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□縄抜け大会
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「はぁっ・・・んん・・・こ、のぉ・・・!」

清潔な白いベッドの上でユフィは俯せになり、息を乱しながら必死に身動ぐ。

「苦しいか?」

清潔な白いベッドの上でヴィンセントは不敵な笑みを浮かべてユフィを見下ろす。

「苦しく・・・なんか・・・あ!ダメ・・・キツイ・・・!」
「そろそろ時間だが・・・簡単に抜けるんじゃなかったのか?」
「アンタが・・・本気、出すから・・・」
「本気?違うな。こんなのはまだ序の口だ。自分で言うのも何だが、私の本気は―――凄いぞ」
「ふ、フンだ!アンタの・・・本気なんか・・・」
「試してみるか?」
「あぁダメ!そんな激しくしたら―――!」

「・・・お前ら、昼間っから人ん家で何やってんだ」

ここはセブンスヘブンの二階住居スペースの客間。
そこにあるベッドの上でユフィはヴィンセントに縄抜けを披露している真っ最中であった。
縄抜けだけならまだしも、その際に発せられる声があまりにも状況に似つかわしくなく、声だけを聞いたら行為に及んでいるのでは、と勘違いされるのも無理はない。

「何って・・・縄抜けだけど?見てわかんない?」
「ドア開けるまで分かんねーよ!子供たちがいなかったから良かったものの、聞かれてたらどうするつもりだ・・・」
「そんなに変な声出てた?」
「変ではないが・・・な」

曖昧に答える辺り、ヴィンセントは気付いていたが敢えて放置していたようである。
なんとも質の悪い話だ。

「それよりクラウド見ててよ!これからアタシがカレ〜に縄抜けするトコをさ!」
「・・・ヴィンセント、やっている事は本当に真面目な縄抜けなんだな?」
「真面目な縄抜けだ」
「・・・」

注意するかしまいか、複雑で微妙な表情を見せるクラウドにヴィンセントは共感する。
しかし経験豊富な彼は共感こそすれどそんなものはとっくに乗り越えているので特別気持ちを共有しようとはしない。
と、そこでユフィが自力で膝の上に転がってきて後手に縛らている手をパタパタと上下に動かして促してきた。

「ヴィンセンとー、もっかい縛り直して。クラウドにアタシが縄抜けするトコ見せるんだから!」
「緩く縛っておくか?」
「んな手加減すんな!」
「では・・・」

「クラウド、ユフィたちは何して・・・」

ティファがやってきてまた会話がループする。
同じ説明を受けたティファはクラウドと同じように複雑そうな、それでいて恥ずかしそうに頬を赤らめながらどうにか言葉を絞り出した。

「その・・・やましい事・・・じゃ、ないのよね?」
「やましいもんか!れっきとした忍の技術だよ!な〜んでクラウドもティファもそんな事言うかなぁ!?」
「お前の出してる声に問題があるんだろ・・・」
「下から聞こえた時はびっくりしたわ・・・」
「それよかティファも一緒にどう?縄抜けの練習やんない?」
「え?私も?」
「何かあった時に役に立つかもしんないじゃん。このアタシがとっくべつにパフェ一個で教えてやるよ!」
「フフ、パフェが食べたいならそう言えばいいのに」

ティファがクスリと笑って近づいてきたのを察し、ヴィンセントは立ち上がって場所を譲る。
ユフィはユフィでヴィンセントが再度縛り直そうと緩めた縄を解いてそれでティファの手を縛って縄抜けの講義をする。
内容はともかくとして、女二人仲良くじゃれ合っている微笑ましい光景にクラウドがムッとしたような表情を浮かべているのに気づく。
いつもならティファがユフィや他の女性と仲良くしている姿を穏やかに見守っているクラウドにしては珍しい表情で、ヴィンセントは気になって話しかけてみた。

