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□息抜きしたい
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「・・・ント・・・セン・・・・・・ヴィンセント!!」

ある種の幸福にも似た眠りから突然起こされ、ヴィンセントは珍しく驚いて瞼を開く。
だが、目の前が少し霞んで見える。
誰かの手が上下に振られているのがぼんやりと見えてその手を辿ると、ユフィの顔を捉えた。
表情は多分・・・心配しているように見える、と思う。

「ん、ぁ・・・ユフィ・・・?」
「ヴィンセント?ヴィンセント大丈夫!?生きてる!?」
「あぁ・・・」
「良かった〜。アタシが風呂から戻ってきたらいなくて、変だなって思ったらこれだよ!
 ホラ今すぐ出るよ!アンタ顔真っ赤!のぼせちゃってるよ!立てる?」
「ユフィ・・・少し静かにしてくれ。頭がクラクラする程度だから問題はない」
「いや問題あるでしょ!立てないんなら手貸すよ?」
「大丈夫だ・・・」

朦朧とする頭を抑えながらザバァっと湯船から立ち上がる。
壁に手をついてフラつく体を何とか支える。
ニ、三度深呼吸してからユフィの方を向くと、あれだけ心配していたユフィはこちらに背を向けていた。
黒髪の隙間から僅かに見える耳が赤い気がする。
そんなにこの風呂場は温度が上がっていたのだろうか。
意識があまりハッキリとしない頭では見当もつかないが、とりあえずユフィの言う通り風呂から出なければ。
ザバ、ザバっとゆっくり片足ずつ風呂から足を出して入り口に向けて歩き出そうとする。
が、意識が朦朧としていて上手く歩けないのと、不覚にも足を滑らせて体勢を崩してしまう。

「っ!?」
「え?―――わっ!?」

体勢を崩してしまった事でユフィに倒れかかりそうになり、反応が一瞬遅れたユフィは慌てて後退りをする。
しかし一度倒れ始めた体を止める事は出来ず、そのままの勢いで更に滑ってしまい、後退りしたユフィを追う形となる。

ダァン!!

ユフィの顔の両側に強く両腕を付き、滑りそうになる片足の膝を壁にぶつける事によってなんとか体を支える。
ぶつけた衝撃で腕と膝にじんとした痺れが走った。

「っ・・・すまない・・・」
「あ・・・ぁぁぁぁああああうん!!?」
「怪我は・・・ないか・・・?」
「だだだだダイジョーブ!!うん、ダイジョーブ!なんとも!ない、よ!?」
「本当に・・・大丈夫か・・・様子が、おかしい、が・・・」
「だだダイジョーブだってば!そ、それよりアタシが肩貸してあげるから風呂出るよ!!」
「あぁ・・・すまない・・・」

結局ユフィの手を煩わしてしまう事にヴィンセントは申し訳無さを感じた。
折角浴衣に着替えたというのに自分に肩を貸す事で濡らしてしまう事になって尚更。
さて、そんな事を考えている内にすぐに隣の脱衣所に到着し、そこでマットの上に座らされた。

「ちょっと待ってろよ〜」

ユフィは棚からバスタオルを四枚ほど出すと一枚をヴィンセントの下半身にかけ、もう一枚を二つ折りにして床に敷いた。

「はいヴィンセント、このタオルの上に頭置いて横になって」

促されるままに二つ折りにされたバスタオルの上に頭を乗せて横たわる。
ぼんやりと天井を眺めているとタオルを手にしたユフィが濡れた体を拭き始めてくれた。
胸板、腹、腕、脇、首筋、足・・・水滴を残さないようにユフィはしっかりと体を拭いてくれる。

「・・・すまない、ユフィ」
「いーっていーって。気にすんなって」
「後は自分一人で何とか出来る・・・だから部屋に戻っていい」
「ど〜見ても一人で何とか出来そうには見えないけど?」

バサッと体にタオルをかけられ、冷たい水で絞ったタオルを額に乗せられる。
逆上せた頭に水を絞ったタオルはとても気持ちが良かった。

「・・・折角の自由時間が無駄になるぞ」
「その自由時間をどう使うかはアタシの自由じゃん」
「確かにそうだが・・・」
「アンタは余計な事気にしないで甘えてればいーんだよ!」

言いながらユフィは別のタオルを水で濡らして絞ると今度はそれをヴィンセントの首や脇に当ててくれた。

「にしてもヴィンセントが逆上せるなんて珍しいね」
「ゆっくり浸かっていたらいつの間にか寝ていた」
「湯船浸かってると眠くなってくるもんね〜。でもだからってガチで寝るのはどーよ?」
「次からは気をつける」
「ホントに気をつけろよ〜。今回はたまたまアタシが一緒にいたけど一人の時だと危ないぞ」
「いつもはシャワーで済ましているから問題ない」
「シャワーで済ましてるから油断して湯船で寝たんじゃないの〜?」

痛い所を突かれて言葉も出ない。
まさかユフィに言い負かされる日が来ようとは。

「それより調子はどう?良くなった?」
「ああ、大分良くなった・・・ありがとう」
「うっ、相変わらず調子狂うなぁ・・・」
「何がだ?」
「な、なんでもない!それよりアタシ、着替えてくるけどいい?」
「ああ」

濡れた浴衣を着替えるべく、ユフィは脱衣所を出て部屋へと消えた。
その間にヴィンセントは起き上がれるようになり、なんとか着替える事に成功した。
それからしばらくは部屋で横になって安静にし、夜ば運ばれてきた夕食に舌鼓を打った。
名物の鯛めしや肉料理はとても美味かった。
だが、きのこ料理が出された時にユフィの顔が真っ赤になってそれ以降、目を合わせてくれなくなったが・・・どうしたのだろうか?


小さな疑問を覚えつつもヴィンセントはその日を終えるのであった。










END
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