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□海を楽しみたい
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カラッと晴れ渡る空、潮の香り、照りつく太陽の日差し。
常夏のリゾート地、コスタ。
ヴィンセントは現在仲間たちと共にコスタにおとずれていた。
リーボ本人は多忙為に代役としてケット・シーが参加したが、とりあえずは全員参加が叶った訳である。
そして自分を含めた男共は準備が済んだので一足先にビーチに繰り出して場所取りをしていた。
クラウドがレジャーシートを敷き、シドがパラソルを広げる。
その上に飲み物や昼食の材料を詰めたクーラーボックスをヴィンセントが置く。
後は準備運動をするだけだ。

「いいかデンゼル、しっかり準備運動しろよ!」
「うん!」
「おぅクラウド、俺ぁちょっくらタバコ吸ってくるぜ」
「あぁ、分かった」
「そういえばケットは防水機能付けるって言ってたけどあれどうなったの?」
「それが間に合わなかったんですわ。業者に一生懸命頼みはったんですがどうしても無理でしたわ。なのでボクは荷物番してるんで気にせず遊んで来て下さい」
「そっかぁ、残念だね。綺麗な貝殻見つけたらケットにあげるね」
「おおきに、ナナキはん」

猫(型ロボット)がナナキの頭を撫でるという構図に近くにいた動物好きの一般人がざわつく。
ケット・シーの中身がWRO局長の男であると知ったらどんな反応をするのか。
そんな事を思いながらヴィンセントも軽い準備運動をして海に備えた。
今回は着たまま海に入れるというパーカーを買ったのでヴィンセントも海に入る事が出来る。
何年ぶりの海だろうか。
何年ぶりの遊泳だろうか。
このパーカーの存在を教えてくれたクラウドには感謝しかない。
これならば周りの目を気にする事もないし、ユフィと一緒に海で泳いでやれる。
神羅屋敷の地下の棺桶に入って眠ろうと決めた時はまさかこんな日が来るとはちっとも思っていなかった。
本当に生きていると何が起きるか分からない。

「おっまたせ〜!」

ヴィンセントが感慨に耽っていると、コスタの海に似合う快活な声が後ろから届いてきた。
みんなで揃って振り返ってみれば水着姿のユフィたち女性陣がそこに立っていた。
所謂パレオと呼ばれる水着を着て抜群の魅力を放つティファ、子供らしく可愛らしいピンクの水着のマリン、露出控え目の水着に更に白のパーカーを着て慎ましやかにするシエラ、そして白黒の水玉のビキニを着たユフィ。
ユフィはタンキニと呼ばれるスポーティな水着を着ると思っていただけに、ヒラヒラの丈の短いスカートを履いていたのが少し意外だった。

「うぉおーーーー!!可愛いぞマリン!新しい水着を買ったのか?」
「うん!去年まで着てたのが入らなくなったの」
「そうかそうか、マリンも成長したんだな。うんうん」
「ねぇねぇとうちゃん!とうちゃんが買ってくれたこのモーグリのビーチボールに空気入れて!」
「おう!とうちゃんに任せろ!」

「あの・・・ティファ」
「うん?」
「・・・似合ってる」
「うん、ありがとう。ユフィに色んな水着見せられて迷ったんだけどこれにしたの」
「そうか。うん、とってもよく似合ってて綺麗だ」
「も、もう!クラウドったら・・・!」

「あら?あの人は?」
「シドはんならタバコ吸いに行きはりましたよ」
「あらそう。なら待ってようかしらね」
「ボクが荷物番してますさかい、シエラはんも泳いできたらどないでっか?」
「いいえ、ここで私も一緒に待ってるわ。それに海を眺めていたいし」
「そんなら待ってましょか」

各々それぞれに感想を言ったりテンションを上げてる中、腰に両手を当てたユフィがずいっとヴィンセントに詰め寄って見上げてきた。

「で?ヴィンセントはなんか言う事はないの?」
「何をだ?」
「み・ず・ぎ!ア・タ・シ・の!」
「悪くはないと思うが」
「はぁ〜〜〜!もっとマシな感想はない訳?可愛い!とか、興奮する!とかさぁ」
「可愛いは分からんでもないが興奮は違う気がするな」
「もういいよ」

「はぁっ」とからさまな溜息を吐くとユフィはヴィンセントから離れて軽く準備運動をすると「うぉおおおおお!」と雄叫びを上げながら海へ走って行った。
少しからかい過ぎたなと反省し、大人しくユフィが走って行った方へ歩いて行く。
さて、どうやって機嫌を直すか。
寄せては返す波に足の甲をくすぐられる感覚に小さく笑みをこぼしながら海に入る。
進めば進むほど深さは増して行き、気付けばヴィンセントの体は腹くらいまでが海に浸かっていた。
程よい冷たさの海、足の隙間に入り込む砂、太陽の光を受けてキラキラと光る水面、楽しそうに海の中を泳ぐ魚たち。
海は宝物の山だ。
色んな天然の宝がある。
遠くから眺めるだけでも十分綺麗だと思っていたが、近付いて見なければ分からないものもあると実感する。
多分一生近付く事はないだろうと思っていた所に近付けてヴィンセントはとても感動していた。
同時に嬉しいという感情を抱いた。
こんなにも美しい物を見れて、触れて、子どもっぽくも何だかとても嬉しかった。
そこに―――

