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□なんとかしたい
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あれからしばらく、ヴィンセントとユフィはあまり顔を合わせていなかった。
仕事の都合で話す事があってもお互い目を合わせず、手短に話を済ませて終わっている。
この微妙な空気は周りにも十分伝わっていたようで、影で不仲説が囁かれていた。
中には破局説なんてものも流れているが全くもって不愉快な話である。
自分とユフィは不仲でもなければ破局もしていない。
そもそも付き合ってすらいない。
しかし噂が流れてしまうのも当然だろう、今までユフィの方から積極的にヴィンセントに話しかけていたのに今は全くそうではないのだから。

この困った事態にはヴィンセント本人のみならず別の人物も困っていた。
それは―――

「局長命令です、ユフィさんと仲直りしてきて下さい」

WRO責任者にして局長・リーブ=トゥエスティだった。
ヴィンセントとユフィの二人に片付けてもらいたい仕事があるのに二人が頑なに組むのを拒むから思うように片付かないのだ。
リーブからの率直な申し出にヴィンセントは軽いため息を吐く。

「簡単に言ってくれるな。これは少々デリケートな問題だ」
「デリケートな問題だからこそ拗れる前に早く解決して下さいと言ってるんです。貴方がさっさと謝れば済む話でしょう」
「私とユフィの間に何があったか知ってる癖によくもそんな事が言えたな」
「さぁ?私は何があったかなんて知りませんよ。ただ噂を聞いただけです」

わざとらしく肩を竦めて見せる目の前の男が腹立たしい。
ルーイ姉妹から絶対に何があったか聞いてる癖に。
しかし、リーブの言うことも最もである。
このままほっといても解決にはならないし拗れる前になんとかしておかなければ。
最近買ったばかりのマイフォンもユフィからのメッセージが来なくてすっかり静かになっている。
お互いの為にも早く解決しよう。
直接話すと逃げられてしまうのでヴィンセントはラインを開いてユフィに二人で会って話そうと言う旨のメッセージを送った。
こんな時ばかりは文明の発達に感謝したくなる。
それから数分の間を置くこともなくユフィから返事が帰ってきた。
返事の内容は―――OKだった。

「・・・よし」

一人頷いてマイフォンを懐に入れ、会合の場へと赴いた。

















そうして訪れたのは本部から少し離れた所にあるファミレス。
本部に近い店だと他の隊員たちがいる可能性があり、またくだらない憶測が飛び交う恐れがある。
しかしユフィと会えたのは良かったものの、やはり気まずさからお互いに目を逸らしてしまい、どこか落ち着かない気分になる。
ヴィンセントは目の前のコーヒーを見つめ、ユフィはオレンジジュースを飲んで間を持たせようとする。
そんな時間が三十分くらい経過した所で、このままではダメだと思い、ヴィンセントは意を決した。

「ユフィ」
「ヴィンセント」

同時にお互いの名前を呼んで同時に固まる。
よくある話だ。

「・・・ユフィの方から言え」
「いいよ・・・ヴィンセントから言ってよ」

それでもユフィに譲ろうとしたが堂々巡りになるだろう事は容易に想像出来たのでヴィンセントはお言葉に甘えて先に話す事にした。

「・・・この間の出張は・・・すまなかった。助かったが、すまなかった」
「い、いいよ、別に・・・」
「・・・粗末な物を見せた」
「そ、粗末なんてそんな!すっごいりっぱ・・・って、何言わせんだよ!!」
「落ち着け、ユフィ」

顔を真っ赤にして立ち上がるユフィを諌めて座らせる。
と、その時、ヴィンセントたちが座ってるのとは反対の席に座ってる老夫婦がこちらに視線を向けているのに気付いた。
「何を見ている」と言った風に振り向いてやれば老夫婦は何事もなかったように前を向いて食事を続ける。
その時の

「じいさんや、キノコリゾットは美味しいのぉ」
「あぁ、立派なキノコじゃて、美味いのぉ」

という会話が物凄く腹立たしかった。

「ま、まぁ、今回の件もさ・・・お互い忘れよ?事故だったんだしさ」
「・・・お前がそれでいいのなら、そうするとしよう」
「いーのいーの!それよかさ、仲直り?出来たんだし今度ウータイに一緒に行こうよ!」
「何かあるのか?」
「七月七日、七夕だよ。美味しい屋台とか出るしイベントもあるからさ!」
「私で良いのなら」
「ヴィンセントがいいんだって」
「私が?」
「ああいやいや!何でもないっ!こっちの話!」

勢い良く顔と両手を横に振ってユフィは話をうやむやにする。
聞かれたくないというのであればヴィンセントはそれ以上追及する事はしなかった。

「そ、それより行くよね?てか絶対行くぞ!」
「ああ、分かっている。予定を空けておこう」
「やりぃ!」

さて、話も(恐らくは)丸く収まったので会合は終わりだ。
飲み物を飲み終えた二人はレシートを手に立ち上がる。
だが―――

「赤いキノコは美味しいのぉ、じいさん」
「そうじゃな、赤いキノコは立派で美味しいのぉ」

「赤い・・・立派・・・!」
「・・・忘れろ」

素知らぬ顔をする老夫婦を思いっきり睨んでからヴィンセントはユフィと共にそそくさとファミレスから出るのだった。

















END

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