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□原因を突き止めたい
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最近、ユフィが目を合わせてくれない。
それは仕事場でもオフの時でもそうであった。
話しかけたら「今忙しい」と言われ、理由を聞こうと捕まえようとしても逃げられてしまう。
挙げ句の果てには任務はしばらくは自分と組まないように調整してほしいとリーブに打診する始末。
ユフィが今までこんな風に自分を避ける事はなかったし、他の者に対しても同様の行動は見せたりしなかった。
それなのにこれは一体どうしたことか。

「で?私達に相談しに来た訳ですか?」
「そんなところだ」

食堂の端っこの席にルーイ姉妹を呼んでヴィンセントは相談を持ちかけていた。
ちなみにその前払い報酬としてシェルクはプリンを、シャルアはミルクプリンを食べていた。

「ユフィから何か話しは聞いていないか?」
「いえ、今の所は。お姉ちゃんはどうですか?」
「いや、私のところにも何も言って来てはないな」
「そうか・・・」
「いつから目を合わせてくれないんだ?」
「・・・恐らく出張に行った後から、だな」
「分かったぞ、出張先の宿でユフィを襲おうとしたんだろ」
「やはり男はケダモノですね」
「あぁ、不潔だ」
「今すぐティファに報告しましょう」
「何故そこまで話が飛躍する」
「目を合わせてくれないとなったら大体原因はこんなもんだろ。なぁ?」
「ええ」

この姉妹、タッグを組むととんでもなく面倒だ。
相談を持ちかける相手を間違えただろうか。

「報酬のプリンの分は働きますよ」
「プリンの分だけか」
「プリンの分だけです」
「それ以上の働きは追加報酬が必要になるな」
「・・・どこまでならやってくれる?」
「ユフィから話を聞くだけなら」
「報告は?」
「無いぞ。追加報酬を払うなら別だが」
「・・・何が望みだ」

呆れたようにヴィンセントが財布を取り出すと、ルーイ姉妹は勝利のハイタッチをするのだった。














あれから数日。
ルーイ姉妹に呼ばれてヴィンセントは再び食堂の端の席に座っていた。

「それで、結果は?」
「ユフィに聞こうとしたらティファに聞いてと言われました」
「そしてティファに聞き込みをした結果、とうしようもない事が分かった」
「どうしようもない事とは?」
「私たちの口から言うのは些か憚れるのでご自分の胸に手を当てて聞いて下さい」
「だが自分を責めるなよ。全部事故だったんだからな」
「では、私たちはこれで」
「待て、どういう―――」

「意味だ」と聞き終える前にルーイ姉妹はさっさかと退散してしまった。
残されたヴィンセントはただただ呆然とし、そして重く溜息を吐く。

自分の胸に手を当てて聞いてみろ?
聞いても分からないから調査を頼んだんじゃないか。
それにしても事故とは何の話だ?
思い当たるものといえば自分が逆上せて倒れかけたくらいだが。
それからユフィに聞こうとしたらティファに聞けと言われたというのにも疑問が湧く。
何故いきなりティファが出てくる?
ユフィに自分を避けるようにとティファが指示を出すなんて有り得ないし、おかしな事を吹き込む女性でもない。
2人が結びつく点があるとすれば大抵ユフィが話を持ち込んだり相談をする時・・・

(相談・・・)

ユフィは何かとあればまずティファに相談をする。
それこそ他愛の無い事から大切な事まで。
旅を共にした仲間であり友であり、姉のように慕っているのは目に見ても明らか。
だから今回のユフィが自分を避けている理由も恐らくティファには話している筈だ。
現にユフィに聞こうとしたら「ティファに聞いて」と言ったのだし。
ユフィの口からはとても言えず、しかしティファならきっと言えるもの。
それも出張前後が関係している・・・。

(変化があったのは・・・逆上せて倒れた後・・・)

記憶を手繰り寄せ、懸命に思い出そうとする。
本当に変化は倒れた後なのか?
介抱をしてくれた時はまだ普通だった。
ご飯を食べている時には既に目を合わせようとしなくなっていた。
もう少し時を巻き戻して検証しよう。
湯船で寝ていてユフィが起こしに来てくれた時。
あの時ユフィは自分の事をとても心配してくれていた。
心配してくれていて、でも大丈夫だと言って立ち上がった。
そして深呼吸してユフィの方を見たら・・・ユフィはこちらに背中を向けていた。
あれだけ心配していたのに何故?と感じた記憶がある。
切り替えの早いユフィにしてはあまりにも早すぎるし、何より不自然な気もする。
では何故ユフィはこちらに背を向けたのか?
背を向けていた時のユフィは確か耳が赤かった気がする。
当時は浴室の温度が高い所為かと思ったが、今思えば耳が赤くなるほど浴室は暑かっただろうか?
仮に暑かったとしてもこちらに背を向ける理由にはならない。
背を向けた理由、それはもっと他に何かあるのではないだろうか?
例えば何かの気配を感じたか、或いは何かから目を背けようとしたのか。

「ん・・・?」

そういえばあの時、自分は裸だった。
風呂に入っていたから当然だ。
男の、それも傷だらけの見苦しい体を見ていられなくて背を向けたのなら仕方ない。
だが重要なのはそこじゃない。
自分は裸だった。
そう、裸だったのだ。
一人で入って出るのだから当然タオルなんて腰に巻いていない。
文字通り全裸だった。

「あ」


―――ティファに聞いて

―――私たちの口から言うのは憚られる

―――全部事故だった


あらゆる情報、キーワード、当時の状況がパズルのピースとなって一つの枠に綺麗に収まっていく。
ユフィの態度にも告げられなかった事実にも全て納得がいった。
いや、いってしまった。

「・・・っ!」

ヴィンセントは珍しく赤くなっているであろう顔を片手で覆った。
恥ずかしくて穴に入りたい気持ちになったのは何年振りか。
己への呆れから溜息ばかりが出る。
今ならユフィの気持ちが判る、明日からどんな顔をして話せばいいのだ。

(見られた・・・)

とりあえず自分もしばらくはユフィと任務を組めないように調整してほしいと打診を決めるヴィンセントであった。















END

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