「とぅりゃ!!」

横からバシャン!と海水をかけられて現実に戻される。
ヴィンセントを現実に引き戻した犯人は悪戯顔のユフィだった。

「へっへ〜ん!隙あり!さっきの仕返しだ!!」

両手で子供のようにバシャバシャと水を掛けてくるユフィに同じく子供のような気持ちになりながらヴィンセントも応戦した。

「そんなものでは私は倒せんな」
「うわっ!ちょ、大きく水掛けるの禁止〜!」

なんて言いながら腕で水をガードし、ユフィは笑う。
負けじとユフィも水掛けを続行するが圧倒的にヴィンセントの方が有利だった。
勝負あったと内心勝利を確信するヴィンセントだが、ユフィは諦めなかった。

「くっそ〜!こうなったら水着脱がしてやる!!」
「何故そうなる・・・」

「うりゃ〜!」と大声でユフィがヴィンセントの海パンに飛び掛かろうとする。
やれやれ、これが間も無く二十歳になろうとする女性のする事か。
子供のような気持ちから一気に冷静な大人に戻ったヴィンセントは呆れから深い溜息を吐いた。
海の中という事もあって少し動きづらいがそれはユフィも同じこと。
飛びかかってくるユフィを軽々と避けながらヴィンセントは海の中を回っていた。

「こんにゃろ〜!じっとしてろよな!」
「じっとする馬鹿がどこにいる」
「海で海パンを脱がされるのは定番だろー?」
「それを女であるお前がやろうとするな」
「でもクラウドもバレットとかもそういうのやらなそうじゃん。だったら誰がやるのさ」
「二人はもういい大人だ。そしてお前がやるという理屈が理解出来ない上にしたくもない」
「そーいう理屈はどーでもいいから大人しく脱がされろ!」
「その内天罰が下るぞ」
「下らないも〜ん。ユフィちゃんは日頃の行いが素晴らしいから―――」

ハラリ

そんな音がしそうなくらい綺麗に抜け落ちた。
何がだって?
そんなのは決まっている。
むしろそれこそ定番だ。
曝け出された夏の果実にヴィンセントは言葉を失ったが、すぐに自分でも信じられない速さでユフィを抱き寄せて隠した。

「ああああああヴィヴィヴィ・・・!!?」
「落ち着け、ユフィ。大丈夫だ、誰にも見られていないから安心しろ」

言葉を並び立てるが内心自分も焦っている。
軽く周りを見回すがユフィの体を見た様子の人間はいない。
ユフィとじゃれていた所為か胸の辺りまで浸かる深い所まで来ていて、それもあってか人の姿は少なかった。
しかしだからといってこのままという訳にもいかない。
なんとかして流されたユフィのビキニを探して着用させなければ。
ごそごそと腕の中でユフィが身動ぎをして両腕で胸を隠すのが分かる。
気持ちは分からないでもないし、ヴィンセントとしても色々危ないのでそれ自体はいいのだが隙間が出来てしまう。
そうすると周りにユフィが今どんな状況なのかを知られる確率が高くなる。
そうなる前にビキニを見つけなければと焦るヴィンセントだが、少し離れた所に白黒の水玉のビキニが漂っているのが視界の隅に映った。

「見つけた」
「ホント!?」
「ああ、だが少し離れているな」
「マジで!?」

このままユフィから離れて素早く取りに行ってもいいが、その間のユフィが心配だ。
誰かに見られたり良からぬ者に近付かれたりと色んな危険が付き纏う。
かと言ってユフィと一緒に行くのは少し難しい。
考えている間にもビキニはどんどん波に流されていく。
やはりここはユフィに我慢してもらって自分がビキニを―――

「ユフィー!ヴィンセントー!何してるの?」

そんな時、神の使いがヴィンセントとユフィの元に泳いで来た。
いや、救いの神そのものと言っても過言ではない。
犬かきをしながらパシャパシャと泳いで近づいて来るナナキが二人には神々しく見えた。

「ナナキ〜!」
「丁度良い所に来た。すまないがアレを取ってきてくれないか?」
「あー、ユフィの胸当て?いいよ」

やはり動物、人間の女性が身につけるビキニなどは胸当てと認識するのか。
とても助かる事に変わりはないのだが。
そうやって見守っていると程なくしてナナキがユフィのビキニを咥えて戻ってきた。

「持ってきたよ〜」
「サンキューナナキ!」
「助かったよ、ありがとう」
「うん、いいよ。オイラ離れた方がいい?」
「どうする、ユフィ?」
「あーうん、悪いけど離れてて」
「分かったよ。オイラあっちでデンゼルたちと遊んでるから」
「あ!アタシのビキニが外れた事は絶対言うなよ!言ったら鼻ピンだからな〜!」
「ええ〜!?」
「ユフィ、助けてもらった恩を仇で返すな」
「分かってるよ。ちょっとした冗談だよ」

本当に冗談なのかどうか怪しい所だ。
ともあれビキニを取り戻したユフィはヴィンセントに「目ぇ瞑って!」と命令するとビキニの装着に取り掛かった。
目を瞑っている間、ヴィンセントの瞼の裏では太陽の光を受けて輝く夏の果実が浮かびそうになったが、頑張ってそれを消そうと努めた。
しかし努めれば努める程その光景が瞼の裏に焼き付いていき、ヴィンセントの罪を増やそうとする。
ある意味でご褒美とも呼べる天罰が何故自分に下るのか・・・。

「・・・ねぇ、ヴィンセント」

きゅっ、とパーカーの胸元辺りを掴まれる。
その布を掴む音はまるで自分の心臓を掴まれたような音にも似ていて、責められるのかという焦りと同時にいじらしさを覚える。
どこでこんな仕草を覚えたのか。
しおらしいトーンの声も相まって効果は二倍だ。
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