「・・・ティファを取られて悔しいのか?」
「・・・そうじゃない」
「では?」

クラウドは一度、ティファとユフィの意識がこちらに向いてないのを確認してからヴィンセントを手招きし、二人から少し離れると顔を寄せてひそひそ声で話しをする。

「・・・ティファが縄抜けを覚えたら簡単に逃げられちゃうだろ」
「最中であればそれどころではないと思うが」
「もしもって事がある。それに俺、あんまり縛るのは得意じゃないんだ。今まではなんとかそれっぽく縛ってやってきたんだが・・・」
「ふむ・・・では私の方から縛り方のコツを教えてやろうか?」
「出来れば頼む」

「ヴィンセンとー、クラウドー、何やってんの?」

「いや・・・」

「何もしてないならアタシとティファのこと良い感じに縛ってー」

「お前その言い方やめろ」

おかしな誤解を招くからやめて欲しい。
ユフィの言い方に呆れつつヴィンセントとクラウドはそれぞれのパートナーの元まで近づき、ロープを手にする。
それを確認してユフィもティファも縛りやすいように自分たちの手を後ろに回して縛られるのを待った。
そこでヴィンセントはクラウドと目で会話をすると無言の講義を始めた。

「・・・」

リストバンドも手甲も外されている真っ白な手首に縄を通してキツく縛る。

「んっ・・・!」

キツイ縛りに反射してユフィの背筋がピン、と伸びる。
声も相まって艶めかしく、何だかいけない事をしている気分になるが気にしない、気にしてはいけない。
ヴィンセントの見よう見真似でクラウドも同じようにティファの華奢な手首に縄をかけてキツく縛り上げる。

「んん・・・っ!」

ビクン、とティファの背筋もユフィと同じようにピンと伸びて長い黒髪が僅かに揺れる。
それがとても色っぽくて危険な香りを放っており、クラウドの理性が揺らぐ。

「・・・!」
「・・・」

耐え抜くクラウドの姿をヴィンセントは弟子や戦友を見るような瞳で見守り、静かに数回頷いて行為を続行した。

「ぅん・・・ちょっと、キツイよ!」
「スーパーくノ一とやらなら多少のキツイ縛りも大した事はないだろう」
「うっ・・・そ、そりゃぁ勿論・・・あっ!」

「く、クラウド・・・ちょっと、痛い、かな・・・」
「ご、ごめん・・・た、ただ、もしもに備えての練習だから・・・」

落ち着いている風を装っていながらもその実は興奮気味なクラウドの横顔をヴィンセントは穏やかに見守る。
これを乗り越えればクラウドも立派な―――。

「もう終わったー?」
「仕上げだ」

ぐっと力を込めて思いっきり縛り上げる。
「やあっ!」と悲鳴を響かせて背中を反らすユフィを軽く押してベッドに寝転ばせる。
その隣でも同じように縛り上げられたティファがクラウドに背中を軽く押されてベッドに寝転ばされる。
手首の縄縛りもヴィンセントと似ていてほぼ完璧で、そんなクラウドの横顔は―――やり遂げた達成感からスッキリしていた。

(境地に達したか・・・だが、そこが終着点ではない。むしろ始まりだ)

厳しくも優しく心の中でクラウドを褒めるヴィンセント。
彼の横顔もまた、言葉に出来ぬ達成感に満ち溢れていた。



そして・・・



「やぁ・・・っ・・・ん、んっ・・・きっつい、よ・・・!」

「はぁ・・・んっ!もう、ちょっと・・・なのに・・・」

ベッドの上で二人の女が縄抜けをしようと必死にもがく。
あまりにも一生懸命に取り組んでいるものだから頬は上気して赤くなり、また僅かに汗も浮かんでいて黒髪が頬や首筋に纏わり付いている。
ユフィが言い出したこと、そして自分たちが実行した事とはいえ、とんでもない試練を強いられるクラウド。
何度も口をパクパクしたり何か言いかけようと手を出してもすぐに下ろして悩み、縄抜けしようともがくティファから目が離せないでいた。
対するヴィンセントは静かであるものの、ユフィから目を逸らして聞こえないように細く長く息を吐き出す。

ただ縄抜けの練習を手伝っただけ、やましい事は何もしていない。
なのに罪悪感と征服欲が満たされるのは何故だろう。

その後、二人の試練はもうしばらく続いたと言う。










えんど

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