に入らないとどうしてお前は寂しいんだ?」
「そそ、それは―――」
「それは?」
「〜〜〜っ!もう寝る!眠い!お休み!見張り宜しく!」

顔を真っ赤にしてヴィンセントの胸をドン!と押すとユフィはとうとう顔を伏せてしまい、それっきり顔を上げなくなってしまった。
それからしばらくすると、すぅ、という穏やかな寝息が聞こえて来た。
どうやら本当に寝てしまったらしい。
やれやれと苦笑の溜息を吐いて再び外に目を向ける。
雨風は少しだけ勢いが弱くなって来たようで、先程のような荒々しさはあまりなかった。
そうやって外を眺めてからどれくらいか経った頃、ユフィがくしゃみをした。

「へっくしゅ!」

よくよく考えれば海からこの洞穴に上がってからそのままだ。
身体が冷えてくしゃみが出てしまうのも仕方ない。
このままでは風邪を引いてしまうと思い、ヴィンセントはパーカーを脱いでユフィの肩に着せてやった。
それまで寒さで少し震えていたユフィだったが、それも治ってまた穏やかな寝息を立て始めた。

「・・・本当に半日だけでも楽しかった」

独り言のようにヴィンセントはポツリと呟く。
仲間のみんなで海に来て、海に入り、ハプニングが起こり、ユフィとカキ氷を食べ、仲間のみんなでスイカを食べる。
そしてその殆どの出来事が起こるたびにユフィが隣にいたように思う。
まだまだ子供っぽくて悪戯が過ぎる所があるものの、時折大人の女性としての顔を見せてきて成長している事を思い知らせてくる。
そんなユフィの一面を知っているのは自分だけだったらいい、という独占欲や優越感がヴィンセントの中で生まれる。
それどころかユフィのいろんな顔をもっと知りたいと思った。
ユフィの隣で、ユフィを見ながら―――。












「・・・止んできたか」

先程まで吹き荒れていた雨風はすっかり止み、荒れていた海は今では穏やかな波の音を立てている。
分厚い雲の隙間から陽の光が射してきてヴィンセントを照らす。
暖かくて眩しい。
もうこの光を見る事はないだろうと思っていた。
けれど三年前にクラウドたちと出会った事がキッカケで再び光を見る日が訪れた。
でもそれも宝条を倒すまでの間だと思っていた。
それが気付いたら色々な事が起きて、こうして今も光の下にいる。
もう闇の世界に戻りたいとは思わない。
それに今はこの光の下を特別な相手と歩きたい。
それは―――。

「ユフィ」

肩を軽く揺さぶってユフィを起こす。
するとユフィは「むにゃっ?」と寝惚けたような声を漏らして欠伸しながら顔を上げた。

「晴れたぁ・・・?」
「ああ」
「そっかそっか、んじゃ戻ろっか・・・あれ?」

己の肩に掛けられている物に気付いたユフィはそれの袖を摘むとヴィンセントを見上げて聞いた。

「これ・・・ヴィンセント?」
「そうだ」
「掛けてくれたの?」
「お前が寒そうにしていたからな」
「そ、そっか、ありがと!ヴィンセントは寒くなかった?」
「いや、大丈夫だ」
「ん。じゃ、戻ろっか」
「ああ」

ユフィからパーカーを受け取って着ると先に洞穴から出た。
ここに来る時のような荒々しさのない海は静かで危険もあまりなかった。
とはいえ、今日はもうこれ以上の遊泳は時間的にも無理だろう。
残念がるであろうユフィをどうやって宥めるか考えながらヴィンセントはユフィからビーチボールを受け取った。
そしてユフィも続いて海に入り、二人で崖沿いを泳ぎながら陸地を目指した。

「今日ってもう多分泳げないよね〜」
「恐らくな」
「はぁ〜ぁ、ほんっとついてない」
「夏は始まったばかりだ。また泳ぎに来ればいい」
「でもみんなの都合つかないじゃん」
「・・・私くらいは都合をつけてやってもいいが」
「えっ?ウソ!?マジで!!?」
「都合がつけばだが」
「つけてつけて!つかつけろー!アタシも調整するからさ!」
「考えておこう」
「考えておくじゃなーい!言った以上は都合つけろよな!」

ニヒヒと笑うユフィの横顔は太陽の光に照らされて輝いて見える。
本当にユフィは笑顔がよく似合う。
もっとこの笑顔を見ていたいとヴィンセントは思わずにはいられなかった。










END